Netpress 第2177号 模倣品流入の規制強化など 特許法の改正ポイントを確認する

Point
1.デジタル化等への対応、知的財産制度の基盤強化などを目的として、特許法等が改正されました。
2.ここでは、海外からの模倣品流入への規制強化、特許権等の権利回復要件の緩和についてみていきます。


アイアット国際特許業務法人
代表 川村 憲正


1.改正の概要

2021年5月14日、下記の内容の「特許法等の一部を改正する法律」案が国会において可決され、成立しました。


①新型コロナウイルスの感染拡大に対応したデジタル化等の手続の整備
②デジタル化等の進展に伴う企業行動の変化に対応した権利保護の見直し
③訴訟手続や料金体系の見直し等の知的財産制度の基盤の強化


改正内容は多岐にわたりますが、ここでは企業の知財活用に直接関連すると思われる次の改正について解説します。


・ 海外からの模倣品流入への規制強化 【意匠法・商標法】
・ 特許権等の権利回復要件の緩和 【特許法・実用新案法・意匠法・商標法】

2.海外からの模倣品流入への規制強化 【意匠法・商標法】

(1)規制強化の概要

権限なき海外事業者が国内の個人に模倣品を送付する場合、海外事業者は模倣品に係る意匠権・商標権を侵害することになりました。権利者は、税関において輸入を差し止めることなどが可能になります。


(2)背景

<現行法では、海外事業者から個人が輸入する場合は侵害を問えない>

海外事業者が、国内の個人に対し、少量の模倣品を郵便等で直接販売する場合は、国内の個人の輸入行為は「業として」の行為ではないので、意匠権・商標権の侵害は成立しないと解されていました。


<個人取引が急増>

しかしながら、近年、電子商取引の発展や国際貨物に係る配送料金の低下等により、国内の輸入業者が介在しない事例が急増しており、権利者の実害が大きくなっていました。


(3)具体的な改正

上記の背景を受けて、意匠法と商標法の条文が改正されました。


具体的には、「外国にある者が外国から日本国内に他人をして持ち込ませる行為」が、意匠法・商標法の「輸入」行為に含まれることになりました。「他人をして持ち込ませる行為」とは、配送業者等の第三者の行為を利用して外国から日本国内に持ち込む行為をいいます。たとえば、外国の事業者が、通販サイトで受注した商品を購入者に届けるため、郵送等により日本国内に持ち込む場合が該当します。


この規定により、権限なき海外事業者が国内の個人に模倣品を送付する場合、海外事業者は模倣品に係る意匠権・商標権を侵害することとなり、権利者は税関において輸入を差し止めることなどが可能になります。個人使用目的による行為は権利侵害行為とはならないので、個人が罰則の対象となることはありません。




海外から、日本の輸入業者を通さず、直接個人に模倣品が販売されるケースが増えているなか、この改正により、意匠権・商標権の実効性が高まることが期待できます。本改正は、2022年11月までに施行されます。


なお、特許法・実用新案法では、同様の改正はされませんでした。意匠権・商標権侵害品と比べて、輸入差止件数が少なく、侵害成否の判断が困難であるため、改正の必要性が乏しい、というのが理由のようです。

3.特許権等の権利回復要件の緩和 【特許法・実用新案法・意匠法・商標法】

(1)緩和の概要

下記に示す手続を含む18の手続について、期間徒過により権利喪失が生じた場合、その回復を認める権利回復要件が緩和されました。


・出願審査の請求
・特許、実用新案、意匠の登録料と割増料の追納
・商標権の更新登録の申請
・商標権の後期分割登録料の追納


(2)背景

日本では、特許庁の処分が後に行政争訟の対象となることも念頭に、権利回復の要件が厳しく運用されていました。


その結果、近年、国内外の出願人等から、日本の権利等の回復のための判断基準や立証負担は、欧米諸国に比して厳格に過ぎるとの指摘を受けている実情がありました。


また、特許等の権利化は国境を越えて行われることが多く、同様の手続の瑕疵に起因する期間徒過により喪失した権利等が他国では回復される一方、日本では回復されない場合には、結果として、日本国内では十分な救済が得られない事態が起こっていました。


(3)具体的な改正

上記の背景を受けて、特許権等の権利回復要件が緩和されました。


具体的には、従来は「正当な理由があること(天災地変など)」が権利回復要件とされていましたが、改正により、「故意でないこと」が権利回復要件となります。


一方、一定の回復手数料が徴収されます。権利等の回復は容易となりますが、制度の濫用を防ぐとともに、手続期間の遵守については、これを引き続き促進する必要があるからです。


その金額の水準は、消滅した権利を出願して再取得すると擬制した場合に特許庁に納付すべき金額(出願から権利化までに要する平均的な手数料額)に相当するもので、比較的高額になります。


すべてではありませんが、この改正により、手続期間の徒過による権利消滅等を回避できる可能性が高まりました。何かあれば専門家に相談してください。本改正は、2023年5月までに施行されます。



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