アンコンシャスバイアスとは?具体例や研修実施などの対処法を解説

アンコンシャスバイアスは、「無意識の偏見」や「無意識の思い込み」と訳されることが多く、近年、耳にする機会が増えてきたのではないでしょうか。

アンコンシャスバイアスは、誰もが無意識に持つ偏見であることから、気付かないうちに相手を傷つけてしまうことや、周囲に悪影響を与えてしまうことがあります。

この記事では、アンコンシャスバイアスの具体例や発生する原因や改善方法について、解説します。

1.アンコンシャスバイアスとは

アンコンシャスバイアスとは、自分自身では気付いていない、「ものの見方や捉え方の歪みや偏り」を意味します。

 

脳の認知機能によって起きると言われており、経験を通して本人が気付かないうちに身に付けたものであり、人の行動や意思を決定する際に影響を与えます。

 

アンコンシャスバイアスのマイナス面を強調して「根拠のない先入観」や、「時代にそぐわない固定観念」と表現すると、理解していただきやすいかもしれません。(アンコンシャスバイアスのすべてがマイナスという訳ではありません)

 

2.アンコンシャスバイアスが注目される理由

1980年代から米国では、認知心理学の分野でアンコンシャスバイアスについて、盛んに研究されるようになりましたが、産業界への影響は大きくありませんでした。

 

2010年代に、グーグルやフェイスブックといったIT企業が、彼らの組織が「多様性の高い組織」という理想には程遠い状態であることへの危機感を表明し、その背景にあるアンコンシャスバイアスを防止する研修を行ったことから、産業界で重要な課題として認識されるようになりました。

 

「多様性の高い組織」とは、性別や国籍、人種、学歴などにとらわれずにさまざまな人材を雇用する会社のことです。多様性は、複雑な意志決定や創造性においてとても重要な要素であると考えられています。

 

3.日本でアンコンシャスバイアスが注目される背景

近年では、日本でも、経営層や管理職の階層研修や、ハラスメント研修、ダイバーシティー研修などにおいて取り上げられることが増えています。その背景には、女性の活躍推進、外国人、LGBTQ+などの増加による組織の多様化への対応やアンコンシャスバイアスが、企業内での不祥事やハラスメントの発生増加に影響を与えていることが分かってきたこともあります。

 

4.アンコンシャスバイアスが生じる原因

(1)二つの判断処理システム

認知心理学では、私たちはコンピューターのように矛盾なく最適解を選んでくれるマシンではなく、全く違う機能を持った2つの判断処理システムから成り立っていると考えられています。

 

2つのシステムは、非常に対照的な性格を持っています。システム1(「速い思考」)の処理は、無意識のうちに自動的に行われ、その時々の文脈やストーリーに影響されるのに対して、システム2(「遅い思考」)は、論理演算の規則に基づいた熟慮的な処理が意識的に行われています。

 

私たちは、日常、簡単な問題に対してはシステム1(「速い思考」)で対応し、難しい問題に対しては、システム1がシステム2(「遅い思考」)に出番を要請し、処理を行っていると考えてください。

 

(2)二つの判断処理システムを使った思考の特徴

行動経済学でノーベル経済学賞を受賞した、ダニエル・カーネマンは、それぞれの思考の特徴として、次のものを挙げています。

 

「速い思考」:

●自動的に高速で働き、努力は不要か必要であってもわずかである

●本来の質問を易しい問題に置き換えようとする

●反復が多いとよいことと認識=よく出会うものは安全と考える

●因果関係を発見する(直接の因果関係がないものを結びつける)

●判断が容易でない場合は、システム2の応援を要請する

   

「遅い思考」:

●複雑な計算など頭を使わなければできない困難な知的活動にしかるべき注意を割り当てるもの。

●「システム1」の判断が間違っていれば、却下したり、修正したりする

 

以上から、アンコンシャスバイアスには、「速い思考」が強く関係していることがお分かりいただけると思います。

 

つまり、「速い思考」は「遅い思考」である論理的思考を簡略化したものですから、導き出された結論にバイアス(歪み)が生じる可能性もあります。

 

例えば、スーパーで、自分に合ったシャンプーを選ぶ時に、どのように商品を決定しているか考えてみてください。

 

