Netpress 第2184号 非常時こそより慎重に コロナ禍での退職トラブルとその予防策

Point
1.コロナ禍による経営状況の変化により、十分な検討をせずに雇い止め等を行う企業も少なくありません。
2.退職に際して生じがちなトラブルの予防策と対応策、コロナ禍における留意点などについて解説します。


湊総合法律事務所
弁護士 野坂 真理子


1.雇い止めによるトラブル

(1)雇い止めの要件
一般的に、客観的合理性や社会的相当性を欠く解雇は、解雇権の濫用として無効となります(労働契約法16条)。


また、特に整理解雇は、普通解雇や懲戒解雇と異なり、もっぱら使用者側の経営的な事情に基づく解雇であることから、客観的合理性・社会的相当性の有無についても、厳しく判断されます。


具体的には、次の4要素により判断されることになります。


①人員削減の必要性
②解雇回避努力
③被解雇者選定の合理性
④解雇手続の妥当性


コロナ禍では、非正規雇用労働者、特に有期雇用労働者の雇用への影響が著しいといわれています。


有期契約期間内の経営悪化を理由とした解雇については、上記の整理解雇の4要素に加えて、期間満了を待たずに直ちに雇用を終了せざるを得ない特段の重大な事由が必要であると解されています。したがって、整理解雇の有効性の判断は、一般的な整理解雇の場合より厳格となります。


さらに、有期契約期間の満了により、これを更新せずに雇用契約を終了させる、いわゆる「雇い止め」の場合でも、整理解雇と同様の配慮が必要な場合があります。


労働契約法19条では、①過去に反復・更新された有期労働契約で、雇い止めが無期労働契約の労働者の解雇と社会通念上同視できると認められるもの、②労働者において、有期労働契約の契約期間の満了時に契約更新されるものと期待することに合理的な理由があると認められるものは、客観的合理性や社会的相当性がない限り、雇い止めはできないとされています(下図参照)。




この場合、合理性、相当性の有無は、原則として、4要素によって判断されることになります。


前頁の図に該当する有期雇用労働者については、一定の場合にしか雇い止めは認められず、要件を満たさない雇い止めは無効となります。


この要件に合致するか否かは、個別具体的な事情に基づき判断されます。判断が難しい場合には、専門家に相談のうえ、雇い止めを進めることが必要です。


もっとも、裁判例上、有期雇用労働者の雇い止めは、無期雇用労働者の解雇に比べて緩やかに判断されています。特に、4要素のうち解雇回避努力については、正社員の整理解雇に先立って有期雇用労働者の削減を行うべきと判示されているものもあります。


したがって、無期雇用労働者と同じレベルでの解雇回避努力が求められるわけではありません。


(2)コロナ禍における留意点

雇用調整助成金は、有期雇用労働者であっても雇用保険の加入者であれば適用対象となります。


前頁の図の適用を受ける有期雇用労働者について雇い止めを行う場合には、解雇回避努力として休業等に伴う雇用調整助成金の申請を検討すべきです。


なお、1週間の所定労働時間が20時間未満であるなど、雇用保険の適用対象となっていない労働者については、雇用調整助成金の申請はできません。しかし、別制度である緊急雇用安定助成金の支給が受けられる場合がありますので、この点も検討すべきです。

2.会社による退職拒否

人手不足や採用コスト負担の回避のため、従業員が退職届を提出しても受理しないなど、会社側が退職を拒否する事例も発生しています。労働者には退職の自由があり、労働者が退職意思を示したにもかかわらず、会社側がこれを拒否することは違法となります。


無期雇用労働者の場合、労働者はいつでも解約の申し入れをすることができ、この場合において、雇用は解約の申し入れの日から2週間を経過することによって終了します(民法627条1項)。


なお、就業規則において、これとは異なる予告期間を定めている場合には、その期間に従うことになります。


したがって、従業員に対し、2週間または就業規則上の予告期間を超えて会社に在籍し続けることを強要することはできません。不当に退職を拒否した場合には、労働基準監督署から指導を受けたり、従業員が突然出勤しなくなってしまうなどして、かえってトラブルとなる可能性が高いため、控えるべきです。

3.退職時の引き継ぎに関するトラブル

コロナ禍におけるテレワーク等の普及による従業員間の関係性の希薄化のためか、従業員が突然出勤しなくなり、連絡も取れなくなるという事例も増えています。


また、近年、労働者の会社への退職申し入れ等を代行して行う、いわゆる「退職代行サービス」を利用した退職の申し入れも普及してきました。


会社との直接の接触を避けるために利用されるものであるため、従業員が退職日まで出勤しないことが前提となっているケースが多く、業務上の引き継ぎや退職に伴う手続に支障が生じることも少なくありません。


前述のとおり、会社側としては退職自体を拒否することはできないため、退職を前提としつつ、業務や手続に支障をきたさないよう退職者に対して要請すべき事項を整理し、通知するようにします。


要請すべき事項としては、業務における引き継ぎや入室カードの返却、秘密情報に関する誓約書の作成などが挙げられます。退職者が合理的理由もなくこれを拒み、会社に損害を与えた場合には、雇用契約上の債務不履行に当たる行為であるとして、退職者に対する損害賠償請求が可能となるケースもあります。


会社側としては、適切な引き継ぎや手続が行われなければ、会社の業務上大きな損害が生じることを退職者に伝え、その重大性を理解させることが重要です。



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