対応が急務! 経理業務のペーパーレス化 「5つのステップ」

■POINT
1.テレワークが普及してもペーパーレス化が進まず、在宅勤務ができない経理担当者も少なくありません。
2.ここでは、業務の効率化にもつながる経理業務のペーパーレス化の進め方を紹介します。


公認会計士 原 幹


 新型コロナウイルス感染症対策の一環としてのテレワークの普及とともに、従来は「紙」や「ハンコ」などのアナログ処理によっていた業務も大幅に見直しが行われ、テレワークに適した業務設計のニーズが高まっています。
 なかでも経理業務は、「紙」と「データ」を併存させた業務となっており、業務自体がデジタルデータと相性がよく、ペーパーレスの効果も出やすいという特徴があります。
 ペーパーレスの一歩を踏み出すときには、方向性を正しく設定することが必要で、やみくもに「紙を廃止する」ことのみにこだわっても成果は出にくいでしょう。ペーパーレスは、業務効率や生産性を向上させる手段のひとつであり、目的そのものではないからです。
 したがって、ペーパーレスを目指すプロジェクトとして立ち上げていく際には、ペーパーレスそのものを目的にするよりは、「業務効率化」の手段のひとつとしてペーパーレスを位置づけるか、もしくは達成度合いを測る指標としてペーパーレスの度合いを設定するとよいでしょう。
 以下では、業務の効率化にもつながる経理業務のペーパーレスを進める5つのステップを紹介します。


●ステップ1:現状調査
 改善対象となる業務プロセスの範囲(スコープ)を決め、それらにまつわる現状の情報収集を行います。この作業は、担当者へのヒアリングと資料調査を並行して進めます。
 この作業を通じて、ペーパーレス化の支障となるボトルネックの要因を識別します。


●ステップ2:業務プロセスの再設計
 現状調査の結果を踏まえて、ペーパーレスを前提とした業務プロセスの見直しを行い、廃止・統合が可能なプロセスがないか、次のような観点から検討します。
 ・人による入力やチェックの処理があれば、自動化ができないか(システム導入によって解消できないか)、再入力は本当に必要か
 ・プロセスそのものを不要にできないか(捺印などのプロセスはワークフロー処理に移行し、原則として紙を使わない形態に変更するなど)
 これらの作業は、業務に精通している社内のメンバーを中心に進めるのが効率的ですが、進め方のノウハウがない場合は、業務設計に精通した外部のコンサルタントの力を借りるのもよいでしょう。
 また、会議の設定や事務連絡など日々のコミュニケーションに伴う文書作成業務も、ペーパーレスを前提として組み立てられないか検討しましょう。


●ステップ3:ITインフラ整備
 業務プロセスの再設計に見通しが立ったら、並行してITインフラの準備を進めます。
ペーパーレスと、インターネットを介してさまざまなサービスを利用できる「クラウドサービス」との相性は非常によいので、業務を組み立てるインフラとして、クラウドサービスの活用を前提に考えるのがよいでしょう。
 まず、自社で運用しているセキュリティポリシーの見直しを行います。原則として、取り扱う情報のレベルに応じてセキュリティポリシーを定めますが、このレベルを紙文書からデジタル文書に変更した際に見直す必要があるかを検討します。
 セキュリティポリシーの見直しに伴い、社内システムやクラウドサービスのセキュリティ設定やアクセス権限を見直します。内部統制の観点からは、主要な機能に「作成」「承認」の権限を1人に集中させるべきではなく、また不正な承認機能の利用を防ぐため、必ず複数の従業員に権限を割り当てておきましょう。
 すでに運用されている社内システムから一足飛びにクラウドサービスに移管するのは難しく、たいていは社内サーバなどで業務処理を行う「オンプレミス」と、クラウドの共存や使い分けを図っていくことになります。そのときに、見直しをしたセキュリティポリシーや権限情報に基づいて、混乱なくデータ処理ができるかどうかを試行します。
 また、ペーパーレスの推進は、必然的に場所の制約を取り払い、社内外を問わず、あらゆる場所から業務データにアクセスできることにつながっていきます。この際に、「誰が」「いつ」「どの文書に」アクセスしたかを特定できるようにするため、各種システムの「操作ログ」を必ず残すようにしましょう。不正に対する対策にもなり、従業員の作業状況を把握する基礎データとしても機能します。


●ステップ4:トライアル運用
 業務プロセスとITインフラの整備に目処が立ったところで、局所的な業務で運用を始めます。
 トライアル運用では、主に運用面での改善点を発見して、次の改善プロセスに進めるのが目的です。仮に業務が止まっても、影響のない範囲にとどめて試行錯誤しつつ運用を進めることで、本格運用における大きなリスクを取り除くことが可能となります。
 具体的には、経理業務のなかでも支払処理に限定する、仕訳登録以降の処理はペーパーレスを前提とする、などの方法があります。
 そして、トライアル運用において重要なのは、運用することそのものよりも、運用に伴う課題を収集してそれに対する改善点を検討することです。
 定期的なミーティングの場を設け、プロジェクトメンバーと部門のメンバーで、プロセスの改善やシステムとの連携で変えられないか、といった議論を進めます。


●ステップ5:本格運用
 本格運用の段階では、新たな業務ルールを全社に展開します。
 現場の一時的な抵抗やストレスは、この時期がピークになりますが、トライアル運用で蓄積した課題を解決する方向性が見い出されることで、定着をスムーズに進めることができます。
 ペーパーレスは、組織のデジタル化を進めるための最初のステップに過ぎません。運用に伴うフィードバックのサイクルを回していける組織基盤をつくり上げていきます。


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