どうすればいい? 男性社員の育児休業取得のための環境整備

■POINT
1.「イクメン」という言葉が以前よりも聞かれますが、男性社員の育児休業の取得率は低いままです。
2.企業としては、男性社員も育児休業を積極的に取得できるような環境を整えていく必要があります。


特定社会保険労務士 岩野 麻子


1.育児休業の取得状況
 厚生労働省の「雇用均等基本調査」によると、2019年度の育児休業の取得率は、男性が7.48%、女性が83.0%でした。いずれも前年度より上昇したものの、男性の育児休業の取得率は依然として低いままです。
 また、取得した育児休業の期間については、2017年4月1日からの1年間に育児休業を終了し、復職した女性の育児休業期間は、「10か月〜12か月未満」が31.3%と最も高く、次いで「12か月〜18か月未満」が29.8%、「8か月〜10か月未満」が10.9%の順となっています。一方、男性の場合は、「5日未満」が36.3%と最も高く、次いで「5日〜2週間未満」が35.1%で、2週間未満が7割を超えていることがわかります。
 このように、男性の育児休業については、取得率だけでなく、取得期間においても女性とは大きな差があります。


2.なぜ男性社員の取得が進まないのか
 男性社員の育児休業の取得が進まない理由を考えてみましょう。
(1) 古い固定観念に縛られている
 一部に、「男性社員が育児休業なんて、仕事で成果を出せないから休みたいだけでは」「育児は母親の仕事なのに、なぜ父親が育児休業を取るのか」といった古い固定観念が残っていることが挙げられます。
(2) 人員が不足している
 中小企業では、限られた人員で業務を担っており、働き盛り世代の社員に育児休業を取得させることが難しいケースが少なくありません。
 しかしながら、育児休業に限らず、病気やケガ、家族の介護等で突然、社員が仕事を休まざるを得なくなるケースは考えられます。1人が抜けただけで業務が回らなくなる状況は、会社のリスクにもなり得るでしょう。
(3) 収入や待遇に不安がある
 通常、雇用保険の被保険者が育児休業を取得する場合、男性・女性を問わず、原則として、子どもが1歳となる日の前日まで育児休業給付を受けることができますし、社会保険料も免除になります。こうした制度はあるものの、一時的に所得が減ってしまうため、不安に思う人もいるようです。
 また、育児休業を取得することで、「元のポジションに戻れなくなるのではないか」「職場復帰後の人事評価に影響するのではないか」という心配もあるようです。育児休業の取得等を理由とする不利益な取り扱いは禁止されていますが、このような不安も育児休業の取得に及び腰になる要因のひとつと考えられます。


3.「ワーク・エンゲージメント」の向上
 「ワーク・エンゲージメント」とは、仕事に関連するポジティブで充実した心理状態を意味します。具体的には「仕事から活力を得ていきいきとしている」(活力)、「仕事に誇りとやりがいを感じている」(熱意)、「仕事に熱心に取り組んでいる」(没頭)の3つが揃った状態とされています。


 ワーク・エンゲージメントが高い人は、持続的かつ安定的に、仕事に働きがいを感じられる状態にあり、会社に貢献する人材になりやすいといえます。
 ワーク・エンゲージメントの高さには、休み方、つまり働く人の休日等の過ごし方も重要になるといわれています。しっかりと休めている場合には、仕事のストレスや疲労も効率よく回復するため、再び熱意をもって、集中して仕事ができるというよいサイクルが生まれやすいのでしょう。
 これを育児休業と関連づけて考えると、子どもが生まれたばかりの時期に、まとまった期間、父親が家にいることは、家族のきずなを深めるうえでもよい機会となるはずです。
 そのため、社員にとって大切な時期を家族といっしょに過ごせるように会社が配慮することは、社員のワーク・エンゲージメントを強化することにつながるでしょう。


4.取得のための環境づくりの留意点
 実際に育児休業を取得させるにはどのようなことに留意すればよいか、3つのポイントを解説します。
(1) 自社で取得可能な育児休業期間を検討する
 まずは、男性社員がどれくらいの育児休業の期間を必要とするのか、会社としては、どの程度の期間までなら取得させることができるのかを検討する必要があります。
 そのうえで、育児休業の取得率を高めつつ、中小企業においては2週間、大企業で代替要員が確保できる場合は、2か月〜4か月の育児休業の取得を目標にしてみましょう。
(2) 「カオスエンジニアリング」を実践する
 トラブル発生時に的確な対処ができるようにするため、サービスやシステムに意図的にトラブルを発生させる訓練を「カオスエンジニアリング」といいます。
 具体的には、ランダムに選ばれた一部の社員について、一定期間連絡が取れない状態で、業務にどのような支障が発生するか、他のメンバーが業務遂行に必要な情報にアクセスできるかなどを試すことで、問題点を洗い出していきます。
 育児休業の取得についても、取得者が業務から一定期間離脱し、連絡が取れない状況が生まれます。そのため、取得者の業務を事前に洗い出して、その人が不在の期間は誰がその業務を担うのか、その人が個人で抱えている情報がどのくらいあるのか、関連するメンバーにどう情報共有しておくのかなどを検討しておきます。
(3) 職場の仲間への感謝も大切
 職場で、子育てが大変であることを理解し、周囲がフォローするような思いやりをもつことが大切です。
 一方の育児休業を取得する社員も、「育児のために休むのは当たり前」ではなく、感謝の気持ちを伝えることで、職場の仲間の理解が得られますし、育児休業を取得しやすい環境の醸成にもつながるでしょう。


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