Netpress 第2193号 トラブル回避のために 「シフト制」労働者の雇用管理における留意点
1.パートやアルバイト勤務に「シフト制」を導入している場合、労使間でトラブルが生じることも少なくありません。
2.厚生労働省が示している「留意事項」を踏まえて、シフト制労働者の適切な労務管理について解説します。
毎熊社会保険労務士事務所
代表 毎熊 典子
労働日や労働時間を一定期間ごとに調整して特定する「シフト制」労働契約は、柔軟に労働日や労働時間を設定できますが、会社の都合により、労働者の希望を汲まない労働日や労働時間が設定されてトラブルになることがあります。
以下では、厚生労働省がことし1月に公表した『いわゆる「シフト制」により就業する労働者の適切な雇用管理を行うための留意事項』を踏まえて、シフト制労働者の雇用管理上の留意事項や具体的な対応をみていきます。
1.シフト制労働契約の主な留意事項
シフト制労働契約についても、使用者は労働者に対して、労働契約の締結時に所定の事項(労働条件)を明示しなければなりません。そのなかでも、特に「労働日と労働時間」「休日」に関する事項に留意する必要があります。
(1)労働日と労働時間に関する事項
シフト制労働契約を締結する際は、労働契約書等に、単に「シフトによる」と記載するだけでは足りません。
始業・終業時刻が確定している日については、労働契約書等に労働日ごとの原則的な始業・終業時刻を記載したうえで、契約締結と同時に定める一定期間分のシフト表等を労働者に交付する必要があります。
(2)休日に関する事項
具体的な曜日等が確定していない場合でも、休日の設定の基本的な考え方などを明示しなければなりません。
労働基準法は、「少なくとも週1回」または「4週間を通じて4日以上」の休日を与えなければならないとしているので、最低でもこれらの条件を満たす考え方を明示する必要があります。
なお、「4週間を通じて4日以上」とする場合は、4週間の起算日を就業規則等により明らかにしておきます。
2.就業規則で定めておくべき事項
シフト制労働者の始業・終業時刻や休日に関する事項を定める場合は、基本となる始業・終業時刻や休日を定めたうえで、「具体的には個別の労働契約で定める」「具体的にはシフトによる」旨を定めることが必要です。
単に「シフトによる」との記載にとどめた場合は、就業規則の作成義務を果たしたことになりません。
3.雇用管理上の主な留意事項
(1)労働時間
シフト制労働者であっても、労働時間の上限は、原則として1日8時間、1週40時間であり、この上限を超えて労働させる場合には、時間外労働・休日労働に関する協定の締結・届出が必要です。
また、1日の労働時間が6時間を超える場合は45分以上、8時間を超える場合は1時間以上の休憩を、労働時間の途中で与えなければなりません。休憩は、複数回に分けて付与することができますが、1回あたりの時間が短くなり過ぎないように注意します。
なお、休憩中に電話対応や来客対応などをした場合は、その時間は休憩時間として取り扱えないため、その分の休憩を別途与えなければなりません。
(2)シフトの変更
シフトを確定させた後の労働日や労働時間の変更は、労働条件の変更となるため、労使双方が合意したうえで変更する必要があります。
シフトの変更は、日常的に発生することが想定されるため、変更を円滑に行えるように、シフトの変更に関するルールを就業規則や雇用契約書に設けておくことが望まれます。
(3)年次有給休暇
シフト制労働者についても、労働日数・労働時間数に応じて年次有給休暇が発生します。付与日数が10日以上の場合は、そのうちの5日については、付与日から1年以内に時季を定めて取得させることが必要です。
年次有給休暇は、原則として労働者が請求する時季に取得させる必要があり、「シフトの調整をして働く日を決めたのだから、その日には取得させない」といった取り扱いは認められません。
(4)休業手当
シフト制労働者を使用者の都合で休業させた場合は、平均賃金の60%以上の休業手当の支払いが必要です。
ただし、労働者を辞めさせる目的でわざとシフトに入れないなど、使用者の故意または過失により休業させた場合は、賃金の全額を支払わなければなりません。
(5)均衡待遇
シフト制労働者が短時間勤務や有期労働契約の労働者である場合には、通勤手当の支給や慶弔休暇の付与などについて、正社員と比べて不合理な待遇差にならないよう注意する必要があります。
(6)労働契約の無期転換
シフト制労働者であっても、雇用契約が繰り返し更新されて契約期間が通算で5年を超えた場合、労働者が使用者に対して期間の定めのない労働契約の締結の申し込みをしたときは、労働契約法18条に基づき、期間の定めのない労働契約が成立します。
4.契約終了時の留意点
(1)解雇
シフト制労働者と有期労働契約を締結している場合は、やむを得ない事由があるときでなければ、その契約期間が満了するまで解雇することができません。
また、期間の定めのない労働契約を締結している場合は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない解雇は無効となります。
やむを得ず解雇する場合は、シフト制労働者についても、30日以上前の解雇予告または平均賃金の30日分以上の解雇予告手当の支払いが必要です。
(2)雇い止め
シフト制労働者であっても、過去に有期労働契約が反復更新されており、雇い止めをすることが客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当と認められないときは、従前と同一条件で有期労働契約が更新されます。
なお、有期労働契約が3回以上更新されているシフト制労働者や、雇い入れの日から1年を超えて継続勤務しているシフト制労働者の契約を更新しない場合には、30日以上前の解雇予告が必要です。
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