Netpress 第2087号 いま押さえておきたい 「新・収益認識会計基準」の内容と企業の対応

Point
1.「新・収益認識会計基準」が、大企業で、ことし4月以後に開始する会計期間から適用されます。
2.その影響は中小企業にも及ぶことから、いま押さえておきたい収益認識のポイントを解説します。


公認会計士・税理士 清水 寛司


1.「収益認識に関する会計基準」とは


売上はいつ、どのように、どのような金額で計上されるのでしょうか。この根本的かつ単純な問いに、これまでの会計基準は具体的に答えていませんでした。


唯一にして最大の原則が、企業会計原則に規定される「実現主義」です。財貨または役務の提供を受けて、対価としての現金(または現金等価物)を受領したときに売上を計上するという原則です。


しかし、物を仕入れて売るような単純な取引であればこれでよいのですが、実務では非常に複雑な取引がいくつも出てきます。そのため、企業によって幅のある会計処理となっていました。売上について、包括的な基準が必要な状況が続いていたのです。そこで、国際的な基準と足並みを揃える形で、冒頭の疑問に明確に答える「収益認識に関する会計基準」の制定・公表に至りました。


新・収益認識会計基準は、大企業で、ことし4月以後に開始する会計期間から適用されます。大企業は、同基準適用のために契約書の見直し・契約条件の見直し・会計処理の見直しなどに着手しています。大企業と取引がある中小企業も、契約書の記載内容や取引内容の見直しが必要になる可能性があります。不利な条件での契約を防ぎ、取引相手の要望に応えることができるよう、新・収益認識会計基準の大枠を押さえておきましょう。


2.新・収益認識会計基準の5つのステップ


新・収益認識会計基準には、5つのステップがあります(下図参照)。ポイントは、「いくらで」「いつ」「どのように」売上を計上するかです。




■ステップ1・2


ステップ1・2では、「どのように収益を認識していくか」を決めます。


ステップ1

「契約の識別」は、「そもそも契約と認められたものを売上に計上しましょう」という段階です。売上の対象となる契約は、次の5つの要件をすべて満たす契約です(1つでも満たさなければ売上に計上できません)。


①書面、口頭、取引慣行等により契約を承認し、義務履行を約束している
②財またはサービスに関する各当事者の権利を識別できる
③支払条件が決まっている
④契約に経済的実質がある
⑤対価を回収する可能性が高い


ステップ2

「履行義務の識別」では、ステップ1で識別した契約のなかに「何個の約束事があるか」を決めます。


1つの契約のなかで、複数の取り決めがあることは実務上よくあります。たとえば、家電を購入する際は、一般的に5年保証や10年保証を付けて購入します。家電を購入するという1つの契約のなかに、2つの約束事(=履行義務)があるのです。このように、約束事を区分するのが「履行義務の識別」です。
そして、これ以降のステップで決定される売上高は、約束事(履行義務)単位で認識していきます。


■ステップ3・4


ステップ3・4は、具体的に「いくらで収益を計上していくか」を決めるプロセスとなります。


ステップ3

「取引価格の算定」では、「そもそも対価の金額はいくらか」を確認します。


取引価格は、財またはサービスの顧客への移転と交換に企業が権利を得ると見込む対価の額です。


通常の取引であれば、契約書に記載されている金額が取引価格ですから、何も考えずに次のステップに進みます。ただし、シンプルな契約ではないパターンの場合は、「取引価格」についてじっくり考えていくことになります。


ステップ4

「履行義務への取引価格の配分」は、「対価1つひとつの約束事ごとに配分しましょう」という基準です。売上は、約束事(履行義務)が完了するたびに計上されることになります。


約束事1つひとつの金額がない場合は、市場の状況から見積もる、競合他社の製品を参照する、予定原価に利益を加算した金額を設定する等の方法を用いて金額を算定することになります。


■ステップ5


最後のステップ5

「履行義務の充足による収益認識」では、決定した収益の金額を「いつ計上するか」を決めます。売上の計上パターンは、「①一時点で収益認識」と「②一定期間で徐々に収益認識」の2つがあります。


3.実務に影響するポイント


ステップ1〜5のいずれか1つのステップでも従来と異なる処理になる場合、最終的な売上高が異なる結果になることがポイントです。


「90日間返品無料」(返品権付販売)でカメラを販売したケースを例に、具体的にみていきましょう。


たとえば、売価1万円、原価7,000円(1個当たり利益3,000円)のカメラを100個販売し、経験上、90日以内の返品は100個中5個程度と見込まれるとします。


これまでは、商品販売時に売上100万円(売価1万円×100個)が計上され、返品分については返品調整引当金1万5,000円(利益3,000円×5個)を別途計上する処理が一般的でした。


一方、新・収益認識会計基準では、返品想定分5個は取引価格に含まない(=売上計上ができない)ので、売上95万円(売価1万円×95個)となります。5個分については販売済ですが、将来的に返金する義務がある負債と捉えます。そのため、同じ取引にもかかわらず、これまでの会計処理と比べて売上高が5万円も減少します。


ほかにも、期間配分の方法変更による単年度売上高が変動する事例などがあります。取引内容の見直しを図る企業もあり、実務上の影響も大きいので注意が必要です。



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