すべての商品について、効能を調べるというようなことは省略し、過去「使ったことのある」商品やCM等で「知っている」「覚えている」商品を選んでいませんか。

 

これは「速い思考」によって、よく出会うものは安全で良いものと考えるからです。あるいは、商品棚にたくさん並べられている商品は、多くの人に買われていると判断し、購入を決めるかもしれません。これは「速い思考」によって、因果関係を発見していることから起こります。

 

このように、「速い思考」は、最適な商品を探すうえでの時間的・金銭的コストを節約させる機能があります。

 


 「速い思考」「遅い思考」に関連する記事はこちら
  ヒューリスティックとバイアス―行動経済学とは?(第一回)
  

5.アンコンシャスバイアスは良くないものなのか

アンコンシャスバイアスは、いつでも、どこにでも、誰にでもあるもので、それ自体が問題という訳ではありません。

 

過去から蓄積された経験や知識、価値観、信念をベースに、大枠で物事をとらえ、素早く判断し行動する上で、役立つ存在です。

 

一方、古い習慣や過去の常識にとらわれたアンコンシャスバイアスは、無意識であるがゆえに修正が難しく、社会の変化や職場の多様性が増す中では、現実とのズレを生じさせることにもつながるのです。

 

それゆえ、アンコンシャスバイアスがネガティブに機能しないよう十分に気を付ける必要があります。

 

6.アンコンシャスバイアスの具体例

アンコンシャスバイアスには様々なパターンがあります。日常的に起こりえる典型的なものをご紹介します。

 

(1)ステレオタイプバイアス

これまでの経験や文化的背景に基づいて、特定の人やグループに対して「性別」「年齢」「国籍」「職業」といった属性ごとに先入観や固定観念を持ち、ステレオタイプ的に見てしまうこと。

【具体例】

●医師や政治家は「男性」、保育士や看護師は「女性」の職業だと思い込む

●「高齢者はスマホが苦手」という目で見てしまう

●「イタリア人は〇〇だ」「中国人は○〇だ」と考えてしまう

 

(2)確証バイアス

自分が良いと思った意見や仮説を検証する際に、それを支持する情報ばかりを集め、否定する情報は無視あるいは集めようとしないこと。

【具体例】

●「この人には仕事を任せない方がいい」と思い込むと、それを裏付ける行動や言動ばかりが目につき、それを否定するようなものは参考にしない。

●データを自分のいいように解釈し、自分の意見にこだわり、他の意見に耳を傾けない。

 

(3)集団同調バイアス

他の人と同じことをすれば間違いないだろうと思い込み、周りにいる人に同調し、自分が違う意見を持っていても、それを表に出さないこと。同質性の高い職場などでは、意義を唱えることへの無言の圧力を感じたり、疑問を持つことを自己抑制したりしています。

【具体例】

●ハラスメント的な指導が行われていても、誰も何も言わないので自分も意見を言えない。

●コンプライアンス違反をしていても、周りの人もやっているのだから、大丈夫と考えてしまう。

 

(4)正常性バイアス

危険や脅威が迫っていることを示す情報に対して、過小評価してしまう傾向のこと。不測の事態が発生した際、無意識のうちにそれを正常の範囲内であると捉え、心を平静に保持しようとするメカニズムでもあります。

【具体例】

●災害警戒情報が出された地域に住んでいるにもかかわらず、「うちは大丈夫」と情報を無視し、避難が遅れる。

●業績が悪化していても、「自分の会社は倒産しないだろう」と根拠なく思い込み、対応策が遅くなる。

 

(5)慈悲的差別(好意的差別)

自分より立場が弱いと思う他人に対して、本人に確認せずに、先回りして不要な配慮や気遣いをすること。「女性は弱く繊細な存在だから男性が保護し養ってあげないといけない」等、騎士道精神や伝統的な父権主義の価値観から生まれた、一見優しさのように見えるが、「相手は自分より劣る存在だ」という考え方を前提とした、善意からではあるが、勝手な思い込みや過剰な配慮を行うこと。

