マネプラ・オピニオン 一極集中から多極「集住」へ

本コラム「マネプラ・オピニオン」は、6名の識者の方々に輪番制でご担当頂きます。それぞれがご自身の視点で経営者の方々へのメッセージをまとめた連載コラムです。



岸田政権の肝いり政策の一つである「デジタル田園都市国家構想」は、デジタル技術、サイバー空間を活用することで東京と地方の経済社会活動上の格差を埋め、地方のもつ優位性を活かすことにより東京一極集中のさまざまな問題を解消し、日本全体の活性化を目指すものである。


東京はGDP(域内生産)成長率、人口当たりのGDP伸び率、賃金上昇率いずれも低迷し、人口過剰集積で住居費は突出して高く、通勤時間も突出して長い。


可処分所得、可処分時間で東京は国内ワーストを続けており、その結果、低い出生率で人口減少にも拍車をかけている。災害への強靭性、安全保障上も、あらゆる機能が東京圏に集中していることが脆弱なのも明白である。


東京一極集中型の国家構造はこの国の持続性を危殆(きたい)にさらしており、この構造から人々の生活空間、経済活動空間を多極化し、地方を新たな経済社会を活性化する場として真の意味で「創生」していくことを志向するのはまったく正しい。


その一方で、人々が中山間部に拡散居住すると、人口減少社会で地域のリアルな生活に密着した経済活動はますます非効率になり、生産性は低下する。よく使われる「東京一極集中から多極分散へ」と言う言葉は、大きな危険性をはらんでいる。


現在の日本の人口は、ほとんどの都道府県で今でも100年前よりもはるかに多い。戦後の引き揚げからベビーブームと相まった昭和20年代の第一期と、田中内閣の列島改造論を契機とする第二期に拡散居住化が進んだが、そこへ人口減少が起きたことで、地方は過疎がもたらすさまざまな問題に深刻に直面しているのである。


サイバー空間において東京とリアルタイムでつながることで田園「都市」で豊かに生活することを可能にすると同時に、コンパクトシティ化、コンパクト&ネットワークで集住を進めること。この二つを同時に進めて多極「分散」ではなく多極「集住」が実現してはじめて、わが国は新しくて豊かな国のかたちへとトランスフォーメーションできることになる。

プロフィール

株式会社日本共創プラットフォーム(JPiX) 代表取締役社長 冨山和彦

株式会社ボストン コンサルティング グループ、株式会社コーポレイト ディレクション代表取締役を経て、2003年、株式会社産業再生機構設立に参画しCOOに就任。解散後、07年に株式会社経営共創基盤(IGPI)を設立し代表取締役CEOに就任。20 年10月よりIGPIグループ会長。20 年に株式会社日本共創プラットフォーム(JPiX)設立、代表取締役社長に就任。パナソニック株式会社 社外取締役、経済同友会政策審議会 委員長、日本取締役協会会長、政府関連委員多数。

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