Netpress 第2075号 最優先で取り組みたい!「ハラスメント」防止のために講じるべき措置とは

■POINT
1.企業の人事・労務管理において、ハラスメント対策は、避けては通れない重要な課題となっています。
2.ハラスメントの内容と法的な留意点を踏まえて、企業に求められる対応や措置について解説します。


特定社会保険労務士 坂本 直紀


セクシュアルハラスメント、パワーハラスメント、妊娠・出産、育児休業等に関するハラスメントなど、職場でハラスメントが発生すると、さまざまな法的問題や悪影響が生じます。
企業に対しては、法律と指針により、ハラスメントについて雇用管理上の措置義務が課せられています。以下では、企業が講じるべき雇用管理上の措置義務の内容について解説します。
なお、中小企業について、パワーハラスメントに関する雇用管理上の措置義務は、2022年3月31日まで努力義務とされていますが、2022年4月1日から義務となります。

1.事業主の方針等の明確化とその周知・啓発


(1) ハラスメントの内容、方針の明確化と周知・啓発

職場におけるハラスメントの内容と、職場におけるハラスメントを行ってはならない旨の方針を明確化し、管理監督者を含む労働者に周知・啓発します。

また、妊娠・出産、育児休業等に関するハラスメントについては、併せて、妊娠・出産、育児休業等に関する否定的な言動が、職場におけるハラスメントの発生の原因や背景となり得ること、制度等の利用ができる旨を明確化し、管理監督者を含む労働者に周知・啓発する必要があります。
周知・啓発の方法としては、就業規則、社内報や社内ホームページ、パンフレット等への記載・配付、研修の実施などがあります。


(2) 行為者への厳正な対処方針、内容の規定化と周知・啓発

行為者(職場におけるハラスメントに係る言動を行った者)に対して、厳正に対処する旨の方針と対処の内容を就業規則その他の職場における服務規律等を定めた文書に規定したうえで、管理監督者を含む労働者に周知・啓発します。

就業規則等において、行為者を懲戒処分の対象として明確に規定することなどが必要になります。

2.相談に適切に対応するための体制の整備


(1) 相談窓口の設置

苦情を含む相談への対応のための窓口(相談窓口)をあらかじめ定め、労働者に周知します。相談に対応する担当者をあらかじめ定めたり、相談に対応するための制度を設けたりすることが必要になります。

なお、外部の機関を利用する(相談対応を委託する)ことも可能です。


(2) 相談に対する適切な対応

相談窓口の担当者が、相談に対し、その内容や状況に応じて適切に対応できるようにします。また、被害を受けた労働者が萎縮するなどして相談を躊躇する例があること等も踏まえ、相談者の心身の状況や当該言動が行われた際の受け止めなど、その認識にも配慮する必要があります。

ハラスメントが現実に生じている場合だけでなく、発生のおそれがある場合や、ハラスメントに該当するか否か微妙な場合であっても、広く相談に応じ、適切に対応することが求められます。

3.ハラスメントへの事後の迅速かつ適切な対応


(1) 事実関係の迅速かつ正確な確認

職場におけるハラスメントに係る事実関係について、迅速かつ正確に確認します。

たとえば、相談窓口の担当者が、相談者の心身の状況などにも適切に配慮しながら、相談者・行為者の双方から事実関係を確認します。また、相談者と行為者の主張に不一致があり、事実の確認が十分にできないと認められる場合は、必要に応じて第三者からも事実関係の聴取を行います。


(2) 被害者に対する適正な配慮措置の実施

ハラスメントが生じた事実が確認できた場合には、速やかに被害者に対する配慮措置を適正に行います。

具体的には、事案の内容や状況に応じて、被害者と行為者の間の関係改善に向けての援助、行為者の謝罪、被害者のメンタルヘルス不調への相談対応などが挙げられます。


(3) 行為者に対する適正な措置の実施

ハラスメントが生じた事実が確認できた場合には、就業規則などに基づき、行為者に対して必要な懲戒その他の措置を講じるなど、行為者に対する措置も適正に行う必要があります。


(4) 再発防止措置の実施

改めて、ハラスメント対策のための研修を実施するなど、職場におけるハラスメントに関する方針を周知・啓発する等の再発防止に向けた措置を講じます。

なお、ハラスメントが生じた事実が確認できなかった場合も、同様の措置を講じる必要があります。

4.妊娠・出産、育児休業等のハラスメントの原因等を解消するための措置


妊娠・出産、育児休業等に関するハラスメントの原因や背景となる要因を解消するための措置を実施します。
具体的には、業務体制の整備など、事業主や妊娠等した労働者、制度等を利用する労働者その他の労働者の実情に応じて、必要な措置を講じる必要があります。周囲の労働者への業務の偏りを軽減するよう適切に業務分担の見直しを行うことや、業務を点検して効率化を図ることなどが挙げられます。
労働者の側においても、制度等の利用ができるという知識を持つことや、周囲と円滑なコミュニケーションを図りながら、体調や制度の利用状況等に応じて適切に業務を遂行していくという意識を持つことが重要です。

5.併せて講じるべき措置


(1) プライバシー保護のための措置の実施と周知

職場におけるハラスメントに関する相談者・行為者等の情報は、その相談者・行為者等のプライバシーに属するものです。したがって、相談への対応またはそのハラスメントに関する事後の対応にあたっては、相談者・行為者等のプライバシーを保護するために必要な措置を講じるとともに、その旨を労働者に周知します。

なお、ここでのプライバシーには、性的指向・性自認や病歴、不妊治療等の機微な個人情報も含まれます。


(2) 不利益な取り扱いをされない旨の定めと周知・啓発

職場におけるハラスメントに関し、労働者が相談したことや、事実関係の確認等に協力したことなどを理由として、解雇その他の不利益な取り扱いをされない旨を定め、労働者に周知・啓発します。



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