Netpress 第2274号 企業の意思決定の明確化が重要 M&Aで問われるデューデリジェンス費用の税務処理

Point
1.M&Aにおけるデューデリジェンス(DD)は、その分野、範囲によって、7種類に分かれます。
2.ここでは、デューデリジェンス費用の税務上の取り扱いを中心に、実務上の留意点などを確認します。


公認会計士 金本敏男事務所
金本 敏男


企業の成長を加速する等のためにM&Aがよく行われており、そのリスク管理の面からは、吸収合併より株式取得の方法をとる事例が多いようです。


そして、買い手が、M&Aの実施に関する意思決定と、最終的にはその株式の買い取りを適正な価格で行うために、買収先から入手した情報を弁護士、公認会計士、税理士等の専門家に委託した場合に発生する調査費用等がデューデリジェンス費用であり、有価証券の取得に伴う取得関連費用となります。

1.デューデリジェンス費用

デューデリジェンスは、その分野、範囲によって、次の7種類に分かれます。


(1) 事業デューデリジェンス(事業DD)
(2) 法務デューデリジェンス(法務DD)
(3) 財務デューデリジェンス(財務DD)
(4) 税務デューデリジェンス(税務DD)
(5) 人事デューデリジェンス(人事DD)
(6) ITデューデリジェンス(ITDD)
(7) その他デューデリジェンス(環境DD、動産DD、知財DD)


これらのデューデリジェンスのうち、通常行われるのが法務DD、財務DD、税務DDであり、それぞれ主に次の内容が調査されます。


●法務DD

買収先の法務リスクに関する調査です。


株主名簿の変遷、契約書・議事録の閲覧・登記関係・許認可関係の確認は当然の手続ですが、訴訟リスクの有無も調査の範囲に入るので、弁護士に依頼することになります。


●財務DD

買収先の財務の状況、リスク、課題を分析・検討する調査です。


買収先の経営成績、財政状態、キャッシュフローの分析を行い、さらに簿外債務や偶発債務の有無についても必ず調査を行います。


●税務DD

買収先の租税リスクについて、買収元が負担するリスクの有無を調査します。


既往の税務申告と納付、組織再編の状況、移転価格税制の対応、税法上の特例の適用や同族関係者との取引の適否等を検討することになります。

2.デューデリジェンス費用の会計処理

(1)企業結合会計基準による場合

「取得」とされた企業結合の場合には、一律に発生した事業年度の費用とします。


(2)個別財務諸表上の取り扱い

企業結合会計基準によらない場合、契約が成立した場合の取得関連費用は子会社株式の取得価額に算入し、契約が成立しなかった場合は費用処理することになります。


したがって、連結財務諸表作成上は、連結修正仕訳が必要になります。

3.デューデリジェンス費用の税務処理

(1)購入した有価証券の取得価額に関する税務の原則的な考え

購入した有価証券の取得価額は、その購入の代価に購入手数料等の付随費用を加算した金額とされ、少額な通信費と名義書換料は例外的に除かれています。


(2)取得付随費用の判断と実務上の取り扱い

平成22年2月8日付国税不服審判所の裁決事例では、取締役会で株式を取得する旨の決議をした後に発生する取得関連費用は、株式を取得するための付随費用とされています。


実際のM&Aの過程においては、形式的な取締役会の前に、担当役員と関連部門において実質的に買収先が絞り込まれていて、事実上買収金額の決定のための調査が行われることもあり、そのような取得関連費用であれば、取得付随費用と判断される可能性があります。


したがって、株式取得に至る各過程を明瞭にし、買収先を実質的に判断・決定したタイミングと、各DD費用の目的・内容・範囲を明確にしておく必要があります。


そのうえで、デューデリジェンス費用のうち、買収した株式の取得価額に含めるべき付随費用と費用処理が可能な費用を明確に区分経理して、税務当局に説明できるようにしておかなければなりません。


(3)その他の留意事項

①株式取得の意思決定後も損金算入できる費用


株式取得の意思決定後に発生する費用であっても、たとえば弁護士費用で、買収する子会社の労働問題を解決するための交渉費用や、買収する子会社の技術提携に関し円滑な技術援助契約を進めるための交渉費用は、株式の取得には関係がありません。


したがって、こうした費用は損金算入できることになります。


②吸収合併の方法を選択した場合


M&Aにおいて株式を取得せず、吸収合併の方法を選択した場合のデューデリジェンス費用は、税務上、吸収合併により取得する減価償却資産や棚卸資産の取得価額に含めることなく一時の損金として処理できる、との国税庁の見解があります。


したがって、株式取得にさまざまなリスクがないことが確認できる場合には、吸収合併の方法を選択する可能性もあり得ることになります。



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