Netpress 第2166号 企業型を中心に解説 「確定拠出年金法」の2022年の改正内容

Point
1.改正確定拠出年金法が順次施行され、確定拠出年金(DC)について、2022年には「受給開始時期の選択肢の拡大」「加入可能年齢の拡大」「脱退一時金の受給要件の見直し」「他制度との年金資産の移換の改善」「企業型DC加入者のiDeCoの加入要件の緩和」といった、主に5つの改正が行われます。
2.ここでは、企業型DCに焦点を絞って、4月以降、確定拠出年金制度がどう変わるのかを確認します。


ジャパン・ペンション・ナビゲーター株式会社
年金コンサルティング部


確定拠出年金(DC)は、事業主や加入者個人が拠出する一定の掛金を、加入者個人が自己責任で運用して、老後資金を確保する年金制度です。事業主が実施する「企業型DC」と、個々人が加入する「個人型(iDeCo)」があります。DCでは、事業主は規約で定めた額を拠出すればよく、運用に失敗しても、かつての総合型の厚生年金基金等の確定給付制度にみられる不足金の補填義務が、一切ないのが特徴です。


以下では、企業型DCに焦点を絞って、4月からの施行日順に、法改正の具体的な内容を解説します。

1.受給開始時期の選択肢の拡大【2022年4月1日施行】

従来、60歳から70歳までの間で選択が可能となっていたDC老齢給付金の受給開始の上限が、公的年金の繰り下げ受給開始年齢の引き上げに合わせて、75歳までに引き上げとなりました。これにより、老後資金に余裕がある加入者は、75歳までの間、非課税(現在、特別法人税の課税は凍結中)での運用が可能となりました。



2.加入可能年齢の拡大【2022年5月1日施行】

事業主が従業員を企業型DCの加入者とし続けることができる年齢(加入可能年齢)は、現行では65歳到達までですが、今後は70歳到達までに延長になります。また、60歳以降の加入は、60歳到達前と同一の事業所に継続して使用される厚生年金の被保険者に限定されていましたが、改正により撤廃されます。



3.脱退一時金の受給要件の見直し【2022年5月1日施行】

DCの脱退一時金の受給要件は、国民年金の保険料免除者であることなど、厳しく制限されているため、外国籍の加入者が退職し、帰国しても給付を受けることができません。60歳到達まで年金原資を塩漬けすることとなり、改善が求められていました。今回の改正では、脱退一時金の受給要件を見直し、外国籍の加入者は、帰国する際に、掛金の拠出期間が5年以下または資産額が25万円以下であれば、脱退一時金を受給できるようになります。外国人を多く雇用する事業主にとって、企業型DCの導入意義が深まる改正です。

4.他制度との年金資産の移換の改善【2022年5月1日施行】

企業年金の施策では、継続的な老後資金確保の環境づくりのため、個人の転職等の際、DCと確定給付年金(DB)との間等に代表される、制度間の資産移換を拡充させてきました。今回の改正では、①終了したDBからiDeCoへの資産の移換と、②加入者の退職等に伴う企業型DCから通算企業年金への年金資産の移換が可能になります。(通算企業年金は、企業年金連合会が実施する確定給付型の年金です。原則として65歳から受給することができ、80歳までの15年間、途中で死亡しても給付の保証がある終身年金となっています。)



5.企業型DC加入者のiDeCoの加入要件の緩和【2022年10月1日施行】

現行では、企業型DC加入の従業員がiDeCoに加入できるのは、事業主が「規約にiDeCoに同時加入できる」旨を定め、かつ、「規約にマッチング拠出(本人拠出)を定めていない」場合に限られ、事業主掛金の上限は、通常より低く抑えられているため、企業型DC加入者がiDeCoを併用できる先は少ないというのが実情です。今回の改正では、これらの要件が撤廃になり、従業員は一定の条件の下でiDeCoに加入できるようになります。企業型DCの拠出限度額から事業主掛金を控除した残余の範囲内の額で、iDeCoに拠出が可能となります。




下表で具体的な拠出額を解説します。



企業年金の加入状況
企業型DCの
事業主掛金
iDeCo掛金の
拠出上限
対応状況
企業型DC
DB等

加入
未加入
3.5万円以下
2万円
今回の
改正で
変更
3.5万円超
合計5.5万円を
超えない範囲

加入
加入
1.55万円以下
1.2万円
1.55万円超
合計2.75万円を
超えない範囲

未加入
加入

1.2万円
従来
どおり

未加入
未加入

2.3万円


①では、事業主掛金が3.5万円以下であれば、従業員は2万円までiDeCo掛金を拠出でき、3.5万円を超えると、合計が5.5万円を超えない範囲となるように調整されます。②では、1.55万円以下であれば、1.2万円まで拠出でき、1.55万円を超えると、合計が2.75万円を超えない範囲となるように調整されます。このほか、③では1.2万円まで、④では2.3万円まで拠出できるのは、いまと同じです。


企業型DCやDB等を実施する事業主や、これから福利厚生の拡充を図りたい事業主にとって、年金制度は法令による制約も多く、特に法改正時の自社制度の見直しは不安も多いかもしれません。退職金制度の導入や改正、今回の改正点なども踏まえた自社の年金制度の見直し等に際しては、専門家にご相談ください。(SMBCグループのジャパン・ペンション・ナビゲーター株式会社(J-PEC)は、2000年9月の創立以来、1,000件近くの年金・退職金制度のコンサルティング事案を扱っております。)



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