Netpress 第2194号 保護対象者の拡大など 公益通報者保護法の改正ポイントと企業の対応

Point
1.公益通報者の保護に関するルールを定めた公益通報者保護法が一部改正され、6月1日に施行されました。
2.適切な内部通報体制の整備の義務化など、今回の改正ポイントと企業に求められる対応を解説します。


弁護士 梅澤 康二


公益通報者保護法は、企業・組織で働く者(以下、「労働者等」といいます)が、当該企業・組織に関する公益通報を行った場合に、当該企業・組織が当該通報者に対して、通報行為を理由に解雇、降格、減給、その他雇用上の不利益を与えることを禁止することを基本構造としています。


そして、同法が特に保護する「公益通報」は、労働者等が、不正の目的以外の目的で、就労先における通報対象事実の発生等を所定の通報先に通報する行為と整理しています。

1.法改正のポイント

公益通報者保護法については、近年、保護要件が限定的に過ぎて使い勝手が悪い、事業主側にペナルティがないので実効性に欠ける、といった批判がなされていました。


このような批判を踏まえ、公益通報者保護法は2020年6月に一部改正され、ことし6月1日に施行されました。


(1)保護対象者の拡大

改正前の公益通報者保護法(以下、「旧法」といいます)は、保護対象となる範囲を、現在就労中の労働者と派遣労働者に限定していました。


改正法では、現在就労中の労働者等に加えて、退職した労働者・派遣労働者、契約中・契約終了後の業務委託先(業務委託先の労働者等を含みます)、役員が保護対象者に追加されました。


また、保護対象者に役員を追加したことを踏まえ、役員が一定の条件を満たす公益通報行為を行い、これを理由に解任された場合には、当該解任で生じた損害の賠償を求めることができることが明記されました。


(2)行政機関・第三者に対する通報に係る規制緩和

旧法では、保護される行政機関や外部者への通報行為をある程度限定していましたが、改正法はこの限定を若干緩和し、以下のような場合も保護対象に追加しました。


①行政機関に対する通報行為

行政機関に対しては、次に挙げる所定の事項を書面等に明記して通報を行う場合、通報対象事実の発生等を信じるに足りる相当な理由までは要求しないこととされました。


・公益通報者の氏名・住所
・通報対象事実の内容
・通報対象事実が発生している、または現に発生しようとしていると考える理由
・通報対象事実について、法律上の措置が取られるべきと考える理由


②第三者に対する通報行為

通報対象事実の発生等を信じるに足りる相当な理由まで要求されることは旧法と同じですが、改正法は当該要件に追加される条件に次の事項を新たに加えることで、保護の限定範囲を拡張しました。


・就労先等への通報行為により、就労先等が公益通報者を特定し得る情報を正当な理由なく外部に漏えいすると信じるに足りる相当な理由があること
・回復不能または重大な財産上の損害が発生または発生する危険があると信じるに足りる相当な理由があること


(3)事業者側の損害賠償請求権の制限

改正法は、公益通報の名宛人となった事業者が、正当な公益通報を行った通報者に対して、通報行為により生じた損害の賠償を求めることを禁止しました。


(4)事業者の体制整備の義務

改正法では、役員・従業員による公益通報(内部通報)について、事業者側に一定の体制を整備すべき義務を新たに設定しました。


この事業者の体制整備の義務は、旧法では義務付けがされていなかったものを、ことさら義務付けたものです。


(5)行政機関の是正指導権限の拡張

改正法は、行政当局が事業者に対し、公益通報者保護法の定める体制整備について一定の報告を求めることや、是正のための助言・指導・勧告ができること、是正勧告に従わない事業者を公表できることを明記しました。


旧法では、行政当局は通報先となる場合に限って調査権限等が認められていましたが、改正法は行政当局による一般的な権限を認めて、行政側が公益的見地からより広く対応できるよう整備されました。


(6)刑事罰の新設

改正法は、事業者から公益通報対応業務の担当者に任ぜられた者が、正当な理由なく通報者を特定できる情報を漏えいする行為に30万円以下の罰金刑を定めました。また、行政当局による事業者の体制整備に係る報告要求について、報告をしない行為や虚偽報告をする行為に20万円以下の罰金刑を定めました。


旧法では、公益通報者保護法違反について刑事罰は定められていませんでしたので、改正法は一定の違反について、より厳しい態度で臨むことを明確に打ち出したものといえそうです。

2.実務上の留意点

改正法では、通報者の保護をより手厚くするための改正がいろいろと行われましたが、事業者側で実際に対応を要するのは、上記(4)の体制整備の義務です。


具体的には、事業者側においては、次のような対応が求められます。


・公益通報対応業務従事者の選定
・内部公益通報窓口の設置
・内部公益通報への適切な対応
・公益通報者に対する保護措置
・企業内での教育・周知
・内部通報記録の保管、制度の見直し・改善、情報の開示


なお、この体制整備の義務は、常時使用する労働者数が300人超の事業者に課されるものであり、300人以下の事業者については努力義務とされています。



昨今のインターネット社会では、企業の不正・不祥事が容易に外部に発信される危険性があります。適格な内部通報体制を整備することは、不用意な情報漏えいを抑止することにもつながります。積極的に実施していきましょう。



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