Netpress 第2212号 利便性向上、権利処理の円滑化 著作権法改正のポイントを確認する

Point
1.2021年6月2日に公布された「著作権法の一部を改正する法律」により、「図書館関係の権利制限規定の見直し」と「放送番組のインターネット同時配信等に係る権利処理の円滑化」が図られました。
2.ここでは、今回の改正が行われた背景と、改正の具体的な内容について解説します。


IAT弁理士法人
代表 川村 憲正



1.図書館関係の権利制限規定の見直し

新型コロナウイルス感染症の流行に伴う図書館の休館等によって、インターネットを通じた図書館資料へのアクセスの必要性が生じています。


そこで、民間事業者によるビジネスを阻害しないよう十分に注意しつつ、図書館資料へのアクセスを充実させるべく、図書館関係の権利制限規定の見直しが行われました。


(1)国立国会図書館による特定絶版等資料のインターネット送信

(第31条第4項等関係)

国立国会図書館は、特定絶版等資料(入手困難な資料)を、他の図書館等へインターネット送信することができますが、その送信先は図書館等に限定されていました。


そのため、利用者が図書館へ赴くことができない場合には、特定絶版等資料へのアクセス自体が困難となってしまうという課題がありました。


そこで、本条項により、国立国会図書館は、一定の条件のもと、特定絶版等資料のデータを利用者に直接インターネット送信することができるようになりました。


利用者は、国立国会図書館のウェブサイト上で資料を閲覧でき、プリントアウト(複製)やディスプレイなどに映して公衆に見せること(公の伝達)もできます。


ここで、複製は、自ら使用するために必要な範囲に限られ、公の伝達は、非営利等の一定の要件を満たす場合に限られます。


本条項は、2022年5月1日に施行されました。


(2)図書館等による図書館資料のメール送信等

(第31条第2項等関係)

一般の図書館は、利用者に対して、書籍の複製および複製物の提供ができますが、メールやFAXなどで送信すること(公衆送信)を行うことまでは認められていませんでした。


そこで、本条項により、国立国会図書館や公共図書館、大学図書館等は、調査研究の用に供するため、著作物の一部分をメールなどにより直接送信できるようになります。


また、特定絶版等資料に限らず、一般に入手可能な資料も対象となるため、民間事業者によるビジネスを阻害しないよう、権利者保護のための厳格な要件が設定されるとともに、図書館等の設置者が権利者に補償金を支払う補償金制度が導入されることになります。


本条項は、現時点では未施行ですが、公布日(2021年6月2日)から2年以内で政令で定める日から施行されます。

2.放送番組のインターネット同時配信等に係る権利処理の円滑化

放送事業者が、「放送」だけではなく、「インターネット同時配信等」をする際に必要な権利処理の負担を軽減するための法改正がなされました。


(1)改正の背景

近年のデジタル技術の発達により、放送番組のインターネット同時配信等が盛んに行われています。


放送番組には、多様かつ大量の著作物等が利用されていますが、同時配信等をするためには、放送とは別に権利処理をする必要があります。


そのため、同時配信では、同時配信に係る許諾が得られているかどうかの確認が難しい等の理由から、権利未処理のために一部を静止画などに切り替えて放送を行う「フタかぶせ放送」がなされるケースが多く生じていました。


「フタかぶせ放送」により、番組のダイジェストしか視聴できないことや、そもそも番組を視聴できないことがあるため、視聴者の利便性向上やコンテンツ産業の振興等の観点から、「フタかぶせ放送」の解消が課題となっていました。


(2)具体的な改正(いずれの条項も、2022年1月1日に施行済)

①権利制限規定の拡充

(第34条第1項等関係)

「放送」で許諾が不要となっている場合(国会等での演説の利用等)は、「同時配信等」でも許諾なく著作物を利用することが可能となりました。


②許諾推定規定の創設

(第63条第5項関係)

権利者が、放送事業者と放送番組での著作物等の利用を認める契約をした場合は、原則として、「放送」に加えて「同時配信等」での利用も認めたものと推定することが規定されました。


③レコード・レコード実演の利用円滑化

(第94条の3、第96条の3関係)

「同時配信等」について、レコード・レコード実演の著作権等管理事業者による集中管理等がされていない場合が多い現状を踏まえ、集中管理等されていなくても、補償金を支払えば、事前の許諾なく「同時配信等」に利用できることになりました。


④映像実演の利用円滑化

(第93条の3、第94条関係)

映像実演について、初回の「放送」の許諾を得た場合、原則として、「再放送」については許諾を不要とする特例が存在します。


そのことを踏まえ、初回放送の「同時配信等」の許諾を得た場合、所定の要件を満たせば、「再放送の同時配信等」についても、事前の許諾なく利用できることになりました。


⑤協議不調の場合の裁定制度の拡充

(第68条関係)

権利者の許諾を得るための協議が不調に終わった場合に、文化庁長官の裁定を受けることで、著作物の利用ができるという裁定制度が、「放送」だけではなく、「同時配信等」についても活用できることになりました。



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