マネプラ・オピニオン 諸行無常と経済再生

本コラム「マネプラ・オピニオン」は、6名の識者の方々に輪番制でご担当頂きます。それぞれがご自身の視点で経営者の方々へのメッセージをまとめた連載コラムです。



今や失われた30年となり、とりわけわが国の所得レベルの停滞は甚だしい。所得は勤労者一人当たりの概念だから、少子高齢化や人口減少は直接的には関係ない。停滞の真因は何か?


20年前に産業再生機構でバブル崩壊の後遺症と戦って以来、私は、さまざまな産業で大中小の企業が抱える問題に取り組んできた。そこから見えてくる停滞の最大の原因は、世界経済がグローバル革命とデジタル革命で破壊的イノベーションの時代に入っていく中で、日本は産業も企業もほとんど新陳代謝せず、古い産業構造、ビジネスモデルから脱却できなかったことである。


世界比較で見ても廃業率と創業率はほぼ比例し、かつ経済成長率と比例する。経済社会も一つの生態系であり、企業や産業の死と生の循環が全体の健全性と進化発展を促すのである。しかし、昭和の高度成長の成功体験に縛られ、私たちは終身雇用制を柱に個別企業が個人の人生の中核的セーフティネットとなる会社内共助型の社会システムに執着し、これを政労使と主要メディアも後押ししてきた。この仕組みにおいて企業の退出は絶対悪であり、政策的には倒産回避のために助成金や金融支援を繰り出し、終身雇用制を守るため解雇規制を厳格化する。結果、長年にわたり倒産率は世界最低レベルを維持してきたが、古い企業、産業が温存され、労働移動は起こらないので、生産性も賃金も上昇しない。しかも会社内共助システムに包摂されない非正規雇用やフリーターは増加するばかりである。


仏教は「諸行無常」と教える。万物は生々流転する。その理(ことわり)に抵抗してきたのが、この30年間の日本経済である。いい加減、諸行無常の理に従って、企業と産業の新陳代謝を受け入れよう。そして個々人に対しては正規非正規に関係なく、社会がより直接的なセーフティネットを張り巡らす社会共助型の経済社会システムに大転換しようではないか。これが持続的経済再生への唯一の王道なのだ。



◎「SMBCマネジメント+」2023年1月号掲載記事

プロフィール

株式会社日本共創プラットフォーム(JPiX) 代表取締役社長 冨山和彦

株式会社ボストン コンサルティング グループ、株式会社コーポレイト ディレクション代表取締役を経て、2003年、株式会社産業再生機構設立に参画しCOOに就任。解散後、07年に株式会社経営共創基盤(IGPI)を設立し代表取締役CEOに就任。20 年10月よりIGPIグループ会長。20 年に株式会社日本共創プラットフォーム(JPiX)設立、代表取締役社長に就任。パナソニック株式会社 社外取締役、経済同友会政策審議会 委員長、日本取締役協会会長、政府関連委員多数。

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