Netpress 第2199号 どうすればいい? インボイス制度の開始と免税事業者との取引の留意点

Point
1.2023年10月1日から始まる消費税の適格請求書等保存方式(いわゆるインボイス制度)は、経理業務のみならず、企業間の取引のあり方そのものにも影響を及ぼすと考えられます。
2.ここでは、特にインボイス制度が企業間の取引価格に与える影響と対応策について検討します。


公認会計士・税理士
峯岸 秀幸


1.仕入税額控除が認められる要件

課税事業者である企業の消費税の納税額は、売上先から預かった消費税から、仕入先に支払った消費税を控除(仕入税額控除)して計算します。


仕入先に支払った消費税の控除は無条件に認められるわけではなく、控除するために満たすべき要件があります。2023年10月1日以降は、適格請求書の保存がその要件になるというのが、インボイス制度の具体的な内容です。


適格請求書とは、売手が買手に正確な適用税率や消費税額等を伝えるための手段で、一定の事項が記載された請求書や納品書等をいいます。適格請求書を交付できるのは、あらかじめ所轄税務署長に申請書を提出して、適格請求書発行事業者の登録を受けた事業者です。登録を受けようとする事業者は、その前提として課税事業者でなければならないため、免税事業者が登録を受けようとする場合には、自ら課税事業者を選択する必要があります。


なお、インボイス制度の開始と同時に、適格請求書発行事業者の登録を受けるためには、2023年3月31日までに登録申請書を提出しなければならないとされています。

2.インボイス制度が取引価格に与える影響

インボイス制度の開始後、仕入先から適格請求書の交付を受けられないと、原則的には仕入税額控除の適用を受けることができません。そのため、控除できなかった仕入税額は自社の負担となり、自社の消費税の納税額を増やし、利益を圧迫することになります。


このように、適格請求書の有無は自社の利益に直接関わるため、インボイス制度の開始後においては、仕入先が適格請求書を交付してくれる先か否かが、その仕入先との間の取引価格の決定にあたり考慮すべき要素になります。


仮に、インボイス制度開始後に仕入先から適格請求書の交付を受けられない場合、価格を下方改定してもらう、仕入先を切り替えるといった対応を取らなければ、利益の減少を受容するしかなくなります。

3.免税事業者の「益税」と経過措置

現在、免税事業者である仕入先には、課税事業者かつ適格請求書発行事業者になってもらい、取引価格は据え置けばよいと考えるかもしれませんが、ことはそれほど単純ではありません。


免税事業者は消費税を納めていませんが、売上に際して消費税相当額を収受しているケースが多く、それはそのまま免税事業者の利益になっています。


この利益を免税事業者の「益税」と呼ぶことがあり、その是非には議論があるものの、免税事業者はこの益税部分を含めて資金繰りをしているのが実態です。


免税事業者が課税事業者の選択を迫られると、この益税部分の利益を失ってしまいます。免税事業者である仕入先の立場からは、適格請求書発行事業者になるのであれば、代わりに取引価格を上方改定してもらわないと事業を継続できないということになりかねません。


もっとも、このような免税事業者の事情に配慮して、インボイス制度の開始から一定期間は、適格請求書発行事業者以外からの仕入れについても、次の割合の仕入税額控除を認める経過措置が設けられています。


・2023年10月1日〜2026年9月30日……仕入税額相当額の80%
・2026年10月1日〜2029年9月30日……仕入税額相当額の50%

4.仕入先の状況別の対応策

ここまでの説明を総括すると、インボイス制度の開始に先立ち、企業は仕入先の状況に応じて、取引価格に関して下図に示した対応を図る必要があります。




なかでも、価格改定の可否とその程度が大きなポイントになるでしょう。


いずれにせよ、どう対応するかを決定したうえで社内外の調整を行い、制度開始に間に合わせなければなりませんから、時間的な余裕はそれほどありません。

5.価格改定における注意点

実際に免税事業者である取引先と価格改定の交渉をする際には、法に触れないようにしなければなりません。


一般論として、免税事業者は小規模な事業者であり、そのような事業者を仕入先にもつ企業は、情報量や交渉力において仕入先に勝っていることが想定されます。


そのような地位を利用して一方的な価格改定を行い、不当に不利益を与えることは、独占禁止法上の優越的な地位の濫用に当たる可能性があります。仮に、自社が行った価格改定がこのようなケースに当たると認められた場合、排除措置命令や課徴金納付命令の対象となります。


また、自社が営む事業の種類によっては、下請法や建設業法の規制を受ける可能性があります。


仕入先との間の価格改定交渉は、以上のような法的な問題を引き起こさないよう十分に注意する必要があります。財務省・公正取引委員会等が公表している「免税事業者及びその取引先のインボイス制度への対応に関するQ&A」(2022年3月8日改正)では、問題となり得る具体的な行為を解説していますので、参考にしてください。

6.仕入先の現状把握が最優先

ここまで、免税事業者を仕入先にもつ企業が、インボイス制度の開始までにどのような対応をとらなければならないかを確認してきましたが、その入り口となるのは「現状把握」です。仕入先へのヒアリング等により、インボイス制度の開始と同時に適格請求書発行事業者になる予定のない事業者を把握しなければなりません。


国税庁の「適格請求書発行事業者公表サイト」では、すでに適格請求書発行事業者の登録申請を終えた事業者の商号等を確認することができますので、有効に活用したいところです。



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