Netpress 第2284号 4月から中小企業も対象に 50%割増しの適用開始と「長時間労働」削減策

Point
1.ことし4月から、中小企業についても、月60時間を超える法定時間外労働に対する割増賃金率が50%以上に引き上げられました。
2.ここでは、長時間労働の削減に向けて、企業にはどのような取り組みが求められるかについて解説します。


特定社会保険労務士
人事コンサルタント
坂本 直紀


50%割増しの適用開始により、長時間労働が常態化している中小企業では、人件費の大幅な増加が懸念されます。また、そもそも長時間労働を放置することは、過労死やメンタルヘルス不調を生じさせるリスクとなります。


長時間労働が生じる「残業が当たり前の社内風土」を改善するには、社内の意識改革が欠かせません。ここでは、長時間労働の削減策について解説しますが、いずれの削減策にも共通していえるのは、経営トップ、人事部門、各部署が一体となって取り組む必要があるということです。


すなわち、経営トップは長時間労働の削減を会社の方針として明確に打ち出し、強い意思をもって取り組む姿勢を示します。残業削減の方針を出しただけでは、掛け声倒れに終わりかねません。


人事部門は、経営トップの方針を実現するために、社員の労働時間の状況の確認やルール化を行います。一方、各部署では、長時間労働を削減するためのさまざまな施策を提案し、実施します。


このように、トップダウンとボトムアップの両方からの取り組みが、車の両輪のように機能することが重要です。

1.現状把握の徹底と社内ルール化

社員、上司、人事部門の間で、月の残業時間と担当している業務量・内容を共有・確認できていないため、いつの間にか長時間労働が常態化しているケースがあります。


残業のチェック体制が不十分である状況を改善するには、人事部門が主体となって残業時間の現状を把握し、不要な残業を削減するための社内ルールを設けることが有効です。


(1)残業時間の現状の把握方法

全社員の労働時間数をエクセルなどのソフトで集計し、長時間労働が生じている理由を詳細に分析します。


①問題部署の把握

たとえば、部署別の残業時間を「時間外労働」「休日労働」「時間外労働と休日労働の合計」といったように分けて集計し、グラフ化します。


残業時間が多い部署を把握したら、その部署に内在している問題点を洗い出します。


②残業時間の多い社員の把握

残業時間の多い部署に在籍する社員を中心に、残業時間の多い社員を抽出し、今度は社員ごとに①と同じくグラフ化します。


長時間労働を削減するには、個人レベルにまで落とし込んで改善を図る必要があります。特定の社員に仕事が集中していないかといった確認を行い、是正を図ります。


なお、残業時間が過少申告されている可能性もありますので、必要に応じて実態を把握するように努めます。


(2)残業削減に関する社内ルールの策定

現状を分析し、問題点を把握したら、人事部門は、残業削減に関する社内ルールを定めて社内に周知します。


残業は、原則として事前申請のルールにすることが重要です。これにより、社員の勝手な残業を防止できます。また、結果を報告させて残業の状況を確認することも重要です。


下は、残業の事前申請書の例です。この例では、申請書に必要事項を記載して上司に提出するようにしています。いまどき“紙で申請”とはアナログかもしれませんが、申請書に手書きで必要事項を記載するのは面倒なことですし、上司に直接提出して許可を得るとなると、プレッシャーも感じるでしょう。




残業申請書を提出させる狙いは、「こんなに手間がかかるのであれば、残業をすることなく仕事に集中して、定時で帰ろう」という気にさせることです。


また、残業申請書の提出を通じて、上司は部下の業務の進捗状況が把握できますので、業務遂行におけるアドバイスや業務配分の見直しを行うことにつながります。


(3)集中タイム制度の創設

業務時間中に一定時間、強制的に仕事に集中する「集中タイム制度」を設けることも有効です。


仕事を始めるときに、「1時間以内にこの仕事をここまでやる」等の目標を設定して、実現できるように全力を尽くすことをルール化します。このときの目標は、「ちょっと難しいかもしれない」と思うレベルが理想的です。

2.多能工化の推進等

特定の社員に業務が集中して長時間労働が生じている場合、「業務が属人化している」「仕事ができる社員に業務が集中している」の2つのパターンがあります。


(1)多能工化の推進

特定の社員だけに業務が割り当てられることを防ぐには、他の社員でも対応可能な状態にしておく必要があります。そのためには、多能工化を推進することが有効です。


多能工化とは、1人の社員が複数の業務を担えるようにすることです。これにより、特定の社員にしかできない業務をなくします。厚生労働省の「働き方改革特設サイト」には、多能工化で長時間労働の削減に取り組んだ事例などが紹介されていますので、参考にしてください。


(2)パート・アルバイトの戦力化・業務改善

パート・アルバイトと正社員の業務の内容(分担)は企業によってさまざまでしょうが、パート・アルバイトに任せる業務内容を絞り込み過ぎると、正社員の負担が増し、長時間働につながることがあります。


パート・アルバイトの能力開発を行って、できる限り幅広い業務を担当してもらうようにするとともに、業務改善を通じて正社員の残業を削減していく取り組みが求められます。


業務改善を行うことで、作業がスムーズに進められるようになるほか、ミスが減り、探し物や片付け、作業のやり直しなどの余計な手間が削減され、労働時間の削減につながっていきます。



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