Netpress 第2353号 4月からルールが変わる! 裁量労働制の改正 事業所に求められる対応は?

Point
1.専門業務型裁量労働制の労使協定に「本人同意の取得・同意の撤回の手続を定めること」が追加されます。
2.企画業務型裁量労働制の労使委員会の運営規程に記載すべき事項・決議事項が追加されます。
3.適用労働者の健康・福祉を確保するための措置(健康・福祉確保措置)が拡充されます。


社会保険労務士法人トムズコンサルタント
特定社会保険労務士
木村 健太郎


裁量労働制は、業務の性質上、その遂行の方法を大幅に適用労働者に委ねる必要があるため、業務の遂行の手段と時間配分の決定等に関し、使用者が具体的な指示をすることが困難な業務等を労使協定で定め(企画業務型裁量労働制の場合は「労使委員会で決議」し)、あらかじめ定めた時間労働したものとみなす制度です。


裁量労働制に関するルールが改正され、2024年4月1日から適用されます。本稿では、制度趣旨に沿った適正な運用とするために、新たに追加された労使協定事項や決議事項等の内容とその他運用の留意点について解説します。

1.本人同意の取得・同意の撤回の手続の定め【専門業務型】

労働者が制度について十分に理解し、自主的・主体的に働き方を選択できることについて制度的に担保する必要があることから、専門業務型裁量労働制の導入においても、労働者本人の同意を得なければならなくなりました。


また、労使協定で定める事項に、次の事項が追加されました。


① 労働者本人の同意を得ること
② 同意をしなかった場合に不利益な取り扱いをしないこと
③ 同意の撤回に関する手続


①の労働者本人の同意については、労働者ごとに、かつ、労使協定の有効期間ごとに得る必要があります。


また、ア)労使協定の内容等の制度の概要、イ)同意した場合に適用される賃金・評価制度の内容、ウ)同意しなかった場合の配置と処遇の3点について、労働者に明示したうえで説明を行い、当該労働者の同意を得ることが適当とされています。


なお、十分な説明がなされなかったこと等により、当該同意が労働者の自由な意思に基づいてされたものとは認められない場合は、労働時間のみなしの効果は生じないこととなることに注意が必要です。


②の不利益な取り扱いかどうかについては、個別事情に応じて判断されることになります。


あらかじめ労働契約や就業規則等の内容として、適用労働者と非適用労働者の等級とそれに基づく賃金額や、適用労働者のみが支給対象となる手当が定められている等の場合には、同意をしなかった場合の労働条件は当該労働契約等の内容に基づいて決定されるため、これが直ちに不利益取り扱いに当たるものではありません。


③の撤回の手続については、撤回の申出先となる部署、担当者、撤回の申出の方法等の具体的な内容を明らかにすることが必要です。


撤回を申し出る時期について、たとえば「○日前までに同意の撤回を申し出る必要がある」等の定めをすることは可能ですが、労務管理上の手続において必要な一定期間に限られると解され、必要以上に長い期間を設定することはできません。

2.労使委員会の運営規程の記載事項・決議事項の追加【企画業務型】

労使委員会の運営規程に記載すべき事項に、次のものが追加されました。


① 労使委員会への賃金・評価制度の内容の説明に関する事項
② 制度の趣旨に沿った適正な運用の確保に関する事項(制度の実施状況の把握の頻度や方法など)
③ 開催頻度を6か月以内ごとに1回とすること


また、労使委員会の決議事項に、次のものが追加されました。


① 同意の撤回の手続
② 賃金・評価制度を変更する場合に、労使委員会に変更内容の説明を行うこと

3.健康・福祉確保措置の拡充

専門業務型、企画業務型のいずれにおいても、選択して実施する健康・福祉確保措置の具体的内容について、次の赤字の事項が追加されました。


(1)長時間労働の抑制や休日確保を図るため、各事業場の適用労働者全員を対象とする措置

勤務間インターバルの確保

深夜労働の回数制限

労働時間の上限措置(一定の労働時間を超えた場合の制度の適用除外)
<従来の措置>

年次有給休暇について、まとまった日数を連続して取得することを含めた取得促進
(2)勤務状況や健康状態の改善を図るため、個々の適用労働者の状況に応じて講じる措置

一定の労働時間を超える対象労働者への医師の面接指導
<従来の措置>

代替休日または特別休暇の付与

健康診断の実施

心とからだの健康問題についての相談窓口の設置

適切な部署への配置転換

産業医等による助言・指導または保健指導


健康・福祉確保措置の協定(決議)にあたっては、上記①~⑩のいずれかを選択し、実施することが適切とされていますが、(1)の措置の中から一つ以上、かつ、(2)の措置の中から一つ以上の実施が望ましいとされ、特に(1)の③労働時間の上限措置を実施することが望ましいとされています。


③の「一定の労働時間」の時間数は、長くとも、時間外・休日労働時間が月100時間未満、2~6か月平均80時間以内で設定することが適切とされています。


ただし、⑤に係る「一定の労働時間」の時間数については、「週40時間を超える労働時間が月80時間」を超えて設定することは認められません。


◎協力/日本実業出版社
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