Netpress 第2237号 待ったなし! 70歳までの就業機会確保どのように進めればよいか
1.70歳までの就業機会確保(努力義務)については、各会社によって取り組みに大きな差があるのが現状です。
2.ここでは、70歳までの就業機会確保の内容を再確認するとともに、その進め方のポイントを紹介します。
社会保険労務士法人マイツ
代表社員 藤田 隆宏
皆さんご存知の通り、日本は少子高齢化が急速に進展し、人口が減少するなかで、経済社会の活力を維持することが重要な課題の一つとなっています。
その対策として、働く意欲がある高年齢者がその持っている能力を十分に発揮でき、高年齢者が活躍できる環境の整備を目的として、「高年齢者等の雇用の安定等に関する法律」(以下、「高年齢者雇用安定法」といいます)が改正され、2021年4月1日から施行されています。
1.70歳までの就業機会確保(努力義務)について
2013年4月1日施行の改正高年齢者雇用安定法の内容は次のとおりです。
<65歳までの雇用確保措置(義務)> | |
〇60歳未満の定年禁止 | |
会社が定年を定める場合には、その定年は60歳以上にしなければならない。 | |
〇65歳までの雇用確保措置 | |
定年を65歳未満に定めている会社は、以下のいずれかの措置を講じなければならない。 | |
①65歳までの定年の引き上げ ②定年制の廃止 ③65歳までの継続雇用制度 | |
継続雇用制度の適用者は、原則として「希望者全員」。2013年3月31日までに労使協定により対象者の基準を定めていた場合は、その基準の適用年齢を2025年3月31日までに段階的に引き上げる必要がある。 |
この65歳までの雇用確保措置(義務)に加えて、65歳から70歳までの就業機会を確保するため、2021年4月1日から、以下のいずれかの措置を講ずる努力義務が新設されています。
<70歳までの就業機会確保(努力義務)> | |
①70歳までの定年引き上げ | |
②定年制の廃止 | |
③70歳までの継続雇用制度の導入(子会社等の特殊関係事業主に加え、他の事業主によるものを含む) | |
④70歳まで継続的に業務委託契約を締結する制度の導入 | |
⑤70歳まで継続的に以下の事業に従事できる制度の導入 | |
a.事業主が自ら実施する社会貢献事業 | |
b.事業主が委託、出資(資金提供)等する団体が行う社会貢献事業 |
前頁の④⑤は「創業支援等措置」と呼ばれており、この措置を実施する場合には以下の手続が必要になります。
1.創業支援等措置に向けた計画を作成する
2.計画について、過半数労働組合等の同意を得る
3.労働者に計画を周知する
2.高年齢者雇用安定法における罰則
高年齢者雇用安定法における65歳までの雇用確保措置(義務)と、70歳までの就業機会確保措置(努力義務)について、会社が対応できていない場合でも罰則はありません。
しかし、ハローワーク等は、この雇用確保措置(義務)または就業機会確保措置(努力義務)に未対応の会社に対して、高年齢者雇用安定法に基づき、指導・助言ができるとされています。
さらに、ハローワーク等が指導を行った場合において、会社の状況が改善していないと認められるときは、高年齢者雇用確保措置を講ずべきこと、または高年齢者就業機会確保措置の実施に関する計画の作成を勧告される場合がありますので、留意していただければと思います。
3.70歳までの就業機会確保を進める際のポイント
会社として、現状の実態(業種・規模・従業員構成等)を再認識したうえで、70歳までの就業機会確保措置の内容を十分に理解し、今後の方針について経営者層が中心となってトップダウンで検討していくことが重要です。
また、高年齢者は年を重ねることによって、経験を積んで能力が上がる人、それまでとまったく変わらない人、体力等が落ちる人と、仕事に対する能力のばらつきが多いのが特徴です。この高齢者の多様性を理解することが必要です。
高年齢者が活き活きと働ける仕組みをつくるために、次のような点が検討のポイントとして考えられます。
①やりがいのある役割や仕事を提供する
②負担のかからない職場環境をつくる
③多様性に応じた複数の勤務体系を用意する(下表参照)
④高年齢者向けの人事評価制度を作成し、できる限り制度を「見える化」して、公平性や納得性を高める
<例>複数の勤務体系 ― 60歳定年、定年まで正規雇用の場合を前提
タイプ | 業務の内容・ 責任の程度 | 考えられる 雇用制度 | 考えられる 賃金・評価制度 | |
1 | バリバリ活躍型 | 60歳前と同じ | 定年延長(定年廃止)または継続雇用制度 | 60歳前と同じ |
2 | 無理なく活躍型 (フルタイム) | 60歳前より軽く <例> | 継続雇用制度 | 60歳前と比べて不合理な待遇差が発生しないよう、継続雇用のための制度を整備 |
3 | 無理なく活躍型 (パートタイム) | ・身体的負担の大きい業務をなくす ・転勤を伴う業務をなくす ・役職を外し、社内アドバイザーや教育・研修など、若手・中堅層のサポートを担ってもらう |
4.最後に
2021年4月から努力義務とされた70歳までの就業機会確保措置については、各会社で対応の差が大きく、まだ取り組む必要がないと考えている会社もあるかもしれません。しかしながら、いずれはどの会社でも、大なり小なり少子高齢化の影響は避けられない状況ですので、将来に向けた対応を見据えて、少しずつでも高年齢者の活用に取り組んでいくことが事業を継続していくうえで重要になるでしょう。
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