Netpress 第2277号 定期同額給与、事前確定届出給与 中小企業の役員報酬の適切な決定・変更方法を確認する

Point
1.役員報酬の支給については、会社法や法人税法によって厳格なルールが設けられています。
2.ここでは、役員報酬を株主総会で決めることを前提として、その決定方法や変更方法を確認します。


公認会計士
安藤 智洋


1.役員報酬の決定方法

役員報酬は定款もしくは株主総会で決めることとされていますが、同じ役員でも、取締役と監査役では役員報酬の決定方法に若干の違いがあります。


(1)取締役の場合

株主総会の決議では、取締役の個人別の報酬額を決めることが原則です。しかし、そうすると個人の報酬が株主に開示されてしまいます。


それを防ぐために、株主総会においては取締役全員に支給する報酬総額の上限を決定し、各人別の具体的な配分額については取締役会に一任することも可能です。


さらに、取締役会から代表取締役に一任することも可能となっています。


なお、取締役会が設置されていない会の場合には、取締役会への一任はできませんので、取締役の協議により、具体的な配分額を決定することになると考えられます。


(2)監査役の場合

監査役の報酬は、株主総会の決議によって決めるのが原則ですが、取締役と同様に報酬総額の上限を決定し、各人別の具体的な配分額については監査役の協議によって決めることも可能です。


なお、監査役の報酬を株主総会で決めることとしている趣旨は、支給額の「お手盛り」の防止ではなく、監査役の独立性の確保にあります。


このため、監査役の報酬の配分額の決定を取締役会に一任することは認められません。


(3)損金算入の要件

株主総会において適法に決議された役員報酬は、次の①と②のいずれかの要件を満たす場合には、税務上、損金に算入することができます。また、両者を併用して用いることも可能です。


なお、業績連動給与という要件もありますが、上場会社以外は利用が難しいため、ここでは割愛します。


①定期同額給与(支給時期が1か月以下の一定の期間ごとである給与で、その事業年度の各支給時期における支給額が同額であるもの)


たとえば、3月決算会社の場合には、4月から翌年3月までの毎月の支給額が同額であるものが該当します。期首の時点から支給額が固定されることで、事後的に利益調整ができないようになっています。


②事前確定届出給与(その役員の職務につき所定の時期に、確定した額の金銭等を交付する旨の定めに基づいて支給するもので、納税地の所轄税務署長にその定めの内容に関する届出をしているもの)


たとえば、決算賞与として予め税務署に支給時期と支給金額を届け出ておき、その届出どおりに支給されたものが該当します。こちらも事前に金額を決めておくことで、事後的な利益調整ができないようになっています。


税務署への届出は、次のいずれか早い日までに行う必要があります。


 ア 株主総会で賞与支給の決議をした日から1か月を経過する日
 イ その役員が職務執行を開始する日から1か月を経過する日
 ウ その事業年度開始の日から4か月を経過する日


なお、届出書に記載した役員、支給時期、支給額とは異なる支給を行った場合には、その全額が損金不算入となります。届出金額の一部だけを支給した場合にも、その金額が損金不算入となりますので、事前確定届出給与の利用にあたっては、届出事項について慎重に決定する必要があります。

2.損金算入が認められる役員報酬の変更方法

定期同額給与は、その事業年度の各月において、同額の報酬を支給することが原則ですが、次の①〜③の場合には、支給額を変更しても損金算入が認められます。


なお、報酬変更について株主総会において適法に決議されていることが前提となります。また、②と③の場合には、事前確定届出給与についても、変更の届出を行うことで支給額を変更することができます。


①期首から3か月以内の改定


事業年度開始の日から3か月を経過する日までに報酬額を変更する場合は、損金に算入することができます。前期の決算終了後に株主総会を開催し、報酬変更を決議するケースが該当します。


なお、報酬額の変更は3か月以内に決議されていればよく、たとえば3月決算の会社が6月25日の株主総会で報酬変更を決議し、7月31日から支給額を変更することも認められます。


②臨時改定事由に基づく改定


役員の職制上の地位の変更、役員の職務の内容の重大な変更その他これらに類するやむを得ない事情がある場合には、報酬額を変更しても損金に算入することができます。


「役員の職制上の地位の変更」としては、事業年度の中途において、社長が退任したことにより副社長が社長に就任する場合などが該当します。「役員の職務の内容の重大な変更」としては、合併に伴い役員の職務内容が大幅に変更される場合などが該当します。


また、「やむを得ない事情」とは、病気入院により役員報酬を減額した場合や、退院後に元の金額に戻す場合のように、客観的に判断してやむを得ないといえる状況と考えるべきです。


③業績悪化改定事由に基づく改定


経営状況が著しく悪化したことその他これに類する理由がある場合には、報酬額を変更(減額)しても損金に算入することができます。


ただし、単に業績が悪化したという程度では報酬の減額はできません。経営状況の悪化に伴い、第三者である利害関係者(株主、債権者、取引先等)との関係上、役員報酬の額を減額せざるを得ないといったように、客観的に減額理由を説明できるようにしておく必要があります。



以上、役員報酬の適切な決め方・変え方についてみてきましたが、実際に役員報酬の決定・変更を検討・実施する際には、適宜、顧問税理士もしくは税務署に相談するようにしてください。



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