Netpress 第2192号 M&Aの活用など ポストコロナにおける海外事業の再構築
1.事業環境の変化に応じて、海外拠点の再編・撤退を含めた再構築のタイミングが到来しました。
2.再構築における成長の有効な手段の一つとして、海外M&Aという選択肢も考えることができます。
グローウィン・パートナーズ株式会社
フィナンシャル・アドバイザリー事業部
海外FA部長
田内 恒治
1.ポストコロナと海外事業の再構築
新型コロナウイルス感染症の影響により、国内・海外を問わず、事業に大きな変化が訪れた企業も多いのではないかと想像します。
具体例を挙げると、2020年以降、海外渡航の制限、現地におけるロックダウン、物流の停滞など、海外事業では特に大きな苦難がありました。
さらに、2022年に入り、ロシアによるウクライナ侵攻、欧米の利上げによる急激な円安の到来など、さらなる荒波が吹き荒れる海外事業環境です。
こうした状況下において、ポストコロナにおける海外事業の再構築が重要な経営課題となっています。以下、今後、どのような戦略・選択肢があるのかについて考えていきます。
(1)海外拠点の再編と撤退戦略の検討
海外拠点の業績を見極めて再編を検討し、撤退することも選択肢の一つとなります。
海外拠点の立ち上げは、大きなエネルギーを要する全社イベント的な事業となりますが、撤退や再編に関しては、事業部任せの意思決定となるケースも散見されます。
コロナ禍において業績が思うように伸長しない拠点では、ポストコロナの状況が訪れたときに従前の計画が実現できるかどうか、全社的な再点検が必要です。
中長期のビジョンのなかで海外にどれだけ注力すべきか、それに必要な経営資源を確保してきたかを振り返るには、よいタイミングであると考えられます。
海外事業の再構築においては、それぞれの進出国、地域の位置づけについても、今後の市場成長性、取引先の経営環境などを踏まえて検討しておく必要があります。
検討のステップとしては、外部環境と内部環境の両面から進めるのがよいでしょう。
検討にあたっては、まずはじめに、各地域の外部環境を理解しておくことが必要です。
短期的には日常の取引や受注計画などが重要ですが、現地の経済環境や政治情勢が今後、日系企業の現地経営に影響を及ぼす可能性は高いといえます。各国で起こるインフレと人件費の高騰は、海外拠点を設立した当初の経営環境の前提とは、大きく異なるものではないかと想像されます。現在の外部環境下で、現地拠点の機能、位置づけが将来も機能し得るものかどうかの検討が必要です。
次に、各拠点の内部環境として、各拠点のガバナンスとマネジメントの現状認識を確認しておく必要があります。
月次のレポートなどで数値報告は上がっていても、業績不調の原因は明確にならないということは多いものです。親会社が現地の派遣責任者と連絡を取り、現地責任者も現地の各部門長と言語の問題などでコミュニケーションが十分に取れていない場合はなおさらです。
現地法制や移転価格税制などを端緒として、ビジネス上行うべきアクションが取れていない結果として発生している事象なども、検討の論点にあげておくべきです。
これらを一覧できるフォーマットを用意し、全拠点の必要性、意義をマッピングしていくことで、全体を俯瞰し、戦略を再構築することが可能となります。
(2)再編撤退戦略の立案
業績不振が続く拠点においても、拙速な撤退判断は、なかなかできるものではありません。従業員の解雇や資産の売却、移管、顧客への供給責任の代替など、検討すべき事項は多数あります。
存続・撤退のPros&Cons(メリットとデメリット)分析、事業売却の可能性の検討(海外子会社の売却、M&A活用)、撤退時の財務インパクト試算などを踏まえて、総合的な判断をすることが必要となるため、余裕をもって計画立案の時間を確保しておくことが重要です。
2.海外事業成長におけるM&Aの活用
これまで自前主義で独資により海外事業を進めてきた企業も、今後の海外事業の成長を考えたときに、M&Aによる非連続の成長を検討することも選択肢の一つです。
むしろ、海外事業を独自に行ってきたノウハウと管理経験があるからこそ、海外M&Aを成功に導ける要素があると考えることができます。
海外ならではの苦労を会社として理解しており、PMI(買収後の経営統合)も覚悟ができているといえます。
(1)海外M&Aの独自要素
海外M&Aを活用することのメリットとしては、①成長市場へのアクセス、②売上創出の時間短縮、③投資額の明確性、④撤退時のオプションの4点があげられます。新興国など市場の複雑な流通構造がある場合は、現地商流へのアクセスルートを確保することが可能になります。
ただし、海外M&Aの実行にあたっては、国内M&Aとは異なる要素も多いのが現実です。M&Aの実施プロセスに関しては、国内での経験が活かせますが、国内と海外を同等のものとして扱うと、あとで困ることになります。
持ち込まれた案件に飛びつくのではなく、戦略に基づいた明確な方針のもとに進めていくことが肝要です。
(2)持ち分取得のアライアンス戦略も選択肢の一つ
海外事業の拡大にあたっては、100%の完全買収にこだわらず、アライアンス戦略をとるという柔軟性も必要です。あえて先方の資本を残すことで、現地顧客や経営習慣を把握することや、持続的な経営に関するコミットメントを得ることが可能になるということも考えられます。
アジアの新興国のなかでは、外資規制があって現地資本でなければできない事業もあります。合弁事業の運営の難しさを事前に理解したうえで、アライアンスによりローカル市場により深くコミットしていくことは、今後の海外事業の再構築において検討に値するでしょう。
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