多田智子の働き方改革関連コラム デジタル給与の解禁へ
今回は、デジタル給与についてお知らせします。
会社が銀行口座ではなく、スマートフォン決済アプリといったデジタル給与で支払うことも可能とする制度設計案が厚生労働省より2023年9月に公表されました。
従来、労働基準法では、賃金は通貨払いを原則とし、例外として、労働者の同意を得た場合、銀行口座への振込と証券総合口座への払込による賃金支払を認めていましたが、デジタル給与での支払いも例外として認めるとしています。
まず、対象となる資金移動業者は、以下①~⑤の要件をすべて満たすものとして、厚生労働大臣が指定します。
① 破産等により資金移動業者の債務の履行が困難となったときに、労働者に対して負担する債務を速やかに労働者に保証する仕組みを有していること。
② 労働者に対して負担する債務について、当該労働者の意に反する不正な為替取引その他の当該労働者の責めに帰すことができない理由により当該労働者に損失が生じたときに、当該損失を補償する仕組みを有していること。
③ 現金自動支払機(ATM)を利用すること等により口座への資金移動に係る額(1円単位)の受取ができ、かつ、少なくとも毎月1回は手数料を負担することなく受取ができること。また、口座への資金移動が1円単位でできること。
④ 賃金の支払に関する業務の実施状況及び財務状況を適時に厚生労働大臣に報告できる体制を有すること。
⑤ ①~④のほか、賃金の支払に関する業務を適正かつ確実に行うことができる技術的能力を有し、かつ、十分な社会的信用を有すること。
この資金移動業者は口座残高上限額を100万円以下に設定している(又は100万円を超えた場合でも速やかに100万円以下にするための措置を講じている)ことを前提とし、100万円を超えた場合には、当日中に、労働者の資金移動業者の口座からの出金を行うこととしています。
また、デジタル給与での支払いを行うにあたって、会社は以下の事項に留意する必要があります。
〇労働者の同意を得ること
使用者は、労働者の同意を得た場合には、厚生労働大臣が指定する資金移動業者の口座であり、賃金支払口座としての要件を満たす口座への賃金支払ができるものとしています。
その際、使用者は、労働者に対し、銀行口座又は証券総合口座への賃金支払も併せて選択肢として提示する(提示する選択肢として、現金か資金移動業者の口座かの2択は認められないこととする)とともに、資金移動業者の口座への賃金支払について必要な事項※を説明の上、労働者の同意を得なければならないこととしています。
※滞留規制、破綻時の保証、不正引出の補償、換金性、アカウントの有効期限等。
なお、使用者が労働者の同意なく、資金移動業者の口座に賃金支払を行った旨、労働者から申告があった場合には、労働基準監督署において適切に対応するとされています。
〇同意書の様式について
労働者の同意書の様式例に、資金移動業者の口座の性質や、労働者の利用実績を踏まえた給与振込額とする必要があることなどを記載し、資金決済法において想定している為替取引の範囲内での利用となるようにするとしています。
また、同意書だけでなく、賃金のうち大半の額を銀行口座、一部の金額のみを資金移動業者口座に振り込む例などを記載したリーフレット等の作成・周知が予定されているため、今後の公表に注目です。
〇労使協定の締結について
銀行口座等への振込と同様に、労使協定を締結する取扱とすることが必要です。
具体的には、事業場内でのルール設定をする際、銀行口座等と同様に、①対象労働者の範囲、②対象となる賃金の範囲及びその金額、③取扱資金移動業者の範囲、④実施開始時期などについて、労使協定を締結することとしています。
このデジタル給与の支払いについて、2023年の春には解禁の可能性があることを示す報道もありますが、行政からの公表を随時確認していく必要があります。
詳細について以下のリンクをご参照ください。
※関連リンク
○厚生労働省「資金移動業者の口座への賃金支払について課題の整理⑦」
https://www.mhlw.go.jp/content/11201250/000988916.pdf
企業における働き方改革関連制度の導入について、何からスタートしていいのかわからない、他社事例を知りたいなど悩みが多いかと思います。上場企業を中心に240社の相談顧問先を有する多田国際社会保険労務士法人がサポートします。 http://wsr.tk-sr.jp/
プロフィール
多田国際コンサルティンググループ 代表社会保険労務士 多田智子
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