Netpress 第2346号 経営陣のリーダーシップが重要 クライシスマネジメントとしての企業不祥事対応について

Point
1.企業経営上のリスクにはさまざまなものがありますが、ハラスメントや横領等の不正、違法行為等が公になれば、企業の不祥事として取りあげられることになります。
2.不祥事が起きないようにすることは当然として、不祥事が発生した場合に、その被害をいかに最小限に抑えるかということも重要です。
3.不祥事対応において経営陣の役割は非常に重要です。有事のみならず、平時においても経営陣が主体的に取り組むべきです。


岡村綜合法律事務所
弁護士 加藤 公司
弁護士 久保諒太郎


1.不祥事対応の重要性

企業経営上のリスクには、地震や台風等の天変地異、コロナ等の疫病、戦争等の地政学リスクなど、さまざまなものがあります。


その1つとして、役職員によるハラスメントや横領等の不正、違法行為等が挙げられます。これらは、その存在が社外の知るところとなれば、不祥事として取りあげられることになります。


昨今は、こうした企業の不祥事が後を絶たず、ソーシャルメディアによって瞬く間に広がり、ひとたび対応を誤れば、企業イメージ等に深刻なダメージを与えます。最悪の場合には、取引関係の終了や廃業等の企業の存続にまで影響を及ぼすクライシス(危機)に発展します。


企業の不祥事は決して他人事ではなく、初期段階のものを含めれば、各企業に内在すると考えられます。こうした不祥事が起きないようにすることは重要ですが、発覚した不祥事に対して被害が最小限となるように対応(マネジメント)することも重要です。


ここでは、クライシスマネジメントとしての企業不祥事への対応について、最低限押さえておきたいポイントを説明します。

2.発覚後の有事対応について

不祥事を探知した場合、まずは速やかに不正、違法行為等の内容・経緯、発生原因やその結果(将来の想定分も含みます)に関する事実調査及び違法性・不当性の有無や程度の評価が必要です。


ここにおいては、客観的資料の確認・保全、関係者へのヒアリングによって、事実関係の解明と原因の究明を徹底的に行わなければなりません。


中途半端な調査や、調査結果の公正中立性に後日疑問を生じさせるような調査は禁物です。こうした不適切な調査が「隠蔽」と揶揄されて、さらなる世間の反発を招き、結局、再調査等といったより多くのリソースの追加投入に至ったケースもまま見受けられます。


また、不祥事の背景には、役員・上司の関わりや長年の社内慣行に基づく組織的な課題があることも少なくないのですが、その場合、社内構成員のみでは十分な調査をすることは難しいと考えられます。


このような場合には、早期に、客観性・専門性のある社外の専門家(弁護士等)を含めた調査体制の構築を検討すべきです。

3.「備えあれば憂い無し」

経営陣の立場からは、不祥事は「想定外」であり、事後対応しかないと言いたくなるところです。しかし、それを敢えて想定し、万一、不祥事を認識した場合には、どのような有事対応をするかをあらかじめ定め、規程等で「見える化」しておくことが重要です。


手順としては、次のような点をあらかじめ具体的に検討して確定することになります(クラシスマネジメント・プランの策定)。



誰の指揮のもと、どのような人員で、どのような調査をするか(権限・責任の所在)


調査状況や結果のとりまとめやその後の意思決定等を社内でどのように行い、伝達するか(意思決定手順、連絡・報告方法)


外部発表の要否と、外部発表を行う場合には、誰が、どのように、どのような内容の発表を行うか(広報活動等)


こうした事前の想定と手続の策定、規程化等に関しては、社外の専門家(弁護士等)の知見を得ることが有益と考えます。

4.誰がクライシスマネジメントを主導すべきか

不祥事を知った世間は、経営陣の一挙手一投足に注目します。


この場合、経営陣自らが率先し、企業が一丸となって真摯にクライシスに対処するというスタンスを示すことが何より重要です。


しかしながら、この点に関する対応ミスが昨今多く見られます。記憶に新しいところでは、そもそも記者会見を開催しようとしなかった、記者会見に経営トップが現れなかった、記者会見で的外れな発言したといったケースが挙げられます。結果として、これらの企業に対する社会の目は、より一層厳しいものとなってしまいました。


逆に、経営陣の行動が評価された例としては、1980年代に発生した医薬品メーカーにおける毒物混入事件が挙げられます。


この事件では、同社製のカプセルの服用者が複数名死亡したとの報告を受けた経営陣が、すぐに徹底的な情報公開、全国主要紙による使用中止を求める広告、製品回収、専用窓口の設置等を行い、事件後には、新たな安全包装を実施しました。こうした一連の行動は消費者に高く評価され、同社の薬のシェア率はV字回復しました。


このように、経営陣のリーダーシップのもとで不祥事に対処していくというスタンスを示すことで、単に被害を最小限に抑えるということに留まらず、企業にとってポジティブな効果まで得ることもできるのです。


ただ、現実には、不祥事対応という一見「後ろ向き」の業務に取り組むことの重要性を経営陣に理解してもらうのは簡単ではないと思われます。


このような経営陣に対し、不祥事対応の難しさ、経営陣の意思と態度が対外的にも極めて重要であることを伝える際、外部の専門家の登用も有効と考えます。



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