Netpress 第2076号 ニューノーマル時代の働き方「ワーケーション」の活用を考えてみませんか?

■POINT
1.テレワークが普及したコロナ禍において、「ワーク(仕事)」と「バケーション(休暇)」を組み合わせた「ワーケーション」という働き方が注目されています。
2.ここでは、ワーケーションのメリットや課題を確認したうえで、導入方法と留意点などをみていきます。


社会保険労務士 寺島 有紀


「ワーケーション」とは、観光地やリゾート地といった普段の勤務場所から離れたところで、余暇を楽しみながら仕事を行う働き方を指しています。
以下では、新しい働き方の選択肢の一つであるワーケーションについて紹介します。

1.ワーケーションのメリットと課題

ワーケーションを企業が導入するメリットとしては、次のようなものが挙げられます。
・優秀な従業員の確保・採用力強化
・年次有給休暇の取得促進・労働時間削減
・従業員のリフレッシュ効果
一方で、ワーケーションを導入するにあたっては、次のような労務管理上の課題があります。


(1) 労働時間等の制度設計

通常の固定的な労働時間制でもワーケーションを行うことは可能と考えられますが、その場合、従業員は所定労働時間中に「中抜け」がしにくくなります。
たとえば、所定労働時間の中で観光に行くと中抜け時間となり、その時間は労働時間になりません。そのため、賃金控除を発生させたくない場合には、終業時間の繰り下げなどが必要となり、結局、ワーケーション先で夜遅くまで働くということにもなりかねません。
このような問題を解決するには、フレックスタイム制や裁量労働制などの柔軟な労働時間制の活用、半日単位・時間単位の年次有給休暇の導入といった解決策があります。
いずれにせよ、ワーケーションの導入では、就業規則の改定や労使協定の策定・届出などが必要になります。


(2) 勤怠管理の重要性

特に重要なポイントは、「仕事をしている時間」と「仕事をしていない時間」の区別をつけておくことです。この労働時間の境目が曖昧になると、ワーケーション中に従業員が働いているのかどうかが把握できませんし、ワーケーションをしていない従業員の不公平感が募る原因にもなります。


(3) 労災認定の問題

ワーケーションの仕事場は、通常業務を行う場所ではないことから、ワーケーション中にケガ等をした場合、労災認定の要件である業務起因性・業務遂行性が、通常より認められにくいことが予想されます。

2.ワーケーション導入のステップ

ステップ1 テレワークのできる体制構築

ワーケーションの大前提として、日常的にテレワークができる体制が社内に整っている必要があります。自社のテレワークの環境を再確認し、整っていないのであれば、基本となるテレワークの体制を構築します。


ステップ2 ワーケーションの枠組みの設計

ワーケーションの枠組みを設計します。ワーケーション導入の際の主な検討事項は、次のとおりです。


①ワーケーション先の制限(範囲)

安全配慮義務の観点も踏まえて、世界中どこでもOKとする、日本国内のみとする、会社が契約しているホテル等のワーケーション施設のみとするなど、ワーケーション先の制限(範囲)を決める必要があります。

どこであっても、オンラインミーティング等がスムーズにできるような安定したインターネット回線環境は必須です。


②ワーケーションの利用日数

あまりにワーケーション期間が長くなると、通常勤務の従業員とのコミュニケーションに支障が出る可能性があります。3日から1週間程度を上限とするのが現実的なラインと思われます。

また、会社によっては、繁忙期を避けるため、「○月〜○月に限る」といった制限が必要になるかもしれません。


③年次有給休暇との関係

ワーケーション導入の主目的が、従業員のリフレッシュと年次有給休暇の取得促進にある場合、ワーケーションの期間中に年次有給休暇(1日もしくは半日や時間単位)の利用を促すことになるでしょう。

その場合は、ワーケーション時に年次有給休暇の取得をセットにしてもらうというルールが必要です。


④ワーケーション時の費用負担

ワーケーションにかかる交通費、宿泊費等の負担について、あらかじめ明確にしておかなければなりません。

一般的に全額会社負担とすることは考えにくいので、全額自己負担とするか、半額は会社負担とするかなどを検討する必要があります。


⑤申請や実施中のルールの検討

ワーケーションの申請ルールも決めておきたいところです。

また、ワーケーションだからこそ必要な実施中のルールも事前に検討しておきましょう。


ステップ3 ルール化・周知

ステップ1と2で検討してきた内容を、就業規則等の規程に落とし込みます。



なお、トライアルでワーケーションを始める場合には、まずは内規的なもので従業員に周知し、実際に恒久的な導入となった場合に就業規則等に盛り込むのが現実的です。
また、テレワーク規程がある企業は、ワーケーションに関する条文をテレワーク規程に入れ込むと、スムーズな導入につながるでしょう。
策定したルールは、従業員に周知します。



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