Netpress 第2169号 情報活用の視点が重要 人事実務の合理化をどのように進めていくか

Point
1.人事実務の合理化について考えるとき、システム導入による電子化を連想しがちですが、そのほかにもさまざまな合理化の手法や段階があります。
2.ここでは、業務の抜本的な見直しを前提に、どのように電子化・システム化を進めればよいかを解説します。


株式会社グローディア
代表取締役 各務 晶久


1.人事は効率化が最も遅れている領域の一つ

DX(デジタルトランスフォーメーション)が叫ばれて久しいですが、DX化はいうまでもなく、実務の合理化が最も立ち遅れているのが人事領域といえるでしょう。


企業規模を問わず、人事実務の合理化にはさまざまな課題が残されています。


大企業では、電子化などを通じて諸手続の合理化はある程度進んでいますが、人事データの活用に関してはまだまだ十分とはいえず、ノウハウの蓄積も進んでいません。


一方、中小企業では、人事実務のかなりの部分でペーパーレス化さえ進んでいないのが実情です。人事という業務の特性上、どうしても保守的になりがちで、業務の合理化には及び腰となる担当者が少なくありません。


そこで、今回は、人事実務の合理化の着眼点や、その結果どのようなことが可能になるのかを概観し、合理化を阻むものは何なのか、どうすれば効率化を進められるのかについて解説します。

2.まずは「ECRS」の原則で

人事実務の合理化といえば、すぐにシステム導入による電子化を連想しがちですが、そのほかにもさまざまな合理化の手法や段階があります。


ここでは、「ECRS」のフレームワークを当てはめて考えてみることにします。


ECRSのEは「Eliminate(削減)」、Cは「Combine(結合)」、Rは「Rearrange(再配置)」、Sは「Simplify(単純化)」をそれぞれ表わしています。


ECRSでは、次の着眼点をもとに業務の合理化を考察していきます。


・その業務をやめてしまえないか (E)
・業務同士を引っ付けてしまってはどうか (C)
・業務の順序や手順を再構築してはどうか (R)
・もっと業務を単純化できないか (S)


たとえば、次のように一つひとつの業務の意味や目的を考えて合理化に取り組むのです。


・何も疑わずに作成していた辞令の交付をやめたらどうか (E)
・3つの申請書を1枚にまとめてしまってはどうか (C)
・採用適性検査の実施を一次面接通過後に変えてみたらどうか (R)
・年2回の人事評価を1回に減らしたらどうか (S)


これらは電子化よりもずっと簡単で、しかも多くのメリットがあります。


また、多くの企業で業務の電子化に失敗するのは、先にこれらの視点で業務の合理化に取り組まないことが原因です。既存の業務フローを丸ごとシステムで実現しようとするためにコストが膨れ上がる一方で、大した効果が得られないのです。

3.自社のやり方をシステムに合わせる

ECRSによって業務の抜本的な見直しを行った後は、いよいよ業務の電子化・システム化に移行します。このとき大切なのは、自社のやり方をシステムに押し付けないことです。


「うちのやり方に合うシステムが見つからない」という理由でシステム導入に踏み切らない担当者や、膨大な費用をかけて既製のパッケージシステムを自社の業務に合わせてカスタマイズしようとする担当者をよく見かけます。


しかし、極論してしまえば、多くの企業が既製のパッケージシステムで人事業務を回せているのなら、自社で回せないはずがありません。


自社のやり方がシステムに合わないということであれば、それだけムダな業務が多いのではないかと疑ってみたほうがよいでしょう。


システム導入を機に自社の業務のやり方を疑ってみたり、業務のやり方そのものを見直してみたりするほうが、革新的に合理化は進むのです。

4.手続・手順よりも、情報活用の合理化を

電子化によって人事実務の省人化やコストダウンは進みますが、そこで留まっている企業が少なくありません。電子化の本丸は、人事情報の活用にあるのです。


たとえば、どの企業でも営業担当者のローテーションに所属長はネガティブです。担当者を替えるとトラブルが増え、売上が落ちるというのがその理由です。ローテーションを経験させて育成するほうが長期的にみて望ましいと思っても、売上額を持ち出されてはなかなか議論できません。


しかし、DX化に成功している企業では、本当にどれだけ売上が落ちるのかを定量的に検証して議論できるのです。


実際、ある企業では、営業担当者の担当替え前後で売上の増減にどれだけの影響があったのか、その相関を統計的に検証しています。さまざまなセクションで営業担当者が人事異動しましたが、担当者の交代と売上の増減には統計的に有意な相関がみられませんでした。


その企業が企業間取引をする製造業であり、営業担当者個々人が売上に与える影響が非常に少ないことがわかったのです(もっとも、営業力という意味では別の課題も浮き彫りになりました)。


そのほか、人事評価制度の改定による業績指標への影響、大学や専攻分野ごとの入社後のパフォーマンスなど、これまで経験知や感覚で述べられていたことが、実際のデータを用いて仮説検証できるようになるのです。


じ合理化に取り組むなら、経営判断に資する情報を提供できるよう、人事実務の合理化に取り組んでみてはいかがでしょうか。



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