Netpress 第2340号 できることからすぐに改善を! LGBTQ+当事者が職場で直面する課題と企業の対応
1.2023年6月に、性的少数者に対する理解を広めるためのLGBT理解増進法が施行されました。
2.LGBTQ+当事者が職場で直面する課題と、その解決のために企業に求められる対応について解説します。
社会保険労務士
手島 美衣
LGBT理解増進法(性的指向及びジェンダーアイデンティティの多様性に関する国民の理解の増進に関する法律)が、2023年6月23日に施行されました。
同法により、事業主は労働者の理解の増進に努め、その雇用する労働者に対して、性的指向やジェンダーアイデンティティの多様性に関する理解を深めるための情報の提供、研修の実施、普及啓発、就業環境に関する相談体制の整備その他の必要な措置を講じるよう努めるものとされました。
以下では、当事者が直面する課題と企業に求められる対応について解説します。
1.LGBTQ+とは
LGBTとは、Lはレズビアン(Lesbian:女性同性愛者)、Gはゲイ(Gay:男性同性愛者)、Bはバイセクシュアル(Bisexual:両性愛者)、Tはトランスジェンダー(Transgender:身体的性別と自認する性別が異なる人)の頭文字から付けられた性的少数者の総称です。
さらに、性自認や性的指向が決められない、あるいは迷っているクエスチョニング(Questioning)、誰に対しても性的欲求を持たないアセクシュアル(Asexual)、自分の性が男女の枠にとらわれないと自認しているXジェンダー(X-Gender)等、LGBT以外の性的少数者が存在します。
そのため、最近ではこれらの性的少数者を示す言葉としてのクイア(Queer)を加えて、LGBTQあるいはLGBTQ+といった表記を用いることが増えてきています。
また、近年では「SOGI(ソジ)」という言葉が主流になりつつあります。これは性的指向(Sexual Orientation)、性自認(Gender Identity)の略で、性に関する属性のすべてを包括し、誰もが当事者となる概念です。
男女雇用機会均等法により、性別を理由として故意に差別をする企業は少なくなっているものの、LGBTQ+当事者らは、職場で自分らしく振る舞えないことや、自認する性での社会生活が送れない等の困難に直面しています。
LGBT理解増進法が施行されましたが、社会全体で活発に議論を重ね、知識をアップデートするとともに、人を人として尊重するという基本的人権に意識的となることが重要です。
2.職場での理解を促すための取り組み
職場での理解を促すために求められる具体的な取り組みとポイントを紹介します。社会情勢や社内の理解度に合わせて、できることから取り組むことが大切です。
(1)社内啓発等
一度や二度の研修だけでは、時間の経過とともに記憶が風化してしまいます。社内勉強会やグループ活動等で、継続的に学ぶ機会を設けることが望まれます。
(2)事業主の方針の明確化
差別等は絶対に許さないなど、事業主がトップダウンのメッセージを示すことが重要です。
(3)カミングアウトを受けた場合
過去には、性的指向の暴露(アウティング)が原因の精神疾患の発症が労災認定された事例もあります。カミングアウトを受けた場合に絶対にしてはいけないことは、本人に無断で第三者に話してしまうことです。性的指向・性自認は、機微な個人情報として取り扱う必要があります。
(4)相談窓口
相談担当者が適切な知識を持てるように、外部研修の受講の機会を与えるようにしましょう。弁護士や社労士その他専門機関など、社外に相談窓口を設置することも有効です。
(5)施設利用等
次の事項についてトランスジェンダーの従業員から相談があった場合は、対話を重ね、最善策を探ることが重要です。
・トイレや更衣室等の利用方法の見直し
・制服の在り方の見直し
・社内資料の性別欄や、青は男性、赤は女性というような男女二元論的な表記の見直し
・戸籍上の性や氏名の変更をしていない従業員の通称名の使用
・従業員が選択した病院等での健康診断の受診
(6)時間単位年休やフレックスタイム制、在宅勤務制度の活用
トランスジェンダーのホルモン治療や性別移行期における通院、HIV陽性者の通院等を想定して制度を整備する必要があります。これは、他の従業員の通院のケースについても有効な制度です。
(7)育児・介護休業
育児・介護休業を取得した場合の休業給付金について、日本では同性婚が認められていないため、現時点では支給対象外です。しかし、有給・無給にかかわらず、同性パートナーの育児休業、その親族の介護休業を取得できるようにすることを検討する必要があります。
(8)福利厚生
慶弔休暇や慶弔見舞金等については、法律婚だけでなく事実婚や同性パートナーに対しても付与・支給することが求められます。
3.ハラスメント対策とLGBT理解増進法
ハラスメント防止のために会社が講じるべき措置としては、大きく次の4つがあります。
①事業主の方針の明確化と周知・啓発・研修の実施
②相談窓口の設置
③ハラスメントが起きた際の迅速かつ適切な対応
④ハラスメント相談者・行為者のプライバシーの保護
これらは、LGBT理解増進法10条で事業主の役割として挙げられている「情報の提供、研修の実施、普及啓発、就業環境に関する相談体制の整備その他の必要な措置」と重なります。
企業としては、ハラスメント研修を通じて、LGBTQ+についてより丁寧な啓発や教育を行い、そのうえで当事者が直面する課題の解決に取り組んでいく必要があります。
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