Netpress 第2201号 環境もニーズも大きく変化 コロナ時代に求められる福利厚生サービスとは

Point
1.コロナ禍で急速に普及したテレワークの影響もあり、従業員は従来とは異なる福利厚生を求めるようになりました。企業の側でも、出社を前提にしていた福利厚生の要否の議論が始まっています。
2.ここでは、これからの時代の福利厚生のあり方と、見直しを進めるうえでの留意点について解説します。


いろどり社会保険労務士事務所
特定社会保険労務士
内川 真彩美


1.コロナ禍が福利厚生のトレンドを変えた!

働き方改革やコロナ禍がもたらした社会や個人の意識の変化は、従業員の福利厚生(ここでは「法定外福利厚生」を指します)にも大きな影響を及ぼしています。


福利厚生に変化を与えた要因の一つは、テレワークです。出社機会の減少は、勤務先とのつながりを希薄にし、従業員に心理的な孤独や不安を生み出しました。


また、テレワークでは、オフィスにあった設備や福利厚生サービスを享受できなくなり、労働環境が低下したように感じた従業員も少なくなかったようです。


このような背景から、家で仕事をする、家で過ごす、家族と過ごすといった、家に根差した福利厚生サービスのニーズが顕在化してきたと考えられます。


さらに、テレワークが実施できる部門とできない部門、同居の家族の有無、自宅環境の差異などにより、従業員が福利厚生に“不公平さ”を感じる場面が増えていることも、押さえておくべきポイントでしょう。


一方、企業の側でも、提供できる福利厚生サービスに変化が生じています。コロナ感染拡大防止の観点から、フィットネスクラブやマッサージ施設の利用、社員旅行や懇親会などのイベントは自粛を求められるようになりました。


このように、企業と従業員双方の福利厚生に対する考え方が変化していることから、いまは福利厚生を見直すよい機会と捉えることができるでしょう。

2.注目は「問題解消型」の福利厚生

テレワークをはじめとして、コロナを機に顕在化した不安や問題を解消する福利厚生がトレンドになってきています。いわば、「問題解消型」の福利厚生といえるかもしれません。


以下では、具体的にどのような福利厚生サービスが登場し、利用されつつあるかを紹介します。


(1)テレワーク環境の整備

テレワーク時の問題としてよく取り上げられるのは、自宅環境の整備です。


たとえば、生産性向上や疲労緩和のために、机や椅子、ディスプレイなどを購入する従業員もいるでしょう。


テレワーク手当を導入する企業も多いですが、「手当」としての支給はもとより、テレワーク環境の整備のための備品支給であっても、「会社からの貸与」でない限りは給与所得として課税対象になってしまいます。


そのため、最近では、オフィス家具のレンタル・サブスクリプションの福利厚生サービス(従業員が希望するオフィス家具等を自宅に配送)への注目が高まっています。


(2)疾病の防止・健康増進

コロナ禍で、自宅で生活する時間が増えたことによって、運動不足や偏った食生活、生活習慣の乱れなど、健康に不安を抱く従業員も増えているようです。


近年、「健康経営」が注目されていることもあり、ヘルスケア分野では多様な福利厚生サービスが誕生しています。


たとえば、オンラインでヨガやフィットネスを受けられるサービスは、運動不足の解消のために効果的です。従業員が好きな日時に利用するのもよいですが、定期的に体を動かしてほしいという思いから、日時を決めて、勤務時間中に全員でストレッチやヨガを行う企業も出てきています。


偏った食生活の解消のためには、食材や弁当が自宅に届くサービスがあります。食事の福利厚生は、健康増進のほか、食費の経済的支援という意味を持つ点でも従業員に喜ばれやすいでしょう。


また、メンタル不調を抱える人が増えたことから、メンタルヘルス対策の福利厚生を手厚くする企業も増えています。オンラインやメールで専門家のカウンセリングを受けられるサービスは、早めに不調を相談できる場として有用です。


(3)育児・介護と仕事の両立支援

コロナによる各施設の休業により、育児・介護と仕事の両立についてもたびたび問題となりました。


育児・介護に関連する福利厚生には、育児・介護のための手当の支給、託児所や一時保育の費用補助などがありますが、最近では、法人向けの病児保育サービス、妊活・不妊治療に特化した福利厚生サービスも登場しています。育児・介護従事者の生活全般をサポートする家事代行サービスを福利厚生として選択できる企業もあります。


育児・介護と仕事の両立のための福利厚生のニーズは、今後、ますます高まっていくことが予想されます。


(4)将来のお金やキャリアの不安解消

ファイナンシャルプランナーやキャリアコンサルタントといった専門家にお金やキャリアの相談ができるサービスや、資産形成支援のサービスなども人気です。


(5)福利厚生の不公平感の解消

従業員個々人の生活は異なりますから、当然、福利厚生のニーズも人によってさまざまです。そのため、福利厚生は不公平感を生みやすい面もありますが、その問題を解消するのが「カフェテリアプラン」です。


カフェテリアプランでは、企業は複数の福利厚生メニューを設定し、従業員はそのメニューのなかから好きなものを選ぶことができます。付与されたポイント内で必要な福利厚生を自由に選択できることから、従業員の不公平感を解消または軽減する効果が期待できます。

3.見直しに際して留意したいポイント

求められる福利厚生が変化してきたということは、同時に、不要となる福利厚生が出てくるということも意味します。ここで注意したいのは、大きく2点です。


1つめは、廃止する福利厚生を選定する際、現在の利用状況だけで判断するのは危険だということです。


たとえば、現状では介護手当の利用者が少ないとしても、将来を見据えて介護手当に魅力を感じている従業員がいるかもしれません。利用状況だけではなく、アンケートなどを取って従業員の意見を聴くことを推奨します。


2つめは、不利益変更の問題です。福利厚生は、あくまで企業が任意で提供する手当やサービスですが、廃止や減額が労働条件の不利益変更となることがあります。


見直しにあたっては、廃止する理由や代替の福利厚生などについてきちんと説明し、従業員の納得・合意を得るようにしましょう。また、制度の廃止決定前に入社した従業員や利用中の従業員に向けては、段階的に減額・縮小を進めたうえで廃止するといった配慮も求められます。



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