Netpress 第2217号 2022年10月施行 短時間労働者への社会保険の適用拡大

Point
1.2022年10月、そして2024年10月と、企業規模に応じて、段階的に一部の短時間労働者の社会保険の加入が義務化されます。
2.ここでは、新たな適用拡大の内容と、事業主に求められる実務対応について確認します。


あかね社会保険労務士法人
代表社員 特定社会保険労務士
山中 晶子


1.社会保険の適用拡大の内容

社会保険の適用拡大は、2016年から従業員数500人超の企業を対象にすでにスタートしており、今後、企業規模に応じて、2022年、2024年と段階的に実施されることが決まっています。


2022年10月には、従業員数100人超の企業について対象が拡大します。


なお、従業員数のカウント方法は、フルタイムの従業員数と、週所定労働時間と月所定労働日数がフルタイムの4分の3以上の従業員数の合計(現在の厚生年金の適用対象者数)です。


新たに加入対象となる従業員は、以下の要件のすべてを満たす短時間労働者です。


①週の所定労働時間が20時間以上30時間未満

週所定労働時間が40時間の企業の場合です。

契約上の所定労働時間を指し、臨時で生じた残業等は含みません。

契約上20時間に満たない場合でも、実労働時間が2か月連続で週20時間以上となり、その後も引き続き週20時間以上と見込まれる場合には、3か月目から加入対象となります。
②月額賃金が8.8万円以上

基本給と諸手当を指し、残業代・賞与・臨時的な賃金等は含みません。

最低賃金に算入しないことが定められた賃金(精皆勤手当、通勤手当、家族手当)も含みません。
③2か月を超える雇用の見込みがある

これまでの適用拡大要件からの変更点です(変更前は、「1年以上の雇用の見込みがある」とされていました)。
④学生ではない

休学中や夜間学生は加入対象です。


<短時間労働者の社会保険適用の要件早見表>

要件
2016年10月~
2022年10月~
2024年10月~
事業所の規模
常時500人超
常時100人超
常時50人超
労働時間
週所定労働時間20時間以上
変更なし
変更なし
賃金
月額8.8万円以上
変更なし
変更なし
勤務期間
継続して1年以上の雇用見込み
継続して2か月超の雇用見込み
継続して2か月超の雇用見込み
適用除外
学生でないこと
変更なし
変更なし


2.対象拡大に伴う実務対応

適用拡大の対象となる企業を「特定適用事業所」といいます。年金事務所が、直近の被保険者数に基づいて判断し、2022年9月中に該当予定の企業に通知されていますので、確認してください。


特定適用事業所に該当した企業は、以下の手順で対応が必要です。


①加入対象者の把握

新たに社会保険の加入対象となる従業員を抽出します。適用拡大が企業側に与える影響の一つとして、社会保険料の企業負担額の増加が挙げられます。新たな加入対象者数と増加する社会保険料を概算したうえで、必要な対策を検討する必要があります。厚生労働省の特設サイト(社会保険料かんたんシミュレーター)では、企業が負担する社会保険料の試算ができますので、参考にしてください。


②従業員への説明

説明会や個人面談により、対象従業員に説明を行います。厚生労働省から、従業員向けのガイドブックが発行されていますので、活用してください。


③社会保険資格取得の手続

電子申請での手続が便利です。


これら①〜③のなかでも、特に②が重要です。たとえば、国民健康保険に加入している従業員の多くは、社会保険に加入することで、将来の年金や医療保険給付の充実などのメリットが大きいといえます。本人が希望すれば、労働時間の延長や正社員への転換等のキャリアアップにつながる提案をするのもよいでしょう。


他方、配偶者等の扶養である従業員は、世帯収入に影響するため、加入に難色を示すことも考えられます。社会保険の適用拡大は、多様化した働き方に対応し、短時間労働者(パートタイマー等の非正規労働者)にも、社会保険制度による保障を実現すること、年金財政を改善し、公的年金制度を持続可能なものにすることを目的としています。


できる限りその趣旨を理解してもらうことが望ましいですが、やむなく労働条件(所定労働日数や時間)の変更の希望がある場合は、今後の業務分担を含めて話し合いが必要です。


<参考情報>

令和4年10月からの短時間労働者に対する健康保険・厚生年金保険の適用の拡大
https://www.nenkin.go.jp/oshirase/topics/2021/0219.html

短時間労働者に対する健康保険・厚生年金保険の適用拡大 Q&A集
https://www.nenkin.go.jp/oshirase/topics/2021/0219.files/QA0410.pdf

従業員説明用のガイドブック
https://www.mhlw.go.jp/tekiyoukakudai/pdf/guidebook_hihokensha_a4.pdf



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