Netpress 第2333号 調査の方法は? 通報者の保護は? 内部通報制度を運用するためのポイント

Point
1.内部通報制度の運用に当たっては、内部通報窓口に対する社内の信頼を獲得する必要があり、そのためには通報者の保護の徹底が不可欠です。
2.通報者の保護を徹底するためには、受付段階において通報者に対し「通報を理由とする不利益な取扱い」を受けた場合には直ちに連絡するよう伝えることや、調査段階において通報者の探索が行われないような方策を講じることが重要です。
3.内部通報窓口に対する社内の信頼を獲得するためには、通報者の保護の徹底のほか、受付段階において通報者に対し通報内容を詳細かつ正確に確認することや、是正段階において通報者へのフィードバックを行うことも有効です。


岩田合同法律事務所
弁護士 石川 哲平



以下では、「A支店長がパワーハラスメントを行っている」との通報があった事案を前提に、内部通報の受付、調査、是正の各段階に分けて説明します。

1.内部通報の受付

(1)通報内容を詳細かつ正確に確認すること

内部通報を受けた場合には、通報内容を詳細かつ正確に確認することが重要です。通報内容の確認が不十分なまま調査を行った場合には、当該調査それ自体が不十分となってしまうことはもちろんですが、通報者からの信頼ひいては内部通報窓口に対する社内の信頼を失うことにもなりかねないからです。


通報内容を確認する際には、5W1H(いつ、どこで、誰が、何を、なぜ、どのように)に留意しておくと良いでしょう。


例えば、通報者からは「A支店長がパワーハラスメントを行っている」といった評価のみが伝えられることもあり得ますが、パワーハラスメントといっても暴力を振るわれているのか、大勢の前で叱責されているのか、達成不可能なノルマが提示されているのかなど様々なケースがありますので、パワーハラスメントの態様を具体的に確認すべきです。


なお、通報内容に加えて、通報者の所属部署、氏名(匿名の場合にはその旨)、連絡先(電話番号又はメールアドレス)を確認する必要があります。通報者に対し追加で事実確認を行うこともあり得ますので、連絡先について聞き漏らすことがないように注意すべきです。


(2)通報者に対し不利益な取扱いを受けた場合には直ちに連絡するよう告知すること

内部通報があった場合には、基本的には調査を行うことになりますが、通報者の保護を徹底したとしても、通報者が特定され、かつ、通報者に対し通報を理由とする不利益な取扱い(例えば、解雇、降格、減給、嫌がらせ)が行われるリスクは否定できません。


内部通報の窓口担当者は、通報者に対し当該リスクを説明するとともに、そのような不利益な取扱いがあった場合には直ちに連絡するよう伝える必要があります。

2.調査の実施

調査を受けた者やその周囲の者によって「通報者は誰だ」と通報者の探索が行われるおそれがありますので、調査に当たってはそのようなおそれを可能な限り払拭する必要があります。


まず、調査の手法は、客観的資料(例えば、文書、録音、メール)の確認とヒアリング(例えば、関係者の証言)があります。


ヒアリング調査は、事実関係を正確に把握するために重要ですが、他方で、ヒアリング対象者に内部通報があったのではないかとの疑念を生じさせ、その結果、通報者の探索が行われるおそれがありますので、無闇にヒアリングを行うことは避けるべきです。


ヒアリングの必要性については事案の重大性等にもよりますので、一概に申し上げることは難しいですが、例えば、A支店長によるパワーハラスメントがメールで行われており、当該メールによってパワーハラスメントが認定できる場合には、ヒアリング対象者をある程度絞り込むとの判断もあり得ます。


また、通報者の探索を行うおそれを低減させる観点からは、ヒアリングにおいて核心部分ではなく周辺部分の質問から始めることも有効です。


例えば、関係者に対するヒアリングの際は、「A支店長はパワーハラスメントを行っていませんか」ではなく、「コンプライアンス上の問題はありませんか」と質問を行い、A支店長によるパワーハラスメントに関する回答を待った上で、A支店長によるパワーハラスメントについて詳しく質問を行うのが良いでしょう。関係者のヒアリングに先立ちA支店長に対するヒアリングを行うと、A支店長による通報者の探索や口裏合わせが行われるおそれがありますので、関係者のヒアリングを先行するのが基本的な対応です。


通報者の探索が行われるおそれを低減させる方策として、(タイミングが合う場合には)定期監査と合わせて調査を行う、該当部署以外の部署にもダミーの調査を行う(例えば、A支店で問題が生じていると通報があった場合において、A支店以外の支店に対してもダミーとして調査を行う)などがあります(消費者庁「公益通報者保護法に基づく指針(令和3年内閣府告示第118号)の解説」第3Ⅱ2(2)「範囲外共有等の防止に関する措置」④)。


上記のような方策をとった場合でも、通報があった事実が知られてしまうことがあります。その場合、調査対象部署の従業員に対し、通報者が誰であるかについて探索してはならないことを伝える必要があります。

3.是正措置

調査の結果、コンプライアンス上問題ありと判断した場合、是正措置を講ずる必要があります。


具体的な是正措置としては、①コンプライス上問題と判断した状況の排除、②原因究明と再発防止、③被害者への対応、④加害者への対応、⑤通報者へのフィードバック等が考えられます。


このうち、通報者の内部通報窓口への信頼を高めるといった観点からは、⑤通報者へのフィードバック、すなわち通報者に対し通報内容の対応結果を伝えることは効果的です。通報者は自らが通報した内容についてどのような対応がなされたのかにつき不安を持つことが多いので、当該不安を払拭するフィードバックは、通報者からの信頼ひいては内部通報窓口に対する社内の信頼を獲得することにつながります。


通報内容に関する調査結果(例えば、調査の結果、コンプライアンス上問題が確認された)と是正措置(例えば、社内ルールを変更した)を伝えるとともに、感謝の意を示すと良いでしょう。


なお、フィードバックは「適正な業務の遂行及び利害関係人の秘密、信用、名誉、プライバシー等の保護に支障がない範囲」(「公益通報者保護法第11条第1項及び第2項の規定に基づき事業者がとるべき措置に関して、その適切かつ有効な実施を図るために必要な指針」第4・3(2))で行う必要があります。


例えば、通報者自身がパワーハラスメントの被害者であるような例外的な場合は検討を要しますが、A支店長に対する懲戒処分の内容を通報者に対し伝えることは原則として避けるべきです。



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