Netpress 第2181号 目的の明確化から効果の確認まで データ活用を実践する6つのステップ

Point
1.データを取得するために、多大な費用や手間をかける必要はありません。できるところから挑戦しましょう。
2.ここでは、データ活用を実践するための6つのステップと、このステップを踏まえた取り組みの例を紹介します。


さくら情報システム株式会社
技術開発部 イノベーショングループ
大谷 隼


1.データ活用実践の6つのステップ

前回(2022.2.7 第2147号「データ活用これがはじめの一歩!」)、データ活用の進め方についてお伝えしました。しかし、いざデータ活用を実践しようとしても、具体的にどのように進めていけばよいかわからない、という方は多いのではないでしょうか。また、お金や手間がかかるのではないかと考えて、躊躇される方もいらっしゃるでしょう。


データ活用に取り組む際、私は、次の6つのステップに沿って実践することをお勧めしています。




今回は、この6つのステップについて、具体的な実践例を交えて解説します。

2.データ活用の実践例

実店舗を所有する社員200名程度の小売業X社の事業責任者であるAさんが、「売上を伸ばしたい」という目的をもって、データ活用を実践する例で説明していきます。


【ステップ1:目的の明確化】

最初のステップでは、データ活用により達成したい目的を明確化します。


事業責任者のAさんは、実店舗での売上を伸ばすためにさまざまな施策を実施してきましたが、最近は想定よりも売上が伸び悩んでいます。


そこで、行き当たりばったりの施策ではなく、「根拠をもった施策で、売上を伸ばしていきたい」という目的を実現するために、データ活用に取り組み始めました。


「売上を伸ばしたい」という目的のほか、「コストを削減したい」「新規顧客を開拓したい」「従業員の満足度を上げたい」といった目的も考えられます。


データ活用でよくある失敗例は、目的を明確化せず、データを見てから活用方法を考えたために、多くの無駄な時間を費やしてしまうことです。そうした失敗をしないよう注意しましょう。


【ステップ2:KPI(Key Performance Indicator)設定】

ステップ2では、目的を達成するためのKPI(達成指標となる数値)を設定します。


Aさんは、「売上を伸ばす」ための指標として、「来訪者数」「顧客単価」「購入頻度」などのKPIの候補を考えました。


その後、チームメンバーと相談した結果、施策による効果が最も影響する「来訪者数」をKPIとして設定しました。


この実践例ではKPIを1つに絞っていますが、実際は「来訪者数」と「顧客単価」の2つを達成指標とするなど、複数のKPIを設定する場合もあります。


【ステップ3:KPIデータ取得】

ステップ3では、KPIの数値データを取得する方法を検討します。


Aさんは、「来訪者数」をKPIに設定したものの、それまで人数をカウントしていなかったため、数値データとして取得できません。対策として、来訪者数をカウントする機器の購入を考えましたが、値段が安くないために躊躇していました。


このことを直属の上司に相談したところ、「正確に数値を記録できなくても、コストをかけずに推測できる方法があるのではないか」という助言をもらいました。


そこでAさんは、「店頭に置いてある消毒液が、1日に何ml減っているか」に着目しました。調べてみると、1人あたり、1プッシュで2ml〜3ml減ることがわかったため、消毒液の消費量を参考に、おおよその来訪者数を計測しました。


このように、KPIの数値を正確無比に求めるのではなく、お金をかけずに、ある程度推測で数値化できないかと考えることが重要です。


【ステップ4:KPI改善の仮説立案】

ステップ4では、KPIを改善できると考えられる複数の仮説を立てます。


Aさんは、KPIである「来訪者数」の増加を見込める仮説を検討した結果、「①イベントを実施する」「②地元紙に広告を出す」「③駅に看板広告を出す」という3つの仮説を立てました。


検討する仮説が多いほど、よい仮説をみつけられる可能性が高くなります。チームメンバーと協力して、できるだけ多く仮説を出すようにすることも有効です。


【ステップ5:実践する仮説決定】

ステップ5では、複数の仮説から、実践する仮説(最も効果が高そうな仮説)を決定します。


Aさんは、3つの仮説のうち、最も効果が高そうな仮説はどれかをチームメンバーと議論しました。


その結果、「①イベントを実施する」が最も効果が高いと判断し、この仮説を実行することに決定しました。


【ステップ6:仮説実践によるKPI確認】

実際に仮説を実践し、KPIのデータから改善がみられたかを確認します。


Aさんは、イベントの実施による効果を見極めるために、イベントの前後でKPIである「来訪者数」の数値データを取得し、KPIの増減を確認しようと考えました。


実際の来訪者数データを確認したところ、イベントの実施後に来訪者数が増加し、売上も増加しています。この結果から、Aさんは、そのイベントによりKPIである「来訪者数」が増加したことを根拠として、売上を伸ばすことができたと判断することができました。


しかし、結果として来訪者数が増加したにもかかわらず、売上はあまり増加しないということも考えられます。


その場合は、「売上を伸ばす」という目的を達成するKPIが、「来訪者数」だけでは説明できないことになります。他の要素もKPIとして必要なのかもしれません。「では、その要素とは何だろう」という疑問を振り返りで議論し、次のデータ活用に活かしていくことが重要になります。


この試行錯誤の繰り返しにより、データ活用を実践できる企業へと押し進めることができます。



上記の実践例で示したとおり、データ活用を進めていくうえで、多大な費用や手間をかける必要はありません。できるところから挑戦していきましょう。実際に自社でデータ活用を実践する場合には、ここで紹介した6つのステップを参考にしていただけると幸いです。



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