多田智子の働き方改革関連コラム 年金制度改正(被用者保険における適用範囲の拡大、iDeCo加入要件緩和等)

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今回は、年金制度改正についてお知らせします。


年金制度は必要なときに給付を受けることができる社会保険の1つですが、今回、被用者保険の適用範囲拡大や、在職中の年金受給の在り方など、多くの制度が見直されています。この年金制度は2022年4月1日より、段階に分けて改正され、施行される予定となっています。


改正される内容は、主に以下の4点となります


  1. 被用者保険における適用範囲の拡大(2022年10月施行)
  2. 在職中における年金受給の仕組みの見直し(2022年4月施行)
  3. 受給開始時期における選択肢の拡大(2022年4月施行)
  4. 確定拠出年金における加入可能要件の見直し等(2022年4月、2022年5月、2022年10月施行


導入の背景

背景として、現状、特に高齢者や女性の就業が進み、より多くの人がこれまでよりも長い期間にわたり多様な形で働くようになることが見込まれていることから、こうした社会・経済の変化を年金制度に反映するため、改正が行われています。


①被用者保険における適用範囲の拡大(2022年10月施行)

今回の改正でもっとも影響の大きい内容が、年金制度の適用対象の拡大です。


従業員規模常時500人超の事業所を「特定適用事業所」といいますが、この「特定適用事業所」で働くアルバイトやパートなどの短期間労働者が「週の所定労働時間が20時間以上」等の要件を全て満たすと、厚生年金保険・健康保険の加入が義務づけられていました。


現在、従業員が500人超の事業所が「特定適用事業所」とされていましたが、この規模要件を、2022年10月には「従業員101人以上規模」、2024年10月には「従業員51人以上規模」の企業と、段階的に引き下げが行われます。これにより、社会保険の適用の範囲が小規模事業所にも広がることとなります。


○従業員規模のカウントは?

→単純に従業員数でカウントするわけではなく、厚生年金保険の被保険者数によってカウントします。


②在職中における年金受給の仕組みの見直し(2022年4月施行)

定年後再雇用など、長く働くことが可能になった現在、就労を継続したことの効果を退職を待たずに早期に年金額に反映することを目的に「在職定時改定」が導入されました。


今まで、厚生年金の受給権を取得した後に、働き続けるなどして引き続き厚生年金に加入している場合、退職等をしない限り、受給権取得後に勤務した部分の加入期間は加算されず、厚生年金の額は改定されませんでした。そして、退職等の資格喪失時になってはじめて受給権取得後の勤務部分を加味した年金額が再計算されるという仕組みとなっていました。


この点について、改正後は、在職中であっても1年に1回、9月1日を基準日として、これまで勤務した部分を加味して年金額が改定されることとなりました。



【改正前】

(出典)厚生労働省 年金制度改正法の概要


【改正後】
(出典)厚生労働省 年金制度改正法の概要


③受給開始時期における選択肢の拡大(2022年4月施行)

老齢基礎年金および老齢厚生年金の受給開始年齢は原則65歳からですが、実際の受給開始時期は申請により繰上げ又は繰り下げが可能となっており、受給開始を60歳~70歳までの間で選択できるようになっていました。この場合、早く受給開始した場合(繰り下げ)には年金額が月0.5%減額になり、逆に遅く受給開始した場合(繰上げ)には年金額が月0.7%増額されていました。

この仕組みについて、より柔軟に年金受給の方法を選択できるように改正がなされています。

<年金の受給開始時期>
◆改正前:60歳から(原則65歳から5年繰り下げ・月0.5%減額)
70歳まで(原則65歳から5年繰上げ・月0.7%増額)の間で受給開始を選択可
◆改正後:60歳から(原則65歳から5年繰り下げ・月0.4%減額)
75歳まで(原則65歳から10年繰上げ・月0.7%増額)の間で受給開始を選択可

④企業型確定拠出年金加入者のiDeCo加入要件緩和

企業型確定拠出年金とは、企業が掛金を毎月積み立てて、従業員(加入者)が自ら年金資産の運用を行う制度をいいますが、これまで、企業型確定拠出年金(以下、「企業型DC」)に加入している方は、ほぼiDeCo(加入者自身が掛金を毎月積み立てる、個人型の確定拠出年金)に加入できませんでした。

その理由として、企業型DC加入者がiDeCoに加入できることを規約に定めた場合に限られ、それ以外の方は原則iDeCoとの同時加入が認められていなかったためです。

今回、このような規約の定めがなくてもiDeCoと企業型DCの同時加入が選択できるようになります。なお、同時加入する際のiDeCoの拠出限度額は次の3つのルールを満たす範囲までとなります。

◆ 企業型DCの事業主掛金が月の上限(55,000円※)の範囲内で各月拠出であること
◆ iDeCoの掛金が55,000円※から各月の企業型DCの事業主掛金を控除した残余の範囲内(上限20,000円※) で各月拠出であること
◆ 企業型DCのマッチング拠出(加入者掛金拠出)を利用していないこと
(企業型DCの会社掛金に本人が掛金を上乗せ拠出することができるマッチング拠出を導入している場合、iDeCoに加入することはできません)
※ 企業型DCと確定給付型に加入する方は 55,000円 → 27,500円、20,000円 → 12,000円


例えば、企業型DCに加入している場合、月額55,000円から各月の企業型DCの事業主掛金を控除した残余の範囲内(上限20,000円)で、iDeCo の掛金を各月拠出できるようになります。(下記①)

企業型DCと確定給付型(DBなど)に加入している場合は月額27,5000円から各月の企業型DCの事業主掛金を控除した残余の範囲内(上限12,000円)で、iDeCo の掛金を各月拠出できるようになります。(下記②)

(出典)国民年金基金連合会iDeCo公式HP

この改正により、年金に関するルールが「長く働きながら自助努力を通じて将来に備える」ということを想定したものに変わっています。年金を受けながら働けるような仕組みが導入され、また年金の繰下げ受給を選択すると1ヶ月ごとに0.7%年金が増加するため、できるだけ長く働いて年金の受給開始を遅らせることも可能になりました。企業型DCやiDeCoといった年金制度も活用しやすくなったことで、自分自身で将来に備えることの重要性が高まってきています。

詳細について以下のリンクをご参照ください。

※関連リンク
〇日本年金機構「令和4年10月からの短時間労働者に対する健康保険・厚生年金保険の適用の拡大」
〇日本年金機構「在職老齢年金制度の見直し」
〇日本年金機構「繰下げ受給の上限年齢引上げ」
〇日本年金機構「繰上げ受給の減額率の見直し」
〇厚生労働省「企業型DC加入者のiDeCo加入の要件緩和(2022年10月1日施行)」


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プロフィール

多田国際コンサルティンググループ 代表社会保険労務士 多田智子

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