【具体例】

●小さな子どもがいる女性に、大きな負担が伴う仕事や難しい仕事を任せない

●女性の容姿を褒め、「旦那様は幸せ者ですね」と発言する

●男性は女性を守るために強くあるべきだと考える

●病気から復帰した人に無理はさせられないと考え、本人の希望を聞かず配置転換する

 

(6)インポスター(詐欺師)症候群

自分自身に対するアンコンシャスバイアスで、自分の能力や実績が明確であるにも関わらず、過小評価してしまい、周囲をだましている詐欺師のように感じ、慎重になり過ぎたり、失敗を恐れ消極的になったりすること。

【具体例】

●これまでの成果をすべて運や周囲の人が優秀だったからだと思い込んでいるため、管理職への昇進等を拒む

●周囲をだましている、本当の実力が伝わっていないといった思い込みから、成功するほどにその思いが強くなり、「いつか化けの皮が剝がれるのではないか」と不安を感じる

 

(7)そのほかのアンコンシャスバイアス

アンコンシャスバイアスは、上記以外にも様々なものがあり、いくつかを簡単に挙げておきます。

●自分にはバイアスがないと思い込む「バイアスの盲点」

●馴染みのある解決方法にこだわって、別の解決方法を無視してしまう、「アインシュテルング効果」

●一部の長所ですべてをよくとらえてしまう「ハロー効果」

●権威がある地位や肩書きによって、その人物や言動に対する評価が高く歪められてしまう「権威バイアス」 などがあります。

 

7.アンコンシャスバイアスに気付きにくい人の特徴

アンコンシャスバイアスにより、周囲に悪影響を及ぼす人は、自身のアンコンシャスバイアスに気付きにくい人であると言えます。では、そういった人にはどのような特徴があるかをお話しします。

 

(1)自己防衛心の強い人

自己防衛心の強い人は、些細なことでもそれによって自分を否定されてしまうのではないかという気持ちになりやすく、不安感から自己を防衛するために偏見や思い込みを正当化する傾向が強くなります。

 

(2)想像力や柔軟性に欠ける

想像力や柔軟性に欠ける人は、過去の成功体験や慣習に固執してしまい、多面的に物事をとらえ多様な選択肢があることへの想像力が働きにくく、他人の意見を受け入れ自分の意見を変えることが難しくなってしまいます。同質性の高い職場に長く勤務している場合に現れる傾向が強くなります。

 

(3)他者尊重の意識や共感性が低い

他者尊重の意識や共感性の低い人は、相手との力関係や相手にとって何がストレスになっているかに無頓着になり、相手を尊重し、理解し共感しようとする意識が低くなってしまいます。相手との関係性によって、態度を変える傾向もあります。

 

8.アンコンシャスバイアスが職場にもたらす悪影響

産業界でアンコンシャスバイアスが問題視されるのは、これからご説明する企業の成長を妨げる悪影響があるからです。


(1)採用

多様性の高い組織が、複雑な意志決定や創造性においてとても優位であると分かっていても、同質な人材を選んでしまう。

【具体例】

●面接や選考の際に、自分と同じようなタイプを選んだり、職場にいる「似たタイプ」に投影できる人を選んでしまう

●性別、学歴、出身地など採用基準に関係のない属性に選考が影響される

●体育会出身者は〇〇、理系は〇〇と決めつけてしまう


(2)人事考課、配置、昇進

慎重かつ客観的に検討を加えなければならないのに、システム1(速い思考)の影響を受けてしまう事例等が見られます。

【具体例】

●成果や能力に関わらず、残業や休日出勤など柔軟に対応できない社員を低く評価する

●年間を通じた評価を行わず「直近の成果」に重きを置いて評価してしまう

●「女性の後には女性」など、役割を固定したり、属性によって業務に偏りがある

●「前回評価の低かった部下」に対して、その評価の低さを裏付ける情報を無意識に集め敏感に反応してしまう。


(3)育成

部下の育成については、公平に機会や経験を与えなければなりませんが、無意識に属性で差をつけている事例が見受けられます。

【具体例】

●外国人や女性はすぐに退職すると思い込み、過度に反応し、簡単な仕事しか任せない。

●自分と同じ大学出身である部下や親しい部下にのみ目をかけ育成するなど属性や関係性で差をつける


(4)組織、経営への影響

組織の成長には、多様な人々がその人らしく受け入れられ活躍する環境が必要です。価値観の多様性を受け入れる組織は、「イノベーションの創出」に優位性を持つことは容易に想像できます。

