Netpress 第2357号 『年収の壁・支援強化パッケージ』 その概要とポイントを5分で把握する!
1.政府から『年収の壁・支援強化パッケージ』が発表された背景と、具体的な壁の内容について確認します。
2.そのうえで、年収の壁に対する施策について、基礎知識を整理し、どのように活用するかを解説します。
多田国際社会保険労務士法人
社会保険労務士
石田 敦子
1.『年収の壁・支援強化パッケージ』が発表された背景
少子高齢化等による人手不足への対応が急務となるなかで、2022年の社会保険の適用拡大や賃上げを背景に「年収の壁」が注目を集めています。
「年収の壁」とは、短時間労働者に税や社会保険の負担が生じる基準のことをいいますが、今回は社会保険の施策について解説します。
まず、具体的な「年収の壁」といわれている基準は2つあります。
●1つ目の壁……130万円の壁
家族の扶養内で働いていた人が「年収130万円以上」になると扶養から外れ、勤務先で社会保険に加入するか、国民年金・国民健康保険に加入するか、そのいずれかで社会保険料の負担が発生する分岐点となります。
●2つ目の壁……106万円の壁
現在、従業員数が常時101人以上の企業の短時間労働者は、「年収106万円」「週所定労働時間が20時間以上」等の要件を満たす場合、社会保険の被保険者となります。この基準が「106万円の壁」といわれており、2024年10月からは従業員数51人以上の企業にまで適用が拡大されます。
このような保険料負担に伴う手取り収入の減少を意識し就業調整をしていることが、日本の労働力不足の要因の1つと指摘されています。
この「年収の壁」を意識せずに働くことができる環境づくりを進めるための施策が、『年収の壁・支援強化パッケージ』ということになります。
2.130万円の壁に対する施策
家族が被扶養者として認定される際に、「年収130万円未満であること」という基準がありますが、その要件に特例(事業主の証明書による被扶養者認定)が設けられました。
これは、一時的に収入が増加した場合において、一時的な収入変動である旨を事業主が証明することにより、引き続き扶養でいられるという特例です。
その具体的な事由としては、大口案件の受注による業務量の増加といった、あくまでも一時的・臨時的な事情であることとされています。
なお、健康保険組合については、独自の認定ルールがありますので、詳細は別途ご確認ください。
Q1:証明書による扶養認定は、どの程度できますか?
➡ A1:連続2回まで、年1回証明の場合は2年間です。
Q2:一時的な収入の増加として認められるのは、どの程度まででしょうか?
➡ A2:新たな年収の壁問題になりかねないとして、上限は定められていません。
Q3:税金の扶養控除についても適用されますか?
➡ A3:税制度については適用になりません。
3.106万円の壁に対する施策
(1)社会保険適用促進手当
短時間労働者が社会保険に加入することで保険料負担が発生します。その負担を軽減するために事業主が支給する手当を「社会保険適用促進手当」と呼び、当面の間、本人負担分の保険料相当額を上限として、保険料算定の基礎(標準報酬月額や標準賞与額)に含まないとしています。
【対象者】
新たに社会保険の適用となり、標準報酬月額が104,000円以下の人が対象となります。
事業所内での労働者間の公平性を考慮するため、同じ条件で働く社会保険加入済の労働者に同水準の「社会保険適用促進手当」を特例的に支給する場合も対象となります。
【措置の対象期間】
保険料算定の基礎に考慮しない期間は、「社会保険適用促進手当」を実際に支給した月から2年間が上限となります。支給開始から2年を経過した後は、標準報酬月額等の算定に含めることになるため、継続して支給する場合は、「社会保険適用促進手当」以外の名称で支給するのが望ましいとされています。
また、支給を取りやめる場合には、いわゆる「不利益変更」に該当するため、あらかじめ就業規則に一定期間の支給である旨を規定しておく必要があります。
【支給額と支給方法】
支給額は本人負担分の保険料額が上限となり、各被保険者により異なります。
支給のタイミングや方法については、事業主が決定することができますが、選択した支給方法により給与事務の処理が異なります。
たとえば、毎月支払う場合には、割増賃金の算定基礎に算入されるので、支給方法は慎重に検討してください。
(2)キャリアアップ助成金
社会保険を適用する際に、労働者の手取り収入が減少しないよう、労働者の収入を増加させる取り組みを行う事業主への助成として、「社会保険適用時処遇改善コース」が新設されました。詳細は、厚生労働省のホームページ(「キャリアアップ助成金(社会保険適用時処遇改善コース)」)をご確認ください。
4.最後に
企業が独自に設けている配偶者手当など、家族の扶養を支給事由とした手当が就業調整の一因になっている現状があるため、扶養手当を見直す取り組みも進んでいます。手当の廃止や縮小は不利益変更となる可能性もあるため、厚生労働省のフローチャート(https://www.mhlw.go.jp/content/11200000/001158785.pdf)や事例集などを参考に、慎重に行いましょう。また、今回の『年収の壁・支援強化パッケージ』は時限的な施策であるため、今後も注意深く動向を見ていく必要があります。企業としては、人手不足の対応としてだけではなく、助成金の活用なども検討しながら、社会保険加入のメリットを周知するなど、引き続き環境の整備が求められていくことになるでしょう。
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