Netpress 第2222号 撤退を検討する企業が増加! 迅速かつ確実に中国現地法人を閉じるには

Point
1.手続の規範化・簡素化が進む清算制度により、中国現地法人の清算と資本回収が容易になりました。
2.ここでは、中国現地法人の清算手続のポイントと、清算により残余財産を回収した企業事例を紹介します。


株式会社マイツ 国際事業部
中国室 室長 古谷 純子


お客様と面談をしていると、「中国から配当送金はできないですね?」「中国では、外資企業が撤退しようとしても、地方政府が認めてくれないのですか?」「中国からの撤退は難しいのですか?」等々のご質問をいただきます。


しかし、以前の中国であれば兎も角、現在の中国では、配当送金ができることはもちろん、撤退に係る法規制も整い、また行政機関の簡素化も進んでいます。さらに、地方政府側では、企業の誘致実績に偏重した人事評価は過去のものとなっています。


そこで本稿では、現在では中国現地法人の清算が可能になったこと、かなり短期間で清算できることをお伝えします。

1.清算時のポイント:手続の規範化、簡素化の観点

◆ポイント1:清算時に、中国政府当局の認可が不要に!

以前は、現地法人を清算する際には、商務部門による審査を受け、認可を取得する必要がありました。


しかし、現在では、(外商投資ネガティブリストに該当する)特殊な業種ではない限り、行政当局による清算の認可ではなく届出制へと移行しており、ポイント2のような定められた手続に従って清算することができます。


◆ポイント2:清算時に求められる手続が規範化!

過去には、地方により、求められる清算手続が異なるケースも散見されましたが、現在では清算時の手続は基本的に規範化されています。


実務的には、現地法人の所在地当局に確認しつつ対応する必要があるものの、以前のような地域による大きな差異はなく、基本的には下表のフローに則って清算手続を実施することになります。



清算決議(株主会)

清算委員会の設置

清算決議、清算委員会の開示(国家市場監督管理総局=旧国家工商管理総局が所管)

知られざる債権者への清算告知(清算委員会設置から10日以内に公告開始、1回) ➤知れたる債権者には、別途通知義務がある

解散事業年度の監査

資産換価処分・経済補償金の支払い

清算結了年度の監査、税務申告

監督諸官庁抹消登記

国家企業信用情報開示システムにて会社終了(「登記抹消」の開示)

残余金の送金

銀行口座の抹消 ➤クロージング


また、以前は税務申告(上表⑦)の手続が進まず、数か月のみならず数年に及んだり、実質的に止まってしまったりするケースも見受けられました。


現在でも、この税務申告は、清算時点において従業員の解雇と並ぶ、最も問題化しやすい項目であることに変わりはありません。


しかし、現地法人が適切な税務処理をしている場合には、通常、この手続は迅速に完了しているのが現状です。弊グループの中国拠点が清算実務に対応しているケースでは、1~2か月程度で完了した事例も複数見受けられ、いまでは決して鬼門の手続ではなくなっています。


◆ポイント3:清算手続のオンライン化が進展!

現在の中国では、日本以上に行政手続のオンライン化が進んでいます。清算決議、清算委員会の開示や債権者に対する通知・公告は、国家企業信用情報開示システム上で行うことが可能です。


たとえば、従来は清算委員会の成立日から10日以内に債権者に通知しなければならず、かつ、60日以内に新聞紙上で公告を行わなければならない、という規定がありました。


そのため、時間的な制約に加えて、新聞紙上に掲載するための費用も要しましたが、現在はオンライン登録で代替できますので、大幅に簡便化されたといえます。

2.企業事例:約1年1か月で清算手続を完了し、残余財産を回収したA社

上記のとおり、清算手続は規範化と簡素化が進み、実務的なハードルは大きく下がりました。


以下では、弊グループの具体的な事例を取り上げて、確実に清算ができて、所要期間も大幅に短縮されているうえ、残余財産もスムーズに送金されていることを紹介します。


華東地区(上海周辺の地域)にある日系現地法人の貿易商社A社は、以前より、人件費の高騰や中国市場への売り込みに苦慮し、近年は業績が低迷していた。新型コロナウイルス感染症の発生により、まだ留保利益のある現状のうちに資本回収をしたいと考え、清算を決断した。
結果的には、A社の場合、(前表①の)清算決議から、清算後の残余財産が日本本社に払い込まれるまでに要した期間は、約1年1か月であった。
このうち、税務登記の抹消は、特段の問題が発生しなかったため、2か月足らずで完了。また、現地法人の清算を従業員に告知する際には、周到な準備をしたうえで、弊グループのコンサルタントと弁護士が立ち会った。中国に渡航できない状況下のため、現地法人の最高責任者(本社社長)は、TV会議での状況説明となったが、特段の労働争議も発生せず、基本的には当該告知から2週間以内に、ほぼ全員の契約解除の合意書も取得することができた。
なお、A社の場合、まずは従業員には秘匿の状況で、経済補償金(日本の退職金に相当)の法定支給分を算出し、そのうえで、従業員の解雇(労働契約の解除)が円満かつ早期に実施できるよう、法定支給分に1~2か月分相当をプラスした。
最終的に、資本金を上回る残余財産の送金手続をした後、銀行口座を抹消し、撤退が完了した。


3.最後に

新型コロナウイルスの感染拡大や上海をはじめとした各地でのロックダウンにより、中国現地法人の業績の急速な悪化や駐在員の安全面が懸念され、将来的な不安を感じる日本本社は増加しつつあります。その一方で、中国現地法人の清算が難しいとの誤解から、撤退の検討を断念するケースもあるようです。


しかし、上記のような事例は特に例外とはいえず、弊グループでは同様の清算案件が散見されるとともに、状況によっては、持分譲渡のほうが資金をより多く回収できるケースもあります。これらのケースでは、現地法人の清算により得られた資金により、第三国や中国で、業態を変えて新たなビジネスを展開する例も増えています。


いまは中国市場からの撤退が難しくない現状を理解したうえで、差し迫って撤退を検討するのであれば、どの手法で撤退することが最も多く投資を回収できるかも含めて、まずは専門家に相談してみるとよいでしょう。



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