Netpress 第2215号 人的資本経営を目指して! 中堅・中小企業の「ISO30414」活用策

Point
1.最近、「ISO30414」(人的資本に関する情報開示のガイドライン)が注目を集めるようになってきています。
2.ここでは、中堅・中小企業に向けて、より効果的に人的資本を活用するための方法を解説していきます。


セレクションアンドバリエーション株式会社
マネジャー 中小企業診断士
ISO30414リードコンサルタント/アセッサー
清水 政美


1.昨今注目を集める人的資本経営とは

多くの媒体で、ISO30414や人的資本経営などの文言を目にする機会が増えてきました。なぜ今、これらのワードが注目されているのでしょうか。


その理由は、以前は企業の成長要因として有形資産が注目されていたのですが、実は無形資産が企業の成長に大きく関わっているということがわかってきたためです。


米国S&P500社の時価総額のうち、無形資産が生んだ価値は43年間で17%から84%に増加したといった調査もあります。無形資産には、ブランドやのれん、歴史や技術などさまざまなものがありますが、なかでも一番重要であるとされているのが「人的資本」なのです。


成長している企業は、人的資本に手厚く対応しているということがわかり、投資家たちは、企業の人的資本を分析し、それに対して投資をするようになってきています。


そこで、企業ごとに不統一の人的資本情報を開示するのではなく、ガイドラインとして定められたのが「ISO30414」というわけです。


ISO30414は、11の指標と58の項目で設計され、それぞれに細かな計算式が定められています。それに基づいて人的資本情報をまとめることが推奨されており、世界的なガイドラインとして注目されています。

2.ISO30414の今

日本国内においては、まだまだISO30414が浸透しているとはいえず、そもそも人的資本情報についての重要性も理解が不十分な状況です。


そのため、企業によって、重要視しているところとそうでないところがあるのが現実です。また、「上場企業以外は関係ないのではないか」と考えている人も多く見られます。


しかし、前述したとおり、これから企業が成長していくためには、人的資本への投資は欠かすことができない重要なものとなるでしょう。


上場企業以外でも、ISO30414を活用することで自社の人事戦略を見つめ直すきっかけとなり、対応・改善を行うことで、さらなる成長を目指すことが可能となります。


次頁では、中堅・中小企業がより効果的に人的資本を活用するために、どのように取り組んでいけばよいか、詳しくみていくことにします。

3.中堅・中小企業のためのISO30414の活用方法

人的資本情報は、無形資産を見える化したものですが、ただ単にこれらを整理したところで、まったく意味をなしません。これらの情報を有効活用することで、初めて人的資本経営が成り立ちます。


まず行うべきことは、ISO30414の項目のなかで、何が自社にとっての成長とリンクしているのかを把握することです。


たとえば、自社においてダイバーシティが充実するほど、また研修受講率が高まるほど業績が向上している、といったことをしっかりと分析します。


分析した人的資本情報を公開すべきか、あるいは公開しないかは、各社の判断によって異なります。よくない数値であれば、内部改善に用いるだけになることもあります。


そこで、人事部門として考えていただきたいのは、一つだけでも変革のための目標を定めることです。その目標達成について経営層のゴーサインを得られたら、計画を策定してください。


また、経営戦略がない場合には、人的資本情報を参考にして改革を検討することがあります。そのための改革の方向性は、大きく次の2つがあります。




①「よりよい経営」を目指すためには、今の好業績の源泉である強みを伸ばすことが求められます。


また、②「よくない状況を改善」するには、現状の弱みを改善する必要があります。そのためには、まず現状をしっかりと把握しなくてはいけません。


その基準として、過去の自社の状況と比較すること、そして、できれば客観的な比較対象があることが望ましいでしょう。可能な範囲で、業界平均などの数値を集めることをお勧めします。自社の過去や外部の数値と比較することで、自社の強みと改善点が浮かび上がってきます。


たとえば、自社の教育に対しての費用が他社よりも低い場合には、もっと教育への投資を行い、従業員のレベル向上を図ることなどが挙げられます。


多くの改善点が出てきて、何から取り組めばよいかわからないという場合には、会社業績との相関、あるいは反相関が高いものなどについて、優先度を高めて柔軟に取り組むようにしましょう。


特に、コンプライアンスと倫理、スキルと能力、サクセッションプランについては、意識的に改善をする必要があります。なかでも後継者の育成は非常に重要な項目です。将来の成長のためにも、計画的な採用・育成が求められます。


ビジネス環境の変化の激しさが人的資本への注目を集める背景となっていますが、そこから導かれる答えは、企業と従業員の行動変革です。


経済産業省の「持続的な企業価値の向上と人的資本に関する研究会」がとりまとめた『人材版伊藤レポート』にあるように、人的資本により企業価値が形成され、企業と従業員との間で選び、選ばれる関係が循環し、個々の自律や活性化が進んでいる状態が目指すべきゴールです。


これまで多くの企業において、人事だけが人事関連の対策を行ってきました。しかし、人的資本という観点から経営課題としての価値を与えるのが人的資本経営というものです。


経営者と従業員が一丸となり、自社の人的資本の在り方の検討や改善を図り、企業価値、業績の向上を目指していきましょう。



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