Netpress 第2352号 再活躍を促すために ミドル・シニア人材の配置転換と教育の進め方

Point
1.人材の採用がますます困難になるなか、事業改革や組織活性化に効果的なのが人材の配置転換です。
2.新しい挑戦に消極的になりがちなミドル・シニア人材の配置転換、教育方法等について解説します。


シンメトリー・ジャパン代表
米マサチューセッツ大学MBA講師
木田 知廣

1.中小企業で必要なミドル・シニアの配置転換

昨今、企業における人手不足が深刻化しています。特に、賃金・待遇面において余裕のない中小企業では、その傾向が顕著になっています。


新しい人材の採用が難しい状況下では、現有の人材、なかでも新しい仕事に対する情熱が薄く、くすぶりがちなミドル・シニア人材に再び活躍してもらうほかありません。


中小企業における「ミドル・シニア人材の再活躍」と聞いて、筆者が思い浮かべるのはプロ野球の名監督、故・野村克也氏です。「野村再生工場」の名の下に、他チームの戦力外選手や、出場機会に恵まれない選手をトレードで積極的に獲得し、助言や指導により再活躍できる場を与える手法には定評がありました。


野村再生工場のポイントを筆者なりにまとめると、「観察」「対話」「教育」という3点に集約されると考えます。


本稿では、この「観察」「対話」「教育」を踏まえて、配置転換するミドル・シニア人材の見極め、本人への伝達、そして配置転換教育という流れで解説を進めていきます。

2.配置転換の際に重要な「観察」とは?

野村克也氏は、著書の中で「人材再生のための第一歩は観察である」と説いています。「先入観や固定観念を排して徹底的に選手を観察する」――企業における配置転換も、まったく同じであると筆者は考えます。


では、何を観察すればよいのでしょうか。もちろん、本人のやる気や能力、適性もありますが、こと中小企業においては「上司との関係」を観察することが重要です。


中小企業の場合、制度としてのジョブローテーションがないことも多く、ミドル・シニアを含めて、そりが合わない上司の下で実力を発揮できない人材が出てしまいがちです。いまの上司からは「能力が低い」「やる気が感じられない」と思われていた人材が、別の上司の下では能力を発揮して貢献する、ということはあるものです。


なお、観察は当然ながら上司にも及びます。つまり、「課長の○○さんは、シニア人材を持ち上げながら使うのがうまい」「□□さんは、ミドル人材を指導して成長させるのがうまい」など、「その上司にはどのようなタイプの人材が合うのか」も把握しておきましょう。


ミドル・シニア人材と上司への観察を踏まえ、「あの上司の下に、あの人材を配置すればうまくいくのではないか」という組み合わせが見つかれば、それを第一歩として配置転換を考えるようにします。

3.「対話」で納得感と危機感を醸成する

配置転換にあたって、異動対象者との対話は非常に重要です。定常的な配置転換ではない場合、ミドル・シニア人材によっては、「この異動は退職勧告なのか」と受け止めかねません。


そうではなく、あくまでも「本人のさらなる活躍を意図したもの」であることを納得してもらうために、必要であれば複数回の対話の場を設け、人事部門から本人に伝える必要があります。


とはいえ、ここで「甘い言葉」だけを並べてしまうと、「適切な危機感」を持たせることが難しくなります。そのため、異動対象者との対話は、次のように進めていく必要があります。


▼いまの働きぶりでは、会社が期待する成果を上げていない
▼この状況を変えるために、配置転換したい
▼新たな仕事に適応するための時間と教育を提供する
▼会社は「あなたならできる」と期待している


なお、異動対象者との信頼関係が築けていない場合、パワハラ・セクハラの申し立てをされることもあり得ます。場合によっては、第三者に面談の場に同席してもらうことも検討しましょう。

4.配置転換後の「教育」はアウトプット型で

中小企業の配置転換においても「教育」、特に「再教育」は重要な意味を持ちます。最近は「リスキリング」というキーワードで、経営の重要課題とも認識されています。


たとえば、従来型の営業職から、デジタル技術を用いた新規顧客開拓の部署に異動させたとしましょう。


この場合、まずはいままで経験したことのない部署・仕事に関する知識を身に付けてもらわなければなりません。しかし、研修や外部セミナーに参加させても、ミドル・シニア人材はなかなか学びが進まないのが実情です。「この歳で新しい仕事に取り組むのは……」「デジタルは苦手で……」といった言い訳をしてしまいがちです。


この壁を乗り越える秘訣が「アウトプット型」学習で、受講した本人に「行動してもらう」学習法です。


「行動してもらう」学習法の第一歩としてお勧めなのが、研修・セミナーに参加した後にレポートを書いてもらうことです。


最初は、下に示したサンプルのように、会社が指定した様式を埋めるだけでもかまいません。受講直後に目に見える形で成果物ができたという達成感が「自己効力感」、すなわち「目標を達成するための能力を自らが持っていると認識すること」につながります。


■典型的な研修後レポートフォーマット



あわせて、配置転換を告げる面談の際にも必要だった「適切な危機感」を持たせるための継続的な仕組みを構築しましょう。それが、上司によるレポートのチェックです。


ミドル・シニア人材に限らず、学びが進まない人や、あるいは仕事の成果が上がらない人は、上司とのコミュニケーションが決定的に足りていないものです。


本来であれば、すぐに上司にアドバイスを求めるべきですが、くすぶっているミドル・シニア人材は、なかなかそうすることができません。


そこで重要になるのが、提出されたレポートに対する上司からのコメントです。「この指摘は的を射ています」というポジティブなものだけでなく、「この文章からは、○○さんの言いたいことが読み取れませんでした」など、上司の、あるいは会社側の期待値に対して、足りていない部分を本人に認識してもらいましょう。


なお、前提として、厳しいことを言えるだけの信頼関係の構築が必要であることは当然です。



「Netpress」はPDF形式でもダウンロードできます

SMBCコンサルティング経営相談グループでは、税金や法律など経営に関するタイムリーで身近なトピックスを「Netpress」として毎週発信しています。過去の記事も含めて、A4サイズ1枚から2枚程度にまとめたPDF形式でもダウンロード可能です。

PDF一覧ページへ

プロフィール

SMBCコンサルティング株式会社 ソリューション開発部 経営相談グループ

SMBC経営懇話会の会員企業様向けに、「無料経営相談」をご提供しています。

法務・税務・経営などの様々な問題に、弁護士・公認会計士・税理士・社会保険労務士・コンサルタントや当社相談員がアドバイス。来社相談、電話相談のほか、オンラインによる相談にも対応致します。会員企業の社員の方であれば“どなたでも、何回でも”無料でご利用頂けます。

https://www.smbc-consulting.co.jp/company/mcs/basic/sodan/


受付中のセミナー・資料ダウンロード・アンケート