Netpress 第2300号 新しい動きが活発に! コロナ禍を経た日本企業の中国ビジネスの変化

Point
1.新聞やテレビの報道では、中国子会社の再編や撤退など、どちらかと言えば後ろ向きの情報が多く報道されていますが、コロナ禍を経て、前向き、後ろ向きを含めて、中国ビジネスには大きな動きが見られます。
2.撤退に関しては「撤退できるかどうか」ではなく、「どのような方法で撤退するのが最も資金の回収金額が多いか、撤退時のダメージを最も抑制できるか」に焦点が移っています。
3.現地子会社を有する日本本社は、改めて自社の子会社の将来を検討し、対応する時期にあるといえます。


株式会社マイツ 国際事業部
中国室 室長 古谷 純子


中国子会社の清算が容易になり、期間の短縮に加えて、残余財産があればスムーズに回収できるようにもなりましたので、弊社でも複数の案件が同時進行している状態です。一方で、約14億人のマーケットが魅力的かつ重要であることは変わらないため、依然として中国子会社を設立する動きも続いています。以下では、今年に入ってから特に顕著な動き(3つの典型事例)を取り上げて紹介しますので、貴社の中国ビジネスのご参考になればと思います。

1.進出:越境ECから中国国内ECへ

最近、進出案件で散見される事例は、日本から越境ECサイト(たとえば、アリババグループの「天猫国際」)を通じて中国人向けに販売したところ、売れ行きが好調なことから、越境ECサイトではなく、中国国内のECプラットフォーム上で販売するために、現地法人を設立するというケースです。


たとえば、中国最大手の天猫に旗艦店(=自社ブランド商品販売を前提)を出店する場合には、まず出店を希望する法人の「営業許可証」(中国の法務局に相当する市場監督管理局から発行を受ける法人登記証)の提示が必須であり、現地法人の設立が必要となります。そのために現地法人を設立しようとする場合、準備期間を含めて会社登記まで1~2か月程度、税関登記・外貨登記や資本金の入金が可能となっています。従い、実質的に会社の運営ができるまで3~4か月程度と、弊社が代行手続をしているケースでは、非常に迅速な設立が可能な状態です。




越境EC(例:天猫国際)
中国国内EC(例:天猫)
市場規模
477.8億元(約7,200億円) ※1
26,120億元(約39.18兆円)
(中国全土No.1・シェア30.35%) ※2

年間アクティブユーザー

30歳以下のユーザーが半分以上・中間所得層の人の割合は46% ※3

7.11憶人 ※3
出店主体
日本企業
中国企業(旗艦店=自社ブランド商品販売を前提)
決済口座
日本口座
中国国内口座
※1 艾媒諮詢(URL:https://www.iimedia.cn)、2019年越境ECによる中国輸入小売総額とシェアから試算(1元=15円、以下同じ)
※2 2019年度(URL:https://www.sohu.com/a/433943897_120868906より抜粋)
※3 2018年4月1日〜2019年3月31日(アリババ株式会社HPより)


2.現地子会社運営:現地法人の見える化

すでに現地子会社を有するケースでは、直近の3年間にコロナ禍で子会社への訪問ができていなかったことから、今年1月の中国渡航時の入国後隔離措置の撤廃を受けて、現状把握のために中国子会社等に出張する例が非常に増えています。


また、中国のコロナ政策の変換により、駐在期間が長期化していた駐在員を日本に戻し、新たな駐在員を送るという駐在員の入れ替えも大幅に進んでいます。


たとえば、東京や大阪のビザセンターでは、多少緩和されつつあるとはいえ、ビザ申請の予約が約1か月先になる(予約がなかなか取れない)状況にあるほどです。


実際に出張して、あるいはコロナ禍を経て、いかに中国子会社の状況をリモート状態では把握できなかったか、把握が困難だったかを痛感して、財務状態の見える化の必要性を感じたという企業も増えています。また、駐在員の入れ替えを機に、内部管理方式の見直しを行うケースも見受けられます。


こうしたことから、昨今では改めて財務や業務プロセスの実態把握のための業務監査を自社で実施したり、外部専門家に依頼したりするケースが増えています。

3.現地子会社の撤退:清算と持分譲渡

現在、お客様から最も多くご照会をいただくのが「撤退・再編」です。


中国では、人件費の上昇や中国企業の技術力の向上、また自動車産業に見られる急速なEV化を典型例とする中国国内の産業構造の急激な変化などが見られます。これらに加えて、現地子会社自身がコロナ禍の影響を受けたことによる業績の悪化や、ゼロコロナ政策での厳格な隔離措置やロックダウンを経て、複数ある中国子会社の統廃合や中国からの撤退を検討・実施する企業も見受けられます。


特に撤退に関しては、中国政府自身が、これまで外資企業の撤退時に手続の煩雑さや時間を要した点などを問題視して、行政手続の簡素化を図っています。また、残余財産がある場合には、弊社事例では確実に日本本社に送金ができています。


このため、撤退に関しては「撤退できるかどうか」ではなく、「どのような方法で撤退するのが最も資金の回収金額が多いか、撤退時のダメージを最も抑制できるか」に焦点が移っています。


また、単に「清算する」という選択肢だけでなく、現地子会社を売却する、いわゆる「持分譲渡」を選択するケースも散見されます。持分譲渡も、第三者に売却するケースもあれば、現地子会社の中国人総経理や副総経理などマネジメントに売却するケース(いわゆるマネジメント・バイアウト:MBO)のほか、中国人スタッフの高給化を背景にマネージャークラスのスタッフに売却するケース(いわゆるエンプロイー・バイアウト:EBO)までありました。


特に、1990年代や2000年代前半など早期に進出し、自社で土地(正確には「土地使用権」)を有している現地子会社の場合、簿価ではほとんど債務超過に近いか、従業員に経済補償金を支払えば債務超過に転落するような状態であっても、土地使用権の含み益により高値で売却が実現して(一例として、取得原価の10倍など)、資本金を大幅に上回る資金回収が可能となった事例もあります。

4.最後に

今年の1月以降、中国の国内外の厳格な移動制限が撤廃され、現在、日中間のビジネス往来が急拡大していることもあり、現地子会社を新設や拡大するのか、現状維持ながら内部管理を強化するのかなど、前向きと後ろ向きの両端の動きが活発化しています。


他社事例を踏まえたトレンドに沿うとすれば、現地子会社を有する日本本社は、改めて自社の子会社を将来どのようにしたいのか、その方向性を確認・検討し、対応する時期にあるといえます。



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