Netpres 第2219号 さらなる活用に向けて 確定拠出年金の普及状況とDC法改正による効果

Point
1.確定拠出年金(DC)の加入者数は、2022年3月末時点で1,000万人を突破するなど右肩上がりです。
2.2022年4月以降、DC法の改正が順次施行されています。10月にはiDeCo加入要件の緩和が行われ、企業型DC加入者がiDeCoに加入しやすくなりました。また、2024年12月にはDC拠出限度額の見直しが行われ、確定給付企業年金(DB)などに加入する場合のDC拠出限度額が変更されます。
3.このような法改正を踏まえて、今後、DCの活用がさらに広がることが見込まれます。


ジャパン・ペンション・ナビゲーター株式会社
年金コンサルティング部


確定拠出年金(DC)は、老後の所得確保を目的として、事業主や個人が拠出した掛金を個人が自己責任で運用する年金制度です。事業主が実施する「企業型DC」と、個人が加入する「iDeCo」があります。


本稿では、DC加入者数の推移と、2022年10月以降のDC法の主な改正内容を確認したうえで、改正がDC掛金にもたらす効果をみていきます。

1.DC加入者数の推移【2022年3月末基準】

2022年3月末時点の企業型DCとiDeCoを合わせたDC加入者数は、初めて1,000万人を突破し1,021万人※1となりました。DC加入者数は、右肩上がりの増加が続いています。一方、確定給付企業年金(DB)と厚生年金基金を合わせたDB等の加入者数は942万人※1となり、減少傾向が継続しています。加入者数の推移を比較すると、2020年3月末まではDB等がDCより多い状況でしたが、その差は徐々に縮小し、2021年3月末にはほとんど同水準となり、2022年3月末にはDCが逆転しました。2022年4月以降、DC法の改正が順次施行されるため、増加傾向を後押しすると見込まれます。

※1 運営管理機関連絡協議会、国民年金基金連合会、一般社団法人信託協会、厚生労働省の公表データをもとに集計しています。

2.企業型DC加入者のiDeCo加入要件の緩和【2022年10月1日施行】

2022年10月に、企業型DC加入者のiDeCo加入要件が緩和されました。改正前は、企業型DC加入者がiDeCoに加入するには、企業型DC規約に①iDeCo同時加入の許可と②事業主掛金の拠出限度額の引き下げを定める必要があり、iDeCoが活用されるケースは多くありませんでした。改正後は、規約の要件が撤廃され、自身が望めば企業型DC加入者がiDeCoに加入できるようになりました。ただし、マッチング拠出を利用している場合や掛金の年単位化(まとめ払いや拠出限度額の繰越)を行っている場合には、iDeCoに加入することはできません。


改正後のDC拠出限度額は、次頁表1の通りです。企業型DCのみに加入するケースでは、iDeCoの上限である月額2万円の範囲で、企業型DCとiDeCoを合わせて月額5.5万円まで拠出が可能となります。企業型DCとDB等の他制度※2に加入するケースでは、iDeCoの上限が月額2万円から月額1.2万円、企業型DCの上限が月額5.5万円から月額2.75万円となります。

※2 DB、厚生年金基金、私立学校教職員共済および石炭鉱業年金基金を言います。




3.DC拠出限度額の見直し【2024年12月1日施行】

2024年12月に、DC拠出限度額が見直されます。改正前は、すべてのDB等の他制度の掛金相当額を一律2.75万円と評価してDC拠出限度額が設定され、加入するDB等の他制度の実態が反映されていませんでした。改正後※3は、実態の掛金相当額を反映した公平できめ細やかな方式でDC拠出限度額が算定されます。


改正後のDC拠出限度額は、表2の通りです。企業型DC拠出限度額は、月額5.5万円からDB等の他制度掛金相当額(DBの標準掛金に準じた所定の方法により算定)を控除した額となります。DB等の他制度に未加入の場合には控除額は0円で、企業型DC拠出限度額は改正前と変わらず月額5.5万円となり、DB等の他制度掛金相当額が月額5.5万円を上回る場合には、企業型DCの掛金拠出ができなくなります。一方、iDeCo拠出限度額は、月額2万円を上限として月額5.5万円から各月企業型DC事業主掛金とDB等の他制度掛金相当額の合計を控除した額となります。控除額が3.5万円を超えると、その分、iDeCo拠出限度額は2万円から減額されます。

※3 施行日に既に企業型DCを実施している場合、改正前の掛金拠出を可能とする経過措置が設けられます。




4.法改正による効果(DC掛金の拡大)

改正効果の一つ目は、企業型DC加入者によるiDeCo活用です。2022年10月から企業型DC加入者のiDeCo同時加入が原則として可能となり、企業型DCとiDeCoの合計で月額5.5万円(DB等の他制度にも加入する場合は2.75万円)かつ月額2万円(同1.2万円)以内でiDeCoに拠出することができます。たとえば、改正前はiDeCoに加入者できない企業型DC加入者の事業主掛金が月額1万円の場合、拠出可能枠に月額4.5万円の使い残しがある状況になりますが、改正後は、iDeCoに加入することで月額2万円まで追加で拠出することが可能になります。


改正効果の二つ目は、DC拠出限度額の見直しに伴うDC拠出額の最適化です。2024年12月以降は、DB等の他制度掛金相当額の実態に合わせてDC拠出限度額が算出されるため、DCに対して設定されている拠出枠月額5.5万円の範囲で、個人のニーズや加入する企業年金制度に応じて、より柔軟にDC利用が可能な仕組みとなります。特に、9割程度のDBで標準掛金が月額2.75万円を下回るとの社会保障審議会の集計結果もあり、多くのケースで企業型DCの拠出限度額が改正前の月額2.75万円より大きくなることが見込まれます。



今回の改正によって、多くの企業や個人がDCを公平かつ柔軟に利用できるようになり、その活用が進むと期待されます。一方、退職給付制度は法改正も多く、事業主自身による対応にはハードルがあります。制度の新設や見直し等に際しては、専門家にご相談ください。



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