Netpress 第2173号 納税通知書の金額は正しいか? 固定資産税の課税ミスの実態と還付の受け方

Point
1.納税通知書に従って納付する固定資産税ですが、自治体のミスによる過大徴収は決して稀ではありません。
2.ここでは、土地・家屋の固定資産税のしくみ、納税者が知っておくべき留意点、還付の受け方を確認します。


鳥飼総合法律事務所
弁護士 山田 重則


1.固定資産税の過大徴収の実態と特徴

(1)全国で過大徴収が頻発

総務省が2009年度から2011年度までの固定資産税の課税ミスの件数等を調査した結果、1,592市町村のうち、97%の市町村で何らかの課税ミスが発生し、その過半数を過大徴収の事案が占めていることが判明しました(総務省「固定資産税及び都市計画税に係る税額修正の状況調査結果」)。


その後も過大徴収の事案はいっこうに減らず、日本経済新聞の報道によると、2014年度以降、全国の主要都市による固定資産税の還付金の合計額は、毎年70億円程度で推移しています(2019年12月2日付)。


(2)最大の要因は評価額の誤り

総務省は、先の調査で課税ミスの要因についても調べていますが、土地、家屋ともに課税ミスの最大の要因は、評価額の誤りです。固定資産税は、基本的には、固定資産の評価額に1.4%の税率を乗じることで計算されます。したがって、自治体が固定資産を誤って過大に評価してしまった場合には、固定資産税も過大となります。


固定資産の評価は、総務省の定める「固定資産評価基準」に基づいて行う必要があります。しかし、この基準を正確に適用して評価することは容易ではなく、評価の誤りによる課税ミスが後を絶たないのです。


(3)過大徴収は長期間に及ぶ

ひとたび固定資産税の過大徴収が発生すると、過大徴収が数十年にわたって続くことがむしろ一般的です。納税者はもちろん、自治体もまた過大徴収の事実に気づくことが難しいためです。


筆者が固定資産の所有者から依頼を受け、自治体との間で交渉を行った過大徴収事案においても、20年以上の過大徴収となっていたものが大半でした。

2.固定資産の評価方法と誤りが生じやすい物件

前述のとおり、自治体は固定資産評価基準に基づいて、土地、家屋の評価を行わなければなりません。固定資産評価基準に基づかないで評価した結果、固定資産の評価額が過大となった場合には、過大徴収となります。そのため、自治体が固定資産評価基準の定める評価方法で、適正に評価しているかどうかが問題となります。


(1)土地

固定資産評価基準の定める土地の評価方法のうち、特に実務上重要なのは、市街地の宅地(建物を建てるための土地)の評価方法である「市街地宅地評価法」です。


市街地宅地評価法による評価でミスが生じやすいのは、「各宅地の個別的な要因を踏まえて価格(評価額)を算出する」プロセスです。個々の宅地の個別的な要素は多数存在するため、その宅地を評価する際、本来は考慮すべき要素を見落としてしまい、その結果、宅地の評価額が過大になってしまうことがあります。


評価の際に考慮すべき要素は個々の宅地によって異なり、どのような宅地に評価ミスが生じやすいかは一概にはいえません。もっとも、一般的に都市部の宅地は評価額が高いため、考慮すべき要素を1つでも見落とせば、評価額には相応の影響が生じます。したがって、都市部の宅地の所有者ほど評価ミスによる不利益を被りやすいとはいえます。


(2)家屋

固定資産評価基準は、家屋の評価方法として「再建築価格方式」を採用しています。


再建築価格方式とは、評価時にその家屋を再度、建築したと仮定した場合に通常必要となる建築費を求め、これに建築時からの経過年数、損耗の程度等による減価を考慮して評価をするものです。


再建築価格方式の評価でミスが生じやすいのは、「新築時の再建築費評点数」の計算です。新築時の再建築費評点数は、その家屋に使用されている資材や設備の種類、数量を見積書や図面等から正確に読み取らなければ求めることができません。しかし、1棟当たりの建築コストが10億円を超えるような大規模な家屋では、資材や設備の種類、数量も各段に増えるため、このような読み取り作業が非常に難しくなります。


筆者が自治体と交渉して固定資産税の還付を受けた過大徴収事案においても、家屋はいずれも建築コストが10億円を超えるものでした。特に、オフィスビル、ホテル、ショッピングモール、工場、倉庫といった施主の意向が強く反映される家屋において、評価ミスが多いというのが実感です。

3.過大徴収で納税者がとり得る手段

(1)自治体との交渉

過大徴収があった場合、自治体に対して過大徴収となっている旨を指摘し、過大に支払った固定資産税を返還するよう求めます。自治体が過大徴収を認めた場合、最大で20年前に遡って、利子相当額とともに過大に支払った固定資産税の返還を受けることができます。翌年度以降の固定資産税も、適正な金額まで減額されます。


(2)法的手段

①国家賠償請求

自治体と交渉したものの、自治体が過大徴収の事実を認めない場合や、不十分な返還しか行わないこともあります。この場合、納税者としては、過大に支払った固定資産税相当額を「損害」として、自治体に対して国家賠償請求をすることが考えられます。最大で20年前に遡って請求をすることができます。


②審査申出・審査請求、取消訴訟

固定資産税は、自治体が納付金額を計算して納税者に一方的に賦課する「賦課課税方式」の税金ですので、納税者としては、賦課決定の「取消訴訟」を提起することが考えられます。取消訴訟を提起するためには、その前提として行政に対する「審査申出」または「審査請求」をする必要があります。


固定資産税の賦課決定の取り消しが認められた場合、その年度以降の固定資産税は適正な金額まで減額されますが、過去に過大に支払った固定資産税が返還されるかどうかは自治体次第です。


自治体の対応に納得できなければ、納税者としては、改めて自治体に対して国家賠償請求をするほかありません。



自治体による固定資産の評価額が過大となった場合、納税者は長期にわたって経済的な損害を被ります。しかも、納税者が過大に支払った固定資産税の全額が返還されるとは限りません。このように、固定資産税は非常にリスクの高い税目です。まずは納税者がそのようなリスクに気づき、固定資産税に関心を持つことが、少しでも過大徴収を減らすことにつながると考えます。本稿が、固定資産税について考える契機となれば幸いです。



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