Netpress 第2279号 「DXレポート」の要点解説! DX時代を進むためのIT戦略の方向性

Point
1.「DXレポート」の内容・特徴を理解しておくと、これからのIT戦略を適切に立案することができます。
2.ビジネスの競争力を高めるためには、やはりDXを強力に推し進めていくことが重要になります。


さくら情報システム株式会社
コンサルティング
部 松澤 文明


「DXレポート」は、2018年9月に経済産業省が最初の公表を行い、現在は次の4種類(1~2.2)があります。



DXレポート ~ITシステム「2025年の崖」の克服とDXの本格的な展開 ~(2018年9月)

DXレポート2(中間取りまとめ) (2020年12月)

DXレポート2.1(DXレポート2追補版) (2021年8月)

DXレポート2.2 (2022年7月)


AIやIoT、Web3といった新たなデジタル技術を利用して、これまでにないビジネスを展開する新規参入者が、国境を越えて次々に登場している状況にあって、特にIT活用という点で世界に遅れを取っている日本企業が競争力維持・強化のためにDXを強力に推し進めなければならないという危機感が、DXレポートの背景にはあります。今回は、今後のIT戦略を考える上でとても重要な位置づけのDXレポートについて、そのポイントを解説しますので、参考にして下さい。

1.既存システム(レガシーシステム)が経営課題

DXレポートには、「2025年の崖」というセンセーショナルな表現が出てきます。2025年に何かがあるというわけではなく、古いシステムが多くの企業のビジネスを妨げる経営課題になることから、警笛を鳴らしたものです。


では、なぜレガシーシステムが経営課題になるのでしょうか。端的にいうと、システムの保守に関するコストが高騰するからです。特に、システム開発を外部に委託している場合などは、システム自体に詳しい人材がいなくなったり、そのシステムで利用されている技術を扱える人材が少なくなったりして、ブラックボックス化した結果、維持や改変に多大なリソース(労力、時間、費用)がかかる負債となり、投資資金を減少させます。


こうした状況に陥ると、企業が競争力を失い、必然的にマーケットから除外される道を辿ることになります。


解決策はレガシーシステムを刷新することですが、刷新するといっても、単に新しい技術で、新しいシステムにすることはお勧めできません。一定期間後に、再び同じ問題が浮上することになるからです。そこで、コアビジネスで使うシステムについては、マイクロサービス等を活用して素早く柔軟に動けるシステムとし、共通化できる業務の部分は、協調領域における共通プラットフォームやSaaSサービスを活用して効率化するなど、メリハリを付けて対応するようにしましょう。

2.DX人材の争奪戦

インターネットなどのデジタル世界の経済規模は年々拡大しており、近年では欠かせないビジネスのチャネルになっています。一方で、デジタルビジネスに参入したくても適任の人材が不在で難しいという声も多く聞かれます。


そうした中、いま求められているのは、たとえばITで何ができるかを理解し、業務やビジネス変革で求める要件を明確にして、経営改革をITシステムに落とし込んで実現するといった、ITで「企画」ができる人材です。しかし、実際のニーズとしてもIT人材がすでに質・量ともに不足していますし、今後も大幅な不足が予想されます。


高額の報酬を払って人材を調達する方法もありますが、自社との相性や定着リスクなど課題も多く、難易度は高いのが現実かと思います。そのため、時間はかかりますが、自社での人材育成が確実な方法となるでしょう。


具体的には、実際にベンダーと協創するような企画に従事させ、業務を遂行させることが人材育成になります。また、IT技術者のスキル標準や情報処理技術者試験は、ITによる改革・高度化・最適化のための基本戦略を策定・提案・推進する者の育成を目標としており、その仕組みを使って人材育成に取り組むことも有効です。


今後は、熾烈なDX人材の争奪戦になると思われますから、自社のDX人材の早期育成が重要になります。

3.デジタル産業の構造変化

次の図は、DXレポートから抜粋した「ユーザー企業とベンダー企業の相互依存関係」です。



資料出所:経済産業省「DXレポート2.1(DXレポート2追補版)」5頁


図のように、コアの事業とは異なり、ITは外部へ依存する傾向にありました。しかし、デジタルビジネスの重要性が増し、ユーザーとベンダーの関わり方も変容していることから、近年はITの産業構造にも変化が起こりつつあります。

これからのデジタル産業の事業者は、次の4つの類型に分類されるでしょう。



企業の変革をともに推進するパートナー
新たなビジネスモデルを顧客とともに開発するほか、レガシー刷新を含めたDXに向けた変革の支援

DXに必要な技術を提供するパートナーアジャイル技術者の提供やアグリゲーター(サービスや製品を組み合わせて提供)としての支援

共通プラットフォームの提供主体
個別業界の共通プラットフォームや業界横断の共通プラットフォームを提供

新ビジネス・サービスの提供主体
プラットフォーム上のサービスを組み合わせて個別のサービスを提供


今後は、ベンダーに単純に委託するのではなく、上手に活用・協創してDXを推進していくことが求められます。



最後に、レガシーシステムへの対応は、年単位の長期的な課題となります。この課題を極力、早期に解決し、自社の投資資金やDX人材を確保しながら、必要なノウハウやシステム、サービスは外部から適切に調達して、ベストミックスでDX時代を進んでいきましょう!


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