Netpress 第2172号 強い組織を作る第一歩 組織課題の見える化と「社員体験価値」の向上

Point
1.経営に影響を与える組織・人事の状態が最適であるかどうかを判断するための5つの要素があります。
2.強い組織を作る新たな取り組みである「社員体験価値」は、「①入社前 → ②在職中 → ③退職後 という一連のキャリアフローにおいて、社員自身が良き体験や経験を得るなかで育まれる価値の総和」です。


株式会社タナベ経営
経営コンサルティング本部 部長
浜西 健太


1.経営に影響を与える組織・人事の5つの要素

高い社員満足は、よい商品・サービスを生み出し、顧客満足や付加価値を創造し、結果としてビジョン実現・高収益化への「善循環」につながります。


組織・人事領域は、経営に大きな影響を与える要素であり、この領域から改善のファーストステップを検討する企業は多くあります。


以下は、この組織・人事の状態が最適であるかどうかを判断するための5つの要素です。


(1)組織価値志向
自社が何のために存在しているのかという存在価値の理解は、すべての働き甲斐や行動の原点となり、その意識レベルを測定する
(2)相互支援
組織における「上司・部下の関係性」「同僚との相互支援」等、組織の潤滑油ともいえる職場風土の状況を測定する
(3)組織関与
仕事内容や労働環境に満足しているか等、定着・活躍状況を測定する
(4)顧客価値志向
顧客の立場で自身の価値を意識した行動ができているかの姿勢・考え方を測定する
(5)人事制度整備
労働時間管理・人員の適正配置・評価の妥当性・昇給昇格ルールなど、人事諸制度の整備状況を測定する


2.強い組織を作る新たな取り組みが「社員体験価値」

あらゆるモノが飽和した新しい社会において、人々の価値観は「モノ」から「コト」へシフトしていきます。


それに伴い、社員自身の労働対価としても「月給・ボーナス」などの金銭的報酬だけでなく、「体験・経験」などの非金銭的報酬が注目されるようになったという背景があります。


筆者は、「社員体験価値」について、「①入社前 → ②在職中 → ③退職後 という一連のキャリアフローにおいて、社員自身が良き体験や経験を得るなかで育まれる価値の総和」と定義しています。


●1つ目の時間軸 → 「入社前」

1つ目の時間軸は「入社前」です。


重要なキーワードは「採用マインドセット」であり、入社前の段階から、自社でどのような「体験・経験」を得ることができるか、十分にイメージしてもらうことが鍵となります。


具体例を挙げると、愛知県に本社を構えるA社では、採用後のミスマッチ防止と入社後の体験価値のイメージ共有を目的として、希望者に対して職場体験を回数無制限で実施しています。


昨今のコロナ禍においては、職場の状況をライブ配信しながら、チャット機能を使って求職者とコミュニケーションをとるなど、ユニークな取り組みを行っています。


すべては、入社前から「体験・経験」価値を最大化するためです。


●2つ目の時間軸 → 「在職中」

2つ目の時間軸は「在職中」です。ここは、各社の腕の見せ所といえるでしょう。


キーワードは「エンゲージメント(組織と社員の関係性)」であり、在職中にどのような「体験・経験」が得られるかを、「制度」と「風土」の2軸から整えることが鍵となります。


具体的な例としては、多様な働き方を容認できる「キャリア制度」や、社員のパフォーマンスを最大化する「人事制度」、従来からあるリアル中心の「均一的な教育機会」ではなく、環境に制約されることのないデジタル中心の「個別的な学習機会」など、整えられる制度は多数あります。


これらの制度が、働く社員の「体験・経験」価値の最大化につながります。


また、こうした制度を下支えする風土として、「心理的安全性」は追求すべきテーマです。心理的安全性の第一人者であるハーバード・ビジネススクール教授のエイミー・エドモンドソン氏によると、「心理的安全性が高い状態」とは、「チームにおいて、『他のメンバーが自分の発言を拒絶したり、罰を与えたりしない』という確信を持っている状態」「対人関係にリスクのある行動をとったとしても、メンバーが互いに安心感を共有できている状態」を指します。


この定義を踏まえると、不安やおびえがなく、メンバー同士で向き合うことができる関係性をどのように育んでいくかがポイントといえます。


●3つ目の時間軸 → 「退職後」

3つ目の時間軸は「退職後」です。


多くの日本企業が、退職に対してネガティブな反応を示していますが、日本の現状を鑑みると、すでに、この考え方を改めるフェーズ(段階)に来ているといえるでしょう。


少子高齢化に伴い、生産年齢人口は今後も減少する一方であり、これまでの雇用制度の主流であった終身雇用制度が終焉を迎えつつあるからです。


こうした環境下において、従来の「退職=自社との関係を断つ」という考え方に固執してしまうことはナンセンスです。このような考え方を続ける限り、今後も人材不足に悩み続けることは明らかでしょう。


退職後における重要なキーワードは「アルムナイ(卒業生)」です。


退職者を卒業生として捉え、「退職(卒業)後もつながりを持つ」という考え方にシフトしていくことで、退職者が自社で培った「体験・経験」に、卒業後に他社で培った「体験・経験」が組み合わさり、さらにスキルアップした状態で、再度自社に戻ってもらえる機会へつなげたいところです。


ここまで掘り下げてきたとおり、「①入社前 → ②在職中 → ③退職後」の一連のキャリアのなかで、社員が良き体験や経験を得ることができれば、おのずと社員体験価値の総和は高まり、結果としてELTV(Employee Life Time Value:社員生涯価値)の向上につながるのです。



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