Netpress 第2259号 積極的な活用を! Web株主総会の概要と実務上の留意点

Point
1.株主総会を開催するにあたって、Web会議システム等を活用することが可能です。
2.リアルの会場での株主総会の開催とオンライン参加を併用する「ハイブリッド型」での実施は、上場会社・非上場会社を問わずに可能です。
3.オンライン参加による株主総会を有効に行うためには、十分な準備等が必要となります。


梅田総合法律事務所
弁護士 沢田 篤志


1.Web株主総会に関する法的ルールと実施方法の種類

会社法においては、株主総会を開催する物理的な「場所」の存在を前提とする規定を置いています(会社法298条1項1号)。


そのため、原則としては、物理的な会場では実施せずにオンライン上でのみ実施する「バーチャルオンリー型」の株主総会の開催は難しいとされています。


もっとも、現行の会社法のもとでも、物理的な会場でリアルの株主総会を開催しつつ、これとオンラインのツールを併用して、役員や株主が遠隔地から参加することは可能です(会社法施行規則72条3項1号)。


経済産業省は、リアルとオンラインを併用する株主総会の実施方法を「ハイブリッド型」の「バーチャル株主総会」と呼んでいます。同省は2020年に「ハイブリッド型バーチャル株主総会の実施ガイド」、2021年に「ハイブリッド型バーチャル株主総会の実施ガイド(別冊)実施事例集」を公表しており、参考にすることができます。


なお、上場会社の場合には、産業競争力強化法の改正により、経済産業大臣等の確認や定款変更等の一定の要件を満たした場合に、会社法の特例として「場所の定めのない株主総会」(物理的な会場を用意せず、役員や株主がインターネット等の手段により出席する、バーチャルオンリー型の株主総会)を開催することができることになりましたが、非上場会社にはこのような特例はありません。


したがって、上場会社・非上場会社を問わずに実施できるのは、リアル開催の株主総会とオンラインのツールによるアクセスを併用する「ハイブリッド型」ということになります。


以下では、主に、リアルとオンラインを併用する「ハイブリッド型」の株主総会を実施する場合の留意点について説明します。

2.「出席型」と「参加型」の違い

リアルとオンラインを併用する「ハイブリッド型」の株主総会には、大別して、「参加型」(オンライン参加の株主が法的な意味では出席と認められない方法)と、「出席型」(オンライン参加の株主が法的な意味で出席と認められる方法)の2種類があります。


(1)参加型

「参加型」の場合、オンライン参加の株主は、法的な意味での出席はしていないものとして取り扱われます。


そのため、オンラインで質問や動議の提出はできませんし、オンラインで議決権行使をすることもできません。中継動画等の配信を受ける等の方法で、いわば株主総会を「傍聴」する形態で参加することになります。


株主総会議事録においても、オンライン参加の株主は出席株主としては記載されません。


(2)出席型

「出席型」の場合、オンライン参加の株主が法的な意味で出席しているものとして取り扱われます。


運営方法にもよりますが、オンラインで参加しつつ、出席株主として質問や議決権行使を行い得ることになります。


株主総会議事録においても、オンライン参加の株主は出席株主として記載されます。


とりわけ「出席型」においては、株主の権利を確保し、株主総会の手続に瑕疵を生じないために、周到な準備・対応が必要になります。


具体的な準備・対応としては、次のようなものが挙げられます。



インターネット等により、リアルの株主総会を開催している会場とオンライン参加の株主との間で、情報伝達の「双方向性」と「即時性(リアルタイム性)」が確保されている環境が必要

株主の本人確認のため、ID・パスワードその他の方法による適切な認証の仕組みが必要

オンラインでの質問・動議の取り扱い、議決権行使の具体的な方法について、検討・準備・参加者への事前説明等を行う

通信障害対策のために、事前にテストを行い、バックアップのシステムを用意する等の準備が必要

万一、総会の途中で通信に不具合が起きてしまった場合には、いったん休憩を入れて復旧後に続行する等の適切な対応を行う

議長は、議事の進行にあたって、リアルで開催する株主総会よりも、さらに丁寧な進行を心がけるとともに、オンライン参加の株主に通信のタイムラグや不具合が発生していないかを十分に確認しつつ議事進行を行う

株主総会議事録の作成にあたっては、オンライン参加の株主も「出席」した前提で作成し、また、「出席の方法」(Web会議システムの使用等)を記載する


実際の準備・対応にあたっては、あらかじめ弁護士に相談することをお勧めします。

3.非上場の中小企業やスタートアップ企業における活用

上場企業においては、多数の株主が存在しますので、オンラインで「バーチャルオンリー株主総会」や「ハイブリッド型/出席型」の株主総会を開催する場合には、上記のとおり、かなり周到な準備作業が必要になります。


これに対し、非上場の中小企業やスタートアップ企業で、かつ、少数の限られた株主しかいない株式会社においては、Web会議システム等を通じて議長がオンライン参加者と丁寧にコミュニケーションをとりながら議事進行を行うならば、法的に有効な方法でオンライン利用の「ハイブリッド型/出席型」の株主総会を開催することは十分に可能です。準備作業のハードルも、それほど高くないように思われます。


ぜひ、積極的なオンライン利用の「ハイブリッド型/出席型」の株主総会の活用をご検討ください。



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