Netpress 第2323号 積極的かつ適切な対応を! カスタマーハラスメントの法的位置づけとその防止策

Point
1.顧客等からの著しい迷惑行為である「カスタマーハラスメント(カスハラ)」の被害が増加しています。
2.カスタマーハラスメントについては、厚生労働省が「カスタマーハラスメント対策 企業マニュアル」を作成しているほか、東京都による特別相談窓口の設置や専門家の派遣事業の実施などの対応がなされています。
3.裁判では、不適切な対応により勤務先企業・組織に安全配慮義務違反等に基づく損害賠償責任が認められた例もあり、企業にとってカスタマーハラスメントに対して十分な対応をとることが重要となっています。


社会保険労務士法人 NACマネジメント研究所
特定社会保険労務士・中小企業診断士・行政書士
小林 弘和


1.カスタマーハラスメントとは

カスタマーハラスメントとは、一般的に「顧客等からのクレーム・言動のうち、当該クレーム・言動の要求の内容の妥当性に照らして、当該要求を実現するための手段・態様が社会通念上不相当なものであって、当該手段・態様により、労働者の就業環境が害されるもの」と定義されています。


したがって、カスタマーハラスメントに該当するか否かは、次の観点(基準)から判断することになります。


顧客等の要求内容に妥当性があるか
要求を実現するための手段・態様が、社会通念に照らして相当な範囲であるか


企業としては、カスタマーハラスメントから従業員を守る対応が求められます。

2.カスタマーハラスメントの被害状況

厚生労働省が行った調査(令和2年度「職場のハラスメントに関する実態調査」)では、全国の企業・団体に勤務する20歳から64歳の労働者のうち、過去3年間に勤務先で顧客等からのカスタマーハラスメント(著しい迷惑行為)を一度以上経験した者の割合は、15.0%です。


その回答割合は、パワーハラスメント(31.4%)よりは低いものの、セクシュアルハラスメント(10.2%)よりも高いという結果になっています。


また、受けた行為の内容としては、「長時間の拘束や同じ内容を繰り返すクレーム(過度なもの)」(52.0%)という回答が最も多く、「名誉毀損・侮辱・ひどい暴言」(46.9%)がそれに続いています。

3.カスタマーハラスメント対策の必要性

労働施策総合推進法に基づき、厚生労働省が「事業主が職場における優越的な関係を背景とした言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置等に関する指針」(令和2年厚生労働省告示第5号。以下、「指針」といいます)を示しています。


この指針において、事業主は顧客等からの著しい迷惑行為(暴行、脅迫、ひどい暴言、著しく不当な要求等)によって雇用する労働者の就業環境が害されないように、相談対応体制の整備や被害者への配慮の取り組みを行うことが望ましいとされています。


また、雇用する労働者が被害を受けることを防止するうえでは、顧客等からの著しい迷惑行為への対応に関するマニュアルの作成や研修の実施等の取り組みを行うことも有効と考えられる、としています。


さらに、業種・業態等により、その被害の実態や必要な対応も異なると考えられることから、業種・業態等における被害の実態や特性等をふまえて、それぞれの状況に応じた必要な取り組みを進めることも、被害の防止にあたっては効果的と考えられる、ともしています。


企業がカスタマーハラスメントに対して適切な対応をしていない場合、被害を受けた従業員から安全配慮義務違反として使用者責任を問われ、損害賠償を求められる可能性があり、裁判においては、このような損害賠償請求が認められるケースも出てきています。


こうした企業としての法的な責任はもとより、カスタマーハラスメントを受けた従業員が精神的に大きなダメージを受けてメンタル不調に陥り、休職・退職に至ってしまう可能性もあります。


加えて、ネットやSNS等への悪評の書き込みにより、企業のイメージダウンや業績悪化につながる等の大きな被害が生じるリスクもあります。


したがって、カスタマーハラスメントに対して企業は十分な対応をとることが重要となります。

4.基本的なカスタマーハラスメント対策の枠組み

企業のカスタマーハラスメント対策の基本的な枠組みは、カスタマーハラスメントを想定した事前の準備と、実際に起こった際の対応です。


(1)カスタマーハラスメントを想定した事前の準備

カスタマーハラスメントを想定した事前の準備としては、次の事項が挙げられます。


企業の基本方針・基本姿勢を明確にし、従業員に対して周知・啓発を図ること
被害者となった従業員のための相談体制を整備すること
カスタマーハラスメント行為への対応体制、方法等をあらかじめ決めておくこと
顧客等からのカスタマーハラスメント行為への具体的な対応について、教育・研修を行うこと


(2)カスタマーハラスメントが実際に起こった際の対応

カスタマーハラスメントが実際に起こった際の対応としては、次のような事項が挙げられます。


事実関係の正確な確認を行い、確認に基づく事案対応を行うこと
複数名で組織的に対応するとともに、メンタル不調への対応等、被害を受けた従業員に対する配慮の措置を適正に行うこと
取り組みの見直しや改善を継続的に行い、再発を防止すること


カスタマーハラスメントによる被害が増加するなか、企業がカスタマーハラスメント対策を積極的に進めることは、職場環境の改善や従業員満足度の向上・定着促進など、前向きな効果が期待できます。


ぜひ、カスタマーハラスメントの防止に積極的に取り組んでいただきたいと思います。



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