 

一方、価値観の多様性が認められない状態が継続すると、「〇〇はこうあるべき」という意識が強くなり「パワハラ」を始め、様々なハラスメントが起きやすくなります。

 

加えて、コンプライアンス違反を誘発したり、従業員のモチベーションの低下や、離職率の増加などの事態に繋がってきます。

 

9.アンコンシャスバイアスへの対処方法

(1)個人の対処方法

①アンコンシャスバイアスの知識を身に付けること

アンコンシャスバイアスは無意識に起こるため気付きにくいものです。それゆえ、アンコンシャスバイアスの意味やパターンを知ることが重要です。知ることによって、今まで気付かなかった、自身の発言や判断に、アンコンシャスバイアスが入り込んでいないか意識が向くようになります。

 

②アンコンシャスバイアスを意識する癖をつける

脳の認知機能によって自然に発生するアンコンシャスバイアスは、自身の思考の癖や固定観念を意識することで防止することが出来ます。

 

又、自身は発言に対する相手の反応に注意を払い、一人ひとりのものの見方や捉え方が異なるということを、常に意識していることが大切です。

 

相手の反応に違和感を抱いた際は、「これは偏見かな」と言葉に出して確認してみる姿勢がコミュニケーションの質を上げることにもつながります。

 

③判断の前に前提となる背景や状況を意識する

一つの事象について、何かしらの判断を行う場合には、その前提となる背景や状況を意識する必要があります。

 

例えば、売上が1割減少したという事象でも、その背景によっては、前回の改善策では対応できないことはあります。

 

(2)企業としての対処方法

企業としてのアンコンシャスバイアスに対する、究極の目標は、アンコンシャスバイアスを生まない組織にすることです。そのためには、従業員の行動変容を促すシステム作りが必要です。

①アンコンシャスバイアス解消に向けたマインドセット

採用、配置、人事評価、昇進、エンゲージメント調査などのデータを収集し、現状のアンコンシャスバイアスが組織に与えている影響を把握する。このことにより、アンコンシャスバイアスの解消に向けた組織のマインドセットを行います。

 

②アンコンシャスバイアス研修の実施

行動変容を生み出すためには、4つのステップを踏む必要があります。

 

ⅰ)現状を認識させる。行動を変えたら起こるポジティブな変化を示す

ⅱ)課題を認識し、変化する必要性を自ら意識する。ビジョンを描く

ⅲ)具体的な行動のアプローチを考える(ステップを理解させ、自分にもできそうだと思わせる)

ⅳ)行動を褒める。変化を認める。成功体験にする

 

アンコンシャスバイアスは、自分自身では気付きにくいため、参加者相互の対話型学習により、気付きを得てもらうことが効果的です。研修によって、「常識、当たり前と思っていたことに疑問を抱く」「多様な考え方、捉え方があることに気付く」ことで、アンコンシャスバイアスへの関心を深めさせ、「言動の改善」といった具体的は行動の変化に繋げていきます。

 

研修は、できるだけ経営者層から始め、管理職層に厚く行うことが必要です。 実際、新任の役員・部長・課長への昇進時に行う研修のカリキュラムに組み込む例が増えています。

 

アンコンシャスバイアス研修のカリキュラム内容はこちら
  アンコンシャスバイアス研修

10.まとめ

差別や偏見を行う人間でありたいと思う人は多くはいないと思います。一人ひとりの持つアンコンシャスバイアスは、多くの場合、棘のような小さな存在かもしれません。

 

しかし、その棘が誰かを傷つけ、その傷口が大きくなり、ハラスメントやコンプライアンス違反に繋がることや、イノベーションの創発を阻害し、競争力を低下させ、企業にとって決定的なダメージを与える可能性も否定できません。

 

是非、アンコンシャスバイアスの防止に向けた取り組みを行っていただけたらと思います。

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SMBCコンサルティング株式会社 ソリューション開発部 教育事業グループ

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