Netpress 第1611号 税務調査で指摘されやすいポイント 棚卸資産に関する税務上の取り扱い
1.棚卸資産の取得価額には、購入代価または製造費用のほか、運賃などの付随費用を算入します。
2.棚卸資産の実地棚卸にあたっては、「税務上、事務用消耗品等も棚卸資産に含まれる」「帳簿棚卸高との差異が発生していないか、発生している場合にはその理由を確認する」ことに留意が必要です。
3.棚卸資産評価損は、税務上、一定の要件を満たす場合にのみ、損金算入が認められます。
マネージャー 税理士 中村 圭江
1.取得価額に関するポイント
(1)購入した棚卸資産の取得価額
①取得価額に算入する費用
棚卸資産の取得価額には、購入代価のほか、下記に掲げるような棚卸資産を消費しまたは販売するために直接要した付随費用も原則として含める必要があります。
ア.買入事務、検収、整理、選別、手入れ等に要した費用の額
イ.販売所等から販売所等へ移管するために要した運賃、荷造費等の費用の額
ウ.特別の時期に販売するなどのため、長期にわたって保管するために要した費用の額
②取得価額に算入しないことができる費用
上記ア~ウの費用の合計額が少額である場合(購入代価のおおむね3%以内)には、取得価額に算入しないことができます。また、棚卸資産を保管するために要した費用(保険料を含む)のうち、上記ウ以外の額については、取得価額に算入しないことができます。
さらに、不動産取得税、固定資産税および都市計画税、特別土地保有税、登録免許税その他の登記・登録費用、借入金の利子などは、棚卸資産の取得または保有に関連して支出するものであっても、取得価額に算入しないことができます。
(2)製造した棚卸資産の取得価額
①取得価額に算入する費用
製造した棚卸資産の取得価額には、製造に要した費用のほか、下記に掲げるような棚卸資産を消費しまたは販売するために直接要した付随費用も原則として含める必要があります。
ア.製造等の後において要した検査、検定、整理、選別、手入れ等の費用の額
イ.製造場等から販売所等へ移管するために要した運賃、荷造費等の費用の額
ウ.特別の時期に販売するなどのため、長期にわたって保管するために要した費用の額
②取得価額に算入しないことができる費用
上記ア~ウの費用の合計額が少額である場合(製造原価のおおむね3%以内)や、棚卸資産を保管するために要した費用(保険料を含む)のうち上記ウ以外の額については、取得価額に算入しないことができます。
2.実地棚卸に関するポイント
(1)貯蔵品の取り扱い
税務上、棚卸資産には、商品や製品等のほか、「消耗品で貯蔵中のもの」が含まれます。したがって、事務用消耗品や広告宣伝用印刷物等も実地棚卸を行う必要があります。
ただし、毎期おおむね一定数量を取得し、経常的に消費している事務用消耗品等については、継続して取得の日の属する事業年度に損金算入を行っている場合には、その処理が認められます。
(2)実地棚卸高と帳簿棚卸高の差異分析
期末における棚卸資産の実地棚卸高と帳簿棚卸高との差異分析を行うことによって、棚卸資産の過少計上や売上の計上もれを把握することも可能となります。実地棚卸は資産管理や財務諸表の適正表示を行うために非常に重要な手続きです。差異分析は、下記に掲げるような点に留意して行います。
ア.当期に計上した売上に対応する売上原価が過大に計上されていないか(棚卸資産の過少計上が発生していないか)
イ.棚卸資産の出荷や引渡しをすでに行っており、売上を認識しなくてはならない取り引きはないか
ウ.取引先等に預け在庫は生じていないか
3.棚卸資産の処分に関するポイント
廃棄の事実や廃棄を計上した事業年度の妥当性を立証するための証拠書類を残しておくことが重要です。廃棄業者から廃棄証明書を取得する、社内証明書類(稟議書等)を作成する等して証拠書類を残しておきます。
4.棚卸資産の評価に関するポイント
(1)棚卸資産の評価方法
税務上認められる評価方法は下記のとおりです。
ア.原価法……個別法、先入先出法、 総平均法、移動平均法、最終仕入原価法、売価還元法
イ.低価法……上記の原価法によって評価した金額と、期末時点の時価のうち、いずれか低い方の金額をもって評価する方法
1回選択した評価方法は合併・会社分割等の特別な理由がある場合を除き、3年間は継続しなくてはなりません。また、3年経過した場合であっても合理的な理由がないと変更できません。
評価方法の選択に関する届出書の提出をしなかった場合には、最終仕入原価法による原価法で評価を行います。最終仕入原価法は、期末在庫数量に最終仕入単価を乗じて期末棚卸資産を評価するものであり、実務的に非常に簡便である一方、実際の取得原価ではなく時価に近い価額での評価となります。
(2)棚卸資産の評価損
税務上、棚卸資産の評価損は、次に掲げる事実が生じたときのみ損金算入が認められます。棚卸資産の時価が、単に物価変動、過剰生産、建値の変更等の事情によって低下しただけでは、評価損の損金算入は認められないので注意が必要です。
ア.当該資産が災害により著しく損傷したこと
イ.当該資産が著しく陳腐化したこと
ウ.上記アまたはイに準ずる特別の事実(破損、型崩れ、たなざらし、品質変化等により通常の方法によって販売することができなくなったことなどが含まれます)
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