Netpress 第2220号 2022年4月、7月施行 改正女性活躍推進法に企業はどう対応すべきか
1.改正女性活躍推進法により、常時雇用する労働者が101人以上の事業主が対象企業となりました。
2.また、常時雇用する労働者が301人以上の事業主の対応内容についても、男女の賃金の差異の把握と情報公表の義務付けが追加されました。
シティユーワ法律事務所
弁護士 飯塚 佳都子
女性活躍推進法(正式名称は、「女性の職業生活における活躍の推進に関する法律」。以下、「本法」といいます。)が改正され、常時雇用する労働者が101人以上の事業主は、今年4月1日から法的義務として対応を行わなければならなくなりました(改正前は努力義務)。また、これまでも対象企業であった常時雇用する労働者が301人以上の事業主についても、今年7月8日から、男女の賃金の差異の把握と情報公表の義務付けが追加されました。
以下では、事業主に求められる対応について、具体的に説明します。
1.常時雇用する労働者が101人以上の事業主の対応
「常時雇用する労働者」とは、正社員、パート、アルバイトなどの雇用形態にかかわらず、期間の定めなく雇用されている者ならびに一定の期間を定めて雇用されている者で、過去1年以上にわたって雇用されている者または雇い入れ時から1年以上の雇用が見込まれる者が該当します。
(1)一般事業主行動計画の策定・届出の4ステップ
以下の4ステップのプロセスの履行が必要となります。
【ステップ1】 自社の女性活躍に関する状況の把握、課題分析
自社の女性活躍に関する状況について、以下の基礎項目(必ず把握すべき項目)を用いて把握し、把握した状況から自社の課題を分析する。
基礎項目 | ① 採用した労働者に占める女性労働者の割合(区) |
② 男女の平均継続勤務年数の差異(区) | |
③ 労働者の各月ごとの平均残業時間数等の労働時間の状況 | |
④ 管理職に占める女性労働者の割合 |
※(区)の表示の項目は、雇用管理区分(職種、資格、雇用形態、就業形態等の労働者の区分)ごとに把握を行う。
【ステップ2】 一般事業主行動計画の策定、社内周知、外部公表
ステップ1を踏まえて、①女性労働者に対する職業生活に関する機会の提供に関する16項目と、②職業生活と家庭生活との両立に資する雇用環境の整備に関する8項目(各項目の具体的内容については、厚生労働省のホームページを参照)のうち、1項目以上について、(a)計画期間、(b)数値目標、(c)取り組み内容、(d)取り組みの実施時期を盛り込んだ一般事業主行動計画を策定し、社内周知、外部公表を行う。
外部公表の方法としては、自社ホームページ上に掲載する方法や、厚生労働省の「女性の活躍推進企業データベース」に登録する方法などがある。一般事業主行動計画の策定例は、「女性の活躍推進企業データベース」に登録されている例が参考になる。
【ステップ3】 一般事業主行動計画を策定した旨の届出
一般事業主行動計画を策定、変更したら、管轄の都道府県労働局に届け出る。
【ステップ4】 取り組みの実施、効果の測定(努力義務)
定期的に、数値目標の達成状況や一般事業主行動計画に基づく取り組みの実施状況を点検・評価する。
(2)女性活躍に関する情報公表
①女性労働者に対する職業生活に関する機会の提供に関する9項目と、②職業生活と家庭生活との両立に資する雇用環境の整備に関する7項目(各項目の具体的内容については、厚生労働省のホームページを参照)から、1項目以上を選択し、求職者等が簡単に閲覧できるよう、情報を公表します。
なお、一般事業主行動計画における目標設定と情報公表のための項目とは、完全には一致しません。
2.常時雇用する労働者が301人以上の事業主の対応
(1)女性活躍の状況把握の項目追加
自社の女性活躍に関する状況の把握において、必ず把握すべき項目として、上記1.(1)の【ステップ1】記載の4項目に『男女の賃金の差異』(「正規雇用労働者」「パート・有期社員(非正規雇用労働者)」「すべての労働者」の3区分について算出)が追加され、5項目となりました。
なお、上記1.(1)の【ステップ2】の①と②の項目ごとに、1項目以上を選択して、各々の数値目標を定める行動計画を策定しなければならない点は、従来どおりです。
(2)女性活躍の情報公表の項目追加
上記の1.(2)の①の9項目から『男女の賃金の差異』を含めた2項目以上と、同じく②の7項目から1項目以上の合計3項目以上について、女性の職業選択に資するよう、情報を公表することになります。
3.インセンティブや履行確保について
女性活躍推進について優良事業主に認定(認定基準は、業種ごと・企業規模ごとの特性等に配慮し、省令で規定)されると、認定マーク「えるぼし」「プラチナえるぼし」を自社の商品や広告などに付すことができます。
また、公共調達で加点評価を受けることも可能となり、日本政策金融公庫の働き方改革推進支援資金(企業活力強化貸付)を通常より低金利で利用することもできます。
履行確保措置としては、厚生労働大臣(一部を都道府県労働局長に委任できます。)による報告徴収、助言指導、勧告の対象となり、勧告に従わなかった企業は企業名が公表されます。
4.おわりに
本法の改正により、女性活躍に関する規制対象範囲が拡大し、企業の負担も重くなりましたが、本法の規制を最低限クリアして済ますのではなく、積極的に女性活躍のための行動計画を策定し、取り組んでいただきたいと考えます。
なぜなら、女性の活躍と生産性(1人当たりのGDP)には強い相関関係があることが確認されており、女性が働けばそれだけ国全体の生産性が高くなると考えられるからです。さらに、今後は、単に女性に働く機会を男性と同等に与えるだけではなく、男性と「同一の労働」を与えて、同一労働比率を高め、男女間の収入格差を少なくする必要があります。
今こそ日本の各企業がこれまでの職場の意識を抜本的に変えて、女性活躍が超高齢社会の労働力不足に対する効果的な対策であることを強く意識して取り組むことにより、ジェンダーギャップ指数146か国中116位(世界経済フォーラム・2022年)という、国際的に遅れている日本女性の経済参加度を高めていく努力を続けることが期待されます。
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