Netpress 第2216号 2025年卒からが対象 インターンシップの見直しで採用活動はどう変わる?
1.政府はこれまで、インターンシップで得た学生の情報について「採用選考に利用できない」との考え方を示してきましたが、そのルールが改められることになりました。
2.ここでは、新たなインターンシップの基準や中小企業の採用活動に及ぼす影響などを探ります。
株式会社人材研究所
人事支援事業部マネージャー
安藤 健
1.見直しが行われた背景
インターンシップの本来の趣旨は、学生の職業理解や主体的なキャリア形成を支援するために、就業前の学生に対して就業体験を提供することです。
インターンシップと採用選考は、あくまでまったくの別物であることから、これまで「インターンシップで企業が得た学生情報は、広報・採用選考活動に利用できない」というルールが取り決められていました。
しかし、採用市場では、多くの企業がインターンシップを採用活動における候補者集団形成の手段として用いていました。実際に、インターンシップで集めた学生の個人情報を採用活動時にそのまま引き継ぎ、本選考が始まったタイミングで早期の選考案内を行ったり、優秀な学生に対しては、特別選考ルートといった名称でインターンシップ直後に採用を確約したりする事例も見られました。
こうした実態のもと、産学協議会はルールの見直しを提言し、政府の関係省庁会議において、インターンシップで企業が得た学生の情報を採用活動に活用できることが合意されました。対象は、2025年以降に卒業する学生からです。
2.採用選考に直結するインターンシップとは
インターンシップの本来の趣旨が就業体験だとすると、日本のインターンシップは他国と比べてかなり特徴的です。
インターンシップが活発に行われている欧米各国では、その内容は、実際に仕事の現場に入り込んで、数か月にわたって実業務を行うものが主流です。
一方、日本では、1日完結型の「1dayインターンシップ」が多く、内容も実際の現場業務体験というよりも、会社説明や業界研究セミナーなど、実業務とは離れたレクチャー形式が一般的です。3day、5dayといったやや長めのインターンシップもありますが、多くはサンプル化した一部業務を疑似体験する形でグループワークなどを行うものです。
今後、インターンシップが公式に採用選考と結びつくのであれば、企業は採用選考に活用できる学生の情報をインターンシップで収集する必要があります。しかし、1dayのレクチャー形式のインターンシップでは、参加した学生の資質を見極め、自社とのマッチングを図ることはできないでしょう。
新ルールでは、インターンシップを採用選考につなげるために、参加期間や就業体験の日数、実施場所や実施時期といった制約条件が設けられます。レクチャー形式ではなく、現場の社員が学生を指導する内容が求められますから、これまでの1day中心から、5day以上など、より長期のインターンシップが主流になりそうです。
また、インターンシップで学生に実際の業務を経験させて、その成果や行動を見る就業体験は、適性の見極めのためにも重要となります。
ただし、現実問題として、現場の受け入れ態勢やコンプライアンス(インターン生にどの程度まで重要な会社情報・顧客情報にアクセスさせるのか)といった問題もあり、すぐに現場で実際の業務を経験させることは難しいかもしれません。
そのため、実質的には、実際の仕事の疑似体験をさせる「ワークサンプル」のような形でなされることが多いと予想されます。ワークサンプルにより、実際の仕事を疑似体験させて適性を測ります。
たとえば、エンジニア向けのインターンシップであれば、あるソフトをリリースすることをゴールとして、チームで分担してプログラムを書き上げるという内容です。チームワークが試されるなかで、主体的・協調的な姿勢があるかといったスタンス面や、プログラミングレベルがどの程度かというスキル面を確認できます。
また、営業職のインターンシップであれば、過去にあったクライアントの事例を元に、クライアントの属性、商談での発言内容、自社の商材の特徴などを資料としてまとめておき、学生はそれを読み込んで、ケーススタディのような形でクライアントへの提案を練り上げ、最終的にプレゼンをするといった内容です。
このように、実際の仕事の疑似体験をさせるワークサンプルは就業体験型に近いインターンシップにあたり、学生の活動の様子(あるいは提出物などの成果物)を見て、採用選考時の評価に役立てることができるでしょう。
3.選考につなげるならフォローが重要
インターンシップで見つけた優秀な学生は、他企業からも優秀だと評価されるケースが多いことから、インターンシップから採用するのであれば、見極めと同時にフォロー、つまり学生の志望度の醸成が重要となります。
インターンシップにおけるフォローで何より重要なのは、「取り組みに対するフィードバック」です。インターンシップにおける学生の満足度は、フィードバックの有無が大きく影響するからです。
多くの学生にとって、インターンシップは、採用選考以外で人事や現場社員から評価を受ける初めて、かつ、唯一のタイミングです。そのため、その先の本選考に向けた自己理解や、企業理解促進のための機会として、インターンシップを活用している学生も多いのです。
また、フィードバックによって学生と向き合う企業の真剣さが伝わったり、フィードバックの内容から社員の考え方を知ることができたりするのも、フィードバックが満足度を上げる理由です。
フィードバックの際、よかった点・評価点など肯定的な内容だけでなく、ネガティブフィードバック(課題点などのマイナス要素を伝えることにより、改善を促すことを目的としたフィードバック)も同時に行うことが重要です。
ネガティブフィードバックは、学生との信頼関係がある程度築かれていることが前提になりますが、学生側からすると企業側の誠実さが感じられ、企業への関心度が上がります。
4.採用スケジュールへの影響と学業等への懸念
今回のルール見直しにより、採用活動の早期化と通年採用化が進む可能性があります。大学3年生の6月から始まるインターンシップが採用選考に直結することで、大学3年生の夏や秋頃に内定を取る学生が出てくるためです。
これまでの学生側の就活の動きとしては、大学3年生になるまでは部活動やアルバイト、学業に専念し、大学3年生の6月から8月頃にかけて各社のインターンシップに参加するなどして緩やかに就活を開始し、その年の冬から本格的に就活に備える流れでした。
しかし、ルール見直しでインターンシップが採用に直結するのであれば、学生はインターンシップに参加する時点で、ある程度自己分析や業界研究などを済ませておく必要があります。となると、就活のスタート自体が前倒しされ、結果的に学業を圧迫したり、部活動やアルバイトなどで十分な経験を積めなくなったりしてしまう懸念があります。
こういった懸念を踏まえて、企業側としては、インターンシップで自社にマッチした学生を見極め、フォローしていきながらも、必要以上に学生生活の時間を削らないための配慮・工夫が必要となるでしょう。
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