Netpress 第2208号 最近増えている 社員が昇進を拒否!そのときの処分・対処法は?
1.理由はさまざまですが、最近、管理職に昇進することを拒否する社員が増えているようです。
2.昇進の拒否が本人と企業の双方にもたらすデメリットに注意しながら、慎重に対処する必要があります。
社会保険労務士
木村 政美
企業組織において社員が昇進することは、一般社員が主任、課長が部長になる等、社内での立場や地位が上がる(いわゆる「出世する」)ということであり、従来は喜ばしいこととされてきました。
しかしながら、昨今では、企業の社長や人事担当者の方から、「社員に管理職への昇進を打診したが、断わられてしまった」という話をよく聞きます。
社員が昇進を拒否する理由としては、主に次のようなものがあります。
① | 責任の範囲が広がるのが嫌だから |
② | 昇進前に比べて業務量が増えるから |
③ | 責任の範囲や業務量に見合う給与アップが見込めないから |
④ | ワーク・ライフ・バランスの取れた生活をしたいから |
⑤ | 個人的な事情(本人の健康面での不安、育児・介護等)があるから |
企業が優秀な社員に対して昇進を促すのは、相応のポストに就かせることによって、さらに成長し、活躍することを期待しているからです。
しかし、期待に反して昇進を拒否されてしまうと、企業側は後任者の選定に苦労することになります。また、昇進を断わった社員側にしても、管理職としてキャリアアップを図る機会を失うことになります。つまり、双方にとってデメリットが生じてしまうのです。
以下では、「昇進を拒否された場合、会社としてどう対処するか(懲戒処分にしてよいのか)」「昇進を拒否されないためにはどうすればよいのか」について考えてみます。
1.昇進の拒否で懲戒処分は可能か
社員を昇進させる場合は、いきなり辞令を出すのではなく、まず「内示」として本人に打診したうえで、「辞令」により昇進を命じるという手順を踏むことがほとんどです。
昇進について企業の就業規則に定めがあり、総合職など将来の管理職候補として明らかにしたうえで社員を採用した場合、「昇進することがあり得る」という内容の労働契約を締結しているとみなされます。そうしたケースでは、昇進の辞令を受けたとき、原則として、社員はそれを拒否することができないとされています。
内示は辞令とは異なり、正式な決定ではありませんが(企業が昇進予定を取り消すこともあり得ます)、内示の段階であっても、正当な理由がない限り、社員が昇進を拒否することは難しいでしょう。
それにもかかわらず、社員が昇進を拒否した場合、企業側はどう対応すればよいでしょうか。
辞令の発令は業務命令であるため、正当な理由なく拒否することは業務命令違反に当たり、懲戒処分の対象となり得ます。ただし、懲戒処分を行うには、次の要件をすべて満たす必要があります。
① | 昇進の拒否について、業務命令違反として懲戒処分の対象となることが就業規則に明記されていること |
② | 昇進の拒否に対して懲戒処分とすることが、社会通念上妥当といえること |
③ | 昇進を拒否するやむを得ない事情があると認められないこと |
特別な事情がなく昇進の内示を拒否し、その後、企業側からの複数回の説得や、社員の事情を考慮した変更内容での協議にも応じない場合、辞令を発令後、懲戒処分が可能になります。
なお、仮に上記の要件をすべて満たしており、懲戒処分とすることが可能であったとしても、企業が昇進の対象とするのは、もともと優秀な社員です。
懲戒処分にすることで、本人がやる気をなくしたり、ましてや退職に至ったりすれば、企業にとっても大きな損失につながります。したがって、懲戒処分の判断は慎重に行うべきでしょう。
2.昇進を拒否されないために企業がやるべきこと
企業が昇進させたい社員を選定する際には、本人の能力や実績などを基準に判断することになります。
しかし、どんなに有能な社員であっても、そもそも本人に昇進する気持ちがない場合や、昇進できない事情がある場合には、昇進を拒否される可能性が高くなります。そのため、昇進意欲の有無や家庭環境などを事前に把握したうえで人選をする必要があります。
その一方で、企業が人事を行うにあたって、社員の都合を優先してばかりいては、その後の人事管理に支障をきたしてしまいます。そこで、日頃から昇進を拒否されないような土壌をつくっておくことが重要になります。
土壌づくりにあたって最初に行うべきことは、現在の管理職全員について、個々がどのような仕事をし、権限、待遇を得ているかの棚卸しです。
具体的なチェック項目としては、次のようなものが挙げられます。
□ | 管理職の役割を明確にしているか(たとえば、部長と課長の役割が曖昧になっていないか) |
□ | 役職に見合った権限を与えているか |
□ | 役職に見合った職務内容になっているか |
□ | その役職に就くことが、本人のキャリアアップにつながるか |
□ | 役職にふさわしい待遇を与えているか |
□ | 管理職と労働基準法上の管理監督者の違いを把握しているか |
□ | 職場のパワーバランスの統制が取れているか(部下や上席管理職が、昇進した管理職と協力して業務を推進する体制が整っているか) |
管理職の現状を客観的に見ることが必要な理由は、部下は自分の上司が仕事をしている姿や待遇をよく知っており、その様子で「部長のようになりたい」とか、「課長のようにはなりたくない」などと判断することが多いからです。
チェックの結果、問題のある部分が見つかった場合には、改善を検討します。
管理職になり、新たなやりがいを得ることで自分の成長を実感でき、経済的な面でもそれに見合う待遇が得られるということであれば、昇進を拒否されるケースは減っていくと思われます。
まずは、現在の管理職が、これから昇進する社員のよいお手本、目標になることが大切でしょう。
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