Netpress 第2310号 トラブルを防ぐために 傷病休職中の従業員を職場復帰させる際の留意点
1.傷病休職中の従業員の職場復帰にあたっては、自社の傷病休職制度をしっかり理解し、従業員にも十分な説明をしたうえで対応することが大切です。
2.復職可否の判断については、休職者本人の意向だけでなく、主治医や産業医等の専門家の意見もふまえて、多角的・総合的に判断する必要があります。
3.リハビリ勤務等を行う場合は、その目的や内容等について、休職者と共通認識を持ったうえで進めるようにしましょう。
荒井総合法律事務所
弁護士 高原 わかな
休職とは、ある従業員について労務に従事させることが不能または不適当な事由が生じた場合に、使用者がその従業員に対し、労働契約関係そのものは維持させながら労務への従事を免除または禁止することをいいます。
休職には、傷病休職、事故欠勤休職、起訴休職、自己都合休職などさまざまな種類のものがありますが、本稿では傷病休職からの職場復帰に際して使用者が気をつけるべき点を説明します。
1.自社の傷病休職制度の正確な把握
傷病休職制度とは、業務外の傷病による欠勤が一定期間以上の長期に及んだときに、解雇を猶予するために一定期間休職を行い、休職期間中に傷病から回復した場合は復職、回復することなく休職期間が満了した場合は自然退職または解雇となる制度をいいます。
傷病休職制度を設けることは法律上の義務ではないことから、そもそも休職制度を設けるかどうかは当事者の任意となっています。さらに、休職制度が労働協約や就業規則に定められていた場合であっても、その内容は企業によってさまざまです。
そのため、企業側担当者としては、就業規則等の条項を確認のうえ、自社の傷病休職制度上、休職から復職または自然退職・解雇までどのようなプロセスをたどるのかを正しく理解し、従業員にも予め丁寧に説明しておくことが、従業員とのトラブルを回避するうえで重要になります。
なお、長期間にわたって就業規則の見直し等を行っていない場合、自社の休職制度がメンタルヘルス不調に十分対応しきれないケースもあるため、社会の変化に応じて内容をアップデートする必要もあります。
2.休職事由消滅(復職可能性)の判断
一般的な傷病休職制度においては、休職期間中に傷病が治癒すれば復職となり、治癒せずに休職期間が満了すれば、就業規則等の定めに従って自然退職または解雇となります。
そのため、休職中の従業員の職場復帰に際しては、「傷病が治癒したといえるか(=復職可能かどうか)」を適切に判断することが重要です。
どのような状態に至った場合に「治癒」と判断できるかについては、就業規則等に特段の定めがない限りは、休職期間満了時までに従前の職務を通常程度に行うことができる状態になっていることを意味します。
しかし、裁判例の中には、休職期間満了時までにこのような状態に至っていない場合であっても、具体的な事情を考慮して次のように判断したケースがあります。
・ | 相当期間内に回復が見込める場合には、復職を認めるべきとするもの | |
・ | 従前の業務への復帰が不可能な場合に、他の業務への配置を検討すべきとするもの | |
→ | 職種や業務内容に限定がない労働契約のケースであって、他業務への現実的配置可能性と従業員からの他業務への就労申出を考慮要素としている | |
・ | 通常程度の労働ができない場合であっても、負担軽減や環境整備等の措置をとるべきとするもの | |
→ | ただし、使用者として行うべき配慮の内容は、具体的事情を離れて一義的に決まるものではないため、信義則を根拠に一律に何らかの措置をとるべきとする法的義務が発生するものではないことに注意が必要 |
こうしたことから、復職の申出をした従業員の見解や意向のみならず、主治医・産業医等の専門家の診断を参考にしたうえで、その他の事情(現実的な配転可能性等)も総合考慮し、企業として復職の可否を判断する必要があります。
なお、従業員が復職を申し出るにあたっては、「復職することは可能」とする主治医の診断書が提出されることが多いと思われます。しかし、必ずしも職場の実情や従前業務の内容および負荷の程度を正確に把握したうえでの判断とは限りません。そのため、主治医の診断に疑問等がある場合は、従業員の同意を得て主治医に意見照会を行ったり、職場の実情や業務内容等を理解している産業医等に受診させたりする等、一般的抽象的な復職可能性ではなく、実際に行う業務に即した復職可否の判断ができるよう働きかけを行うことが望ましいでしょう。
また、将来の復職判断を見据えて、休職に入る前の傷病欠勤開始時から従業員と適切なコミュニケーションをとり、本人の了解のもと主治医や産業医等と連携しながら手続を進めることが肝要です。
3.リハビリ勤務等について
近時は、復職の可否を判断するために、正式な職場復帰決定の前に、いわゆる「リハビリ勤務」を行う場合があります。具体的には、休職期間中に無給扱いで労務提供ではない形で作業を行うケースや、いったん復職し有給扱いで段階的に負荷を上げて労務提供を行うケースなどです。そのほか、外部機関の実施するリワークプログラムを活用するケースもあります。
リハビリ勤務等については、企業側と従業員との間で、以下のような点について認識に齟齬が生じ、トラブルに発展することがあります。
・そのリハビリ勤務等が、リハビリの一環なのか、業務の部分的実施なのか
・そのリハビリ勤務等が、復職判断のための勤務なのか、復職後の段階的な軽減業務なのか
このような点について、相互の認識に齟齬が生じることがないように、従業員に対して事前にその目的・期間・処遇(特に賃金の有無)を十分に説明のうえで実施することが重要です。
なお、当事者間に無給であることの合意があったとしても、リハビリ勤務中の作業が使用者の指示に従って行われ、その作業の成果を使用者が享受していると評価される場合には、最低賃金相当額の賃金請求権が発生すると解した裁判例もあります。
リハビリ勤務等を導入する場合には、どのような制度とするかを十分に検討したうえで実施するようにしましょう。
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