Netpress 第2221号 売る時・買う時 会社の価値をどのように考えるか

Point
1.不動産の価値とは異なり、会社の価値に関する情報は、簡単には入手することができません。
2.会社の価値を評価する方法は複数ありますが、いずれか1つの評価方法だけで判断するのではなく、複数の評価方法を用いて検討することが肝要です。


プルータス・マネジメントアドバイザリー
代表取締役社長
公認会計士
門澤 慎


会社を買う時または会社を売る時、つまりM&Aを考える時には、さまざまなことを検討しますが、間違いなく検討が必要になるのは「会社の価値」です。どのくらいの金額で売却・買収できるのか、まずはこの点が売り手、買い手ともに最も関心の高い検討内容の1つとなるでしょう。それでは、会社の価値に関する情報はどのように取得できるのでしょうか。


不動産の売買であれば、近隣の売買価格の情報や路線価等の情報を容易に入手できるため、価値についてはそれほど悩まないかもしれません。しかし、会社(特に非上場会社)の株式価値に関する情報は、簡単には入手できません。そのため、M&Aのプロセスにおいて会社の価値を検討するためには、株式価値評価を実施することになります。


非上場会社のM&Aでは、大まかに、以下の株式価値評価方法によって会社の価値が決められています。


①DCF法(インカムアプローチ)
②純資産法(コストアプローチ)
③年買法
④類似会社比較法(マーケットアプローチ)


①DCF法(インカムアプローチ)

DCF法は、その企業が生み出す将来キャッシュフローの合計額に着目した方法で、ファイナンス理論に基づいた考え方です。事業計画に基づいた会社の各年のフリーキャッシュフロー(税引き後営業利益+非現金支出-設備投資額±運転資本増減)を割引率で割り引いた金額の合計額を事業価値として、以下の式により株式価値を算出します。


株式価値=事業価値(各年のフリーキャッシュフローを割引率で割り引いた金額の総和)+非事業資産-有利子負債等


理論上は、この方法が最も適切とされているので、大規模なM&Aではまず間違いなく採用される方法であり、近年では非上場会社の株式価値評価や株価訴訟における鑑定書等でもDCF法が用いられています。


しかし、この方法は少々複雑なため、理解するには専門的な知識が必要となります。また、会社のフリーキャッシュフローを算出するためには、上述の通り事業計画が必要となりますが、すべての会社が事業計画を作成しているわけではありません。むしろ、非上場会社では事業計画を作成している会社のほうが少ないでしょう。


この点、事業計画を作成していない会社に対してインカムアプローチを使って株式価値評価をする場合は、DCF法の簡便法として、「収益還元法」という評価方法を使うことがよくあります。


これは、直近もしくは直近数年間の平均等の利益額が継続するとの前提を置き、「会社のキャッシュフロー=税引き後営業利益(直近もしくは直近数年間の平均)」として算出する方法です。


この方法によれば、【株式価値=事業価値(税引き後営業利益/割引率)+非事業資産-有利子負債等】となるため、比較的簡単にインカムアプローチを使うことが可能となります。


②純資産法

純資産法はなじみがあるかもしれません。端的にいうと、「会社の純資産=株式価値」とする考え方です。ただし、この純資産を簿価で考えてしまうと、たとえば資産の含み益や含み損が反映されないので、あまり意味のない金額となります。そのため、純資産法の場合も、資産・負債を極力、時価に直した時価純資産を使うことになります。


しかし、M&Aの世界では、この純資産法はあまり使われません。M&Aを行う場合は、一般的にはその対象となる企業を買収して継続的に経営をしていくことになるため、その株式価値は継続企業が前提(動的価値)となります。一方、この前提に対して、純資産法はいわゆる解散価値(いま会社を解散したらいくらになるか)が前提(静的価値)となります。そのため、継続企業を前提とした株式価値にはそぐわない、といわれています。


この点、純資産法は、企業が清算手続中か清算を予定している場合、企業経営が順調ではなく利益が少ないか赤字体質である場合、過去に蓄積された利益に比して現在または将来の見込利益が少ない場合、資産の大部分が不動産でありかつ清算が容易に行える場合等の会社を評価する際には、検討の余地があるといえるでしょう。


③年買法

近年、事業承継の現場でよく使われているのが年買法で、【株式価値=純資産+超過収益力(○○利益×○年分)】となります。②の純資産に、利益の○年分を加算したものを株式価値と考える方法です。


この方法は、仲介会社を中心として大きく広がったものです。②の純資産法の改良版として、また簡便な方法であるため、みなさんもよく見かけるかもしれません。


一方で、年買法は理論的な評価方法ではなく、また使う人間の恣意性が他の評価方法に比べて介入しやすいといった問題点も指摘されます。具体的には、純資産に加算する超過収益力のベースとなる利益についてどの利益を使うべきか、そしてその利益を乗じる年数を何年にするのか、といった点で依拠すべき基準がありません(よく使われるのは、「営業利益×1~5年」と聞きます)。そのため、年買法を使う際は、年買法だけの評価結果で判断せず、年買法以外の評価方法も併用して株式価値の検討をしたほうがよいでしょう。


④類似会社比較法

類似会社比較法は、対象企業(株式価値算定をしたい企業)が属している業界の上場企業の倍率を基準として、対象企業の株式価値を算出しようとする方法です。


そして、倍率にもいくつかありますが、よく使われるのが「EBITDA倍率」と呼ばれるものです。EBITDAは、営業利益に減価償却費等の非現金支出費用を加算したものとなります。つまり、疑似的な営業キャッシュフローを算出しています。また、理論的には、DCF法と類似会社比較法は一致するといわれています。


EBITDA=営業利益+非現金支出費用(減価償却費、のれん償却費等)


このEBITDAに倍率をかけることで事業価値を算出します。事業価値に非事業資産を足して有利子負債を引けば、株式価値が算出されます。ここで用いる倍率は、対象企業が属している業界の上場企業のEBITDA倍率となります。


この倍率は業界によってまちまちですが、平均すると5~8倍程度になるといわれています。そのため、しっかりと株式価値算定をする場合は、業界のEBITDA倍率を計算する必要がありますが、初期的な検討においては5~8倍を使って計算をしてみる、といった方法も有効でしょう。


株式価値=EBITDA×○(5~8)倍(=事業価値)+非事業資産-有利子負債等



以上のように、株式価値算定の方法といってもさまざまな考え方、方法があります。いずれか1つの方法だけで計算した株式価値で判断するのではなく、複数の方法により株式価値を計算し、それらの前提となる考え方と対象企業の状況をよく勘案して決定することが肝要となります。



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