Netpress 第2290号 新入社員の傾向は? 関わり方は? エンゲージメントを高める「OJT」の勘どころ

Point
1.新入社員のエンゲージメントを高めるには、OJT(職場内訓練)でしっかりと関係性を築くことが大切です。
2.「脱お客様意識」「貢献実感の早期獲得」「個別化の徹底」をキーワードに、いまどきの新入社員の傾向を踏まえたOJTのあり方を解説します。


株式会社NEWONE
阿部 真弥


1.企業に対するエンゲージメントの現実

エンゲージメントとは、「組織に対する自発的な貢献意欲」とされています。組織と個人が良好な関係を築き、「しなければならない(have to)」ではなく、「自発的にそうしたい(want to)」という状態をいいます。


新入社員のエンゲージメントが向上しづらく、離職率が上がる要因の1つとして挙げられるのが、「世代傾向の変化」です。約5年前から「Z世代」といわれるデジタルネイティブ世代が入社してくる時代となり、「わがまま世代・取り扱いの難しい世代」として、世代傾向に紐づいた育成・組織課題が話題にのぼることが増えました。


とくに離職率に強く影響する傾向として、「就社意識の低下」があります。つまり、入社した時点で「この会社でずっと働き続けよう」とは考えていない新入社員が増えているということです。


エンゲージメント向上の前提としては、「エンゲージメント=従業員(新入社員)と組織が両想い」であることが挙げられます。ここでの「両想い」とは、組織または新入社員のどちらかの努力によってよい関係性を築くのではなく、「双方の主体的な歩み寄り」によって関係性を向上させていくことを指します。要するに、「よい職場・組織環境」をつくることは必要ですが、それだけでは片想いであり、必要十分ではないわけです。


人に選ばれるよい組織づくりをするとともに、「この組織にしっかり馴染みたい・加わりたい」という主体的な「チームに加わる意識(オンボーディングマインド)」を新入社員に持たせることが、エンゲージメント向上の重要な要素となります。


そして、このようなしっかりとした関係性を築くためには、いまの時代にあったOJTを行うことが重要です。


2.OJTの基本的な進め方と変化

OJTとは「On the Job Training」の略語であり、実務を通して学ぶ「職場内訓練」を意味します。期間は各企業によって異なり、短期間だと数週間~1か月ほど、長期間だと1年間のOJT期間を設けている企業もあります。


現在、多くの企業で採り入れられているOJTの基本的な進め方は、以下の4つのサイクルです。


①ジョブアサイン(仕事を任せる)
②実務経験(仕事を進める)
③振り返り・フィードバック(気づき・学び)
④持論化(次に活かす)


これらのサイクルを回すことを育成責任者がサポートし、職場内での「成長経験の獲得」を促すことが求められます。


このようなOJTの基本的な進め方については、昔から大きな変化はありませんが、OJTの狙いやポイントは時代に合わせて変わってきています。もっとも大きく変化したポイントは、『「育つのを待つ」 → 「狙って育てる」』です。組織ごと、職場ごとにパフォーマンスを高めるうえでのコツやノウハウの言語化が進み、その場で成り行き的に育てる育成から、「計画的・意図的」に育てるOJTへと変化してきました。


そのため、昨今では「育成計画表」等のフォーマットを用意して、全職場で狙いを持って新入社員を育てることを推進する企業も増えてきました。さらには、配属前研修(Off-JT)の育成期間を短く設定し、OJTによる育成をメインに設計する企業も増えています。

3.「両想い」を実現するOJTの3つの勘どころ

組織ごとの採用の特徴や風土があり、傾向や変化は一概にはいえない部分もありますが、間違いなくどの組織にも共通するのは、「これまでどおりのOJTでは、新感覚世代を定着させることは難しくなっている」ということです。


自社のOJTをバージョンアップさせるためのポイントは、大きく3つあると考えます。


(1)脱お客様意識

辞めさせたくないという考えが先行するあまり、新入社員を手厚くもてなし、1から10まで不満を取り除いてあげようという「お客様扱い」をしてしまう組織が増えています。とくに新入社員に思い入れのある「よい職場」ほど、陥ってしまいがちな落とし穴といえます。


お客様扱いすることで、新入社員は「周囲がすべてやってくれる(環境がすべて決める)」という環境依存状態になります。このような状態になってしまうと、どれだけ組織が歩み寄ろうとしても、批評家のように不足点ばかり指摘し、不満を抱くようになるでしょう。まずは「主体的な歓迎行動」と「お客様扱い」は別物であるという認識がキーとなります。


(2)貢献実感の早期獲得

Z世代の特徴として挙げられるものの1つに、「承認欲求ではなく貢献欲求が強い」ことがあります。「周囲に貢献できている」という実感を得たいと考える傾向が強いといわれています。


そのため、昔ながらの「石の上にも3年」のような、チームの一員としての貢献に3年もかかる職場環境では、耐え切れずに辞めてしまう可能性が高くなります。とはいえ、まだ経験も浅い新入社員にいきなり貢献実感を持たせるのも難しいと感じるところでしょう。


しかし、チームへの貢献実感は、仕事ができるようにならないと得られないものではありません。自分がいることで職場が明るくなること、優先順位が低いために誰も手を付けていなかった業務に取り組むこと、チームでプロジェクトに取り組む際に何らかのポジティブな影響を与えること、これらすべてが「貢献」になります。


このような意識を持って周囲が関わり、新入社員の貢献実感をサポートすることが重要です。


(3)個別化の徹底

Z世代という括りがある一方で、当然ながら、彼らはそれぞれ異なる価値観・個性を持っています。とくに多様性の価値観が強い世代にとっては、「個性尊重」も職場選びの重要な要因になります。


世代傾向を理解しようという気持ちはもちろん大事ですが、「あなたはZ世代だから」といった「括る意識」は、もっともNGな行為ともいえます。そのため、大局観は世代傾向で理解しつつも、職場で関わる際には、目の前にいる「個」の新入社員に向き合うことが必要です。実際に、1on1等の機会で個別に大事にしている価値観をキャッチしたり、研修なども手上げ式の学習機会や個別キャリアカウンセリングを提供したりするなど、「個別化」の流れが進んでいます。


「脱お客様意識」「貢献実感の早期獲得」「個別化の徹底」を大切にしたOJTの設計は、一見、面倒くさいことのように感じるかもしれません。しかし、「新入社員が一番輝ける企業(最も選ばれる企業)=これからの時代に伸びていく企業」であるというスタンスで、自社の新入社員のエンゲージメント向上に向き合ってください。



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