Netpress 第2200号 任意脱退が可能になった 健康保険の任意継続被保険者制度

Point
1.会社を退職したあとの医療保険として、主に「国民健康保険に加入する」「任意継続被保険者となる」「家族の被扶養者となる」の3つの選択肢があります。
2.ことし1月から変更があった任意継続被保険者制度を中心に、退職後の健康保険について確認します。


特定社会保険労務士
鈴木 豊子


1.医療保険制度のあらまし

日本の医療保険制度は、「国民皆保険」と呼ばれています。国民は、原則として、住所地の自治体が運用する国民健康保険に加入しなければなりません。


ただし、公務員の場合は共済組合、会社等に勤務している場合は健康保険、75歳以上は後期高齢者医療制度などのように、職業や年齢により、加入すべき医療保険制度がそれぞれ法律で定められています。


健康保険が適用されている会社等に勤めて被保険者となっている75歳未満の人が退職した場合、すぐに再就職しない限りは、基本的に国民健康保険に加入することになりますが、一定の要件を満たせば、その他の選択肢として、次の①から③のいずれかに加入することができます。



医療保険制度
加入の要件等
①任意継続被保険者制度
退職する会社に、退職日まで2か月以上継続して勤務していること
②家族の健康保険(被扶養者)
収入、その他の要件を満たしていること
③特例退職被保険者制度
特定健康保険組合に一定年数以上加入した老齢厚生年金受給権者


それぞれ加入要件や保険料、給付内容に違いがありますが、①に挙げた任意継続被保険者制度については、2021年に法改正があり、ことし1月から施行されています。


以下では、この任意継続被保険者制度の概要と改正ポイントについて解説していきます。

2.健康保険の任意継続被保険者

会社を退職した日まで、被保険者として継続して2か月以上勤務していた場合、申出により、同じ健康保険に最長2年まで加入を続けることができます。退職後に継続して加入する人も同じ医療保険制度の被保険者ではありますが、通常の被保険者と分けて、「任意継続被保険者」といいます。


加入の申出は、被保険者資格を喪失した日(退職日の翌日)から20日以内に退職者本人が行います。いままで被扶養者扱いにしていた家族も、申出により引き続き保険給付を受けることができます。


なお、任意継続被保険者になる場合、被保険者証が切り替わります。会社としては、退職時にそれまでの被保険者証(被扶養家族分も含みます)を回収することは通常どおりです。

3.任意継続被保険者の資格喪失

任意継続被保険者の資格喪失理由は次のとおりです(健康保険法38条)。


資格喪失の理由
資格喪失日
①任意継続被保険者となった日から2年を経過したとき
該当した日の翌日
②死亡したとき
同上
③保険料を納付期日までに納付しなかったとき(初回分を除く)
同上
④被保険者となったとき(健康保険適用事業所に就職したとき)
該当したその日
⑤船員保険の被保険者となったとき
同上
⑥後期高齢者医療の被保険者となったとき
同上
⑦本人が資格喪失を希望する旨を申し出たとき
申出が受理された日(保険者に到達した日)の属する月の翌月1日


これらのうち、「⑦本人が資格喪失を希望する旨を申し出たとき」が、今回の改正により追加された項目です。


従来は、本人が自ら申し出て被保険者資格を喪失することはできませんでした。そのため、死亡した場合と、法定により他の制度の被保険者になる以外は、保険料滞納という不適切な行為をしない限り、2年を経過するまで加入を続ける必要がありました。


改正により、ことし1月から、配偶者の被扶養家族になりたい、国民健康保険に加入したいなど、本人の事情に適宜対応して、被保険者資格を喪失することが可能になっています。

4.保険料についての比較

任意継続被保険者となった場合の保険料は、次のいずれか少ない額に保険料率を乗じた額となります。


・「被保険者資格喪失時の標準報酬月額」
・「任意継続被保険者が属する保険者の全被保険者の平均の標準報酬月額」


たとえば、協会けんぽの2022年度の全被保険者の標準報酬月額の平均は30万円です。したがって、退職時にこれより高い標準報酬月額の人は30万円、これより低い人は退職時の標準報酬月額に保険料率を乗じた額となります。


ただし、任意継続被保険者になると、半額負担されていた事業主負担がなくなり、保険料の全額が自己負担となります。40歳以上65歳未満の人には、介護保険料も加わります。


保険料率は年度ごとに変わりますが、標準報酬月額は退職時に決まった額で変わることはありません。組合健保も同様の考え方です。保険料率と標準報酬月額の平均は、各組合により異なります。


なお、今回の改正により、組合健保の場合は、規約で定めることにより、「被保険者資格喪失時の標準報酬月額」または「当該健保組合の全被保険者の平均標準報酬月額を超え、資格喪失時の標準報酬月額未満の範囲内において規約で定める額」とすることが可能になりました。



以上で説明してきたとおり、任意継続被保険者になったあと、より柔軟に資格喪失の選択ができるようになっています。人事・労務担当者としては、あらかじめ自社の保険者のサイトで制度の内容を確認するなどして、退職予定者から質問があった場合に備えておきましょう。



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