Netpress 第2168号 65歳以上の複数就業者が対象 雇用保険に新設された「マルチジョブホルダー制度」

Point
1.雇用保険マルチジョブホルダー制度は、複数の事業所で雇用される65歳以上の従業員が対象です。
2.2022年1月に新設された本制度の概要と、会社として対応すべき事項等について確認します。


特定社会保険労務士
小宮 弘子


1.マルチジョブホルダー制度の概要

雇用保険制度は、主たる事業所での勤務が加入要件(週の所定労働時間が20時間以上かつ31日以上の雇用見込み等)を満たす場合に適用されます。この雇用保険の加入要件を満たさない複数就業者へのセーフティネットの必要性については、以前から検討されてきました。


雇用保険マルチジョブホルダー制度は、複数の事業所で勤務する65歳以上の労働者が、そのうち2つの事業所での勤務をまとめることで加入要件を満たす場合に、本人がハローワークに申出をした日から、特例的に雇用保険の被保険者(以下、「マルチ高年齢被保険者」といいます)となる制度です。加入にあたり、事業主の同意は不要です。


労働者が次の要件をすべて満たす場合に、マルチ高年齢被保険者の対象となります。


① 複数の事業所に雇用される65歳以上の労働者であること
② 2つの事業所(1つの事業所における週所定労働時間が5時間以上20時間未満)の労働時間を合計して、週所定労働時間が20時間以上であること
③ 2つの事業所のそれぞれの雇用見込みが31日以上であること


2.関連の手続と会社に求められる対応

(1)加入手続は本人、会社は手続に協力

通常、雇用保険の加入手続は会社が行いますが、雇用保険マルチジョブホルダー制度の場合、各事業所では複数の事業所の労働時間等を把握できないことから、労働者本人が加入手続を行います。


具体的には、労働者本人が、自身の住所または居所を管轄するハローワークに、2事業所分の「雇用保険マルチジョブホルダー雇入・資格取得届」(以下、「マルチ雇入届」といいます)を提出します。この申出をした日から、マルチ高年齢被保険者になります。申出日より前に遡って被保険者になることはできません。


このマルチ雇入届には、事業主記載欄(賃金、雇入年月日、週所定労働時間等)があるため、本人から記載依頼を受けた場合は、申出日が資格取得日になることを考慮し、速やかに対応しなければなりません。


また、手続にあたり確認資料(賃金台帳、出勤簿、労働者名簿等)の提出が必要となるので、これらの書類の交付にも対応することになります。


(2)喪失手続も本人、会社は手続に協力

加入手続と同じく、雇用保険の資格喪失手続も労働者本人が行います。


ただし、雇用保険への加入は本人の申出により行われますが、脱退については通常の被保険者と同様です。離職や被保険者要件を満たさなくなった場合に資格を喪失します。任意脱退は認められていません。


具体的には、次のような場合にマルチジョブホルダーの資格を喪失します。


① 雇用保険の適用対象事業所のうち、1社または2社とも離職した場合
② 雇用保険の適用対象事業所のうち、1社または2社の週所定労働時間が変更され、2社の合計で週所定労働時間が20時間未満となった場合
③ 雇用保険の適用対象事業所のうち、1社の週所定労働時間が5時間未満または20時間以上となった場合


喪失手続は、労働者本人が、自身の住所または居所を管轄するハローワークに、2事業所分の「雇用保険マルチジョブホルダー喪失・資格喪失届」(以下、「マルチ喪失届」といいます)を提出します。


このマルチ喪失届には、事業主記載欄(離職年月日、喪失原因等)があるため、本人から記載依頼を受けた場合は、速やかに対応しなければなりません。失業等給付を受ける予定があれば、離職証明書の作成も必要です。


また、手続にあたり確認資料(賃金台帳、出勤簿、労働者名簿等)の提出が必要となるので、これらの書類の交付にも対応することになります。


(3)3以上の事業所で雇用されている場合

雇用保険の適用対象とする2つの事業所は、労働者本人が選択します。


雇用保険の適用対象となっている2つの事業所のいずれかを離職等した場合でも、対象ではないもう1つの事業所の週所定労働時間を合計して20時間以上になる場合は、引き続きマルチ高年齢被保険者として取り扱われます。


この場合は、従前の2つの事業所についてマルチ喪失届を提出したうえで、改めて新たな2つの事業所についてマルチ雇入届を提出します。


(4)高年齢求職者給付金

マルチ高年齢被保険者が失業等した場合、一定の要件に該当すれば、高年齢求職者給付金を一時金で受給することができます。離職の日以前の6か月に支払われた賃金の合計を180で割った「賃金日額」のおよそ5割〜8割の金額(基本手当日額)が、被保険者であった期間に応じて支払われます。1つの事業所のみ離職した場合は、その事業所の賃金に基づいて支給されます。

3.事業者が注意すべきポイント

(1)本人から申出があれば対応が必要

加入要件を満たした労働者から申出を受けた場合は、雇用保険に加入する必要があります(事業者の同意は不要)。マルチ雇入届の記載依頼を受けたら、速やかに事業主記載事項を記載し、確認書類を本人に交付しましょう。


(2)雇用保険料の負担

65歳以上の複数就業者がマルチ高年齢被保険者になった日(資格取得日)から、事業者には、雇用保険料の納付義務が発生します。資格取得日は、ハローワークから事業主に交付される「雇用保険マルチジョブホルダー雇入・資格取得確認通知書(事業主用)」に記載されています。


(3)不利益な取り扱いの禁止

労働者が、マルチ高年齢被保険者として雇用保険に加入するための申出を行ったこと等を理由として、事業者が不利益な取り扱い(解雇、雇止め、労働条件の不利益変更等)をすることは禁止されています